『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
激しいゲリラ豪雨を切り裂き、神社の境内を抜けた銀と毒島冴子は、ついに先行していた平野コータ、高城沙耶、鞠川静香の3人と合流を果たした。山道の終着点、高級住宅街の入り口近くの陸橋の下。そこには、先に到着して息を潜めていた小室孝と宮本麗のオフロードバイクの姿もあった。
「銀さん、毒島先輩! 無事だったんですね!」
孝が雨に打たれながら駆け寄ってくる。その顔には、先ほど銀に冷酷に突き放された時の屈辱は消え、純粋に強力な戦力が戻ったことへの安堵が浮かんでいた。
「無駄口は叩くな。……それより、前方はどうなっている」
銀はカブから降りると、ツナギの雨水を払いながら、陸橋の先にある街の動脈――御床大橋(みとこおおはし)の方向を指差した。
「最悪よ……」
沙耶がずぶ濡れの髪をかき上げ、陸橋のフェンス越しに大通りを見下ろしながら忌々しそうに吐き捨てた。
「大橋の入り口を見てみなさい。これじゃあ渡れるわけがないわ」
銀がフェンスに近づき、鋭い三白眼で眼下の光景を見下ろす。
御床大橋の大型ゲート前は、混沌の極みに達していた。
街からの避難民を阻止するため、警察の大型装甲車や頑強なスチール製のバリケードが二重三重に設置され、完全に道路が封鎖されている。機動隊の防盾(シールド)の後ろからは、拡声器を使った警察官の絶叫が雨音に紛れて聞こえてきた。
『繰り返す! 市内全域に非常事態宣言が発令された! 徒歩、車両を問わず、これ以上の通行は認められない! 速やかに退去しなさい!』
だが、封鎖線に押し寄せる何百人もの市民はパニックを起こし、暴動へと発展していた。警察官に掴みかかる者、バリケードを強引に乗り越えようとする者。そして最悪なことに、その人間の密集地帯(パニック)に向かって、周囲の繁華街から数千規模の『奴ら』の黒い群れが、音と気配に引き寄せられて津波のように押し寄せていた。
「警察の封鎖線と、パニックを起こした暴徒、そこに後ろから化け物の大群が挟み撃ちか。完璧な圧殺の檻だな」
銀は冷淡に状況を分析した。
「どうするのよ……! 私の家はあの川の向こう側なのよ!? 橋を渡れなきゃ、お父様もお母様も……っ!」
沙耶が声を荒げる。あの天才少女が、生家の危機を前にして初めて年相応の取り乱し方を見せていた。
「落ち着きなさい、高城さん」
冴子が沙耶の肩にそっと手を置き、静かに諭した。
「銀の言う通り、あの正面の修羅場に飛び込むのは自殺行為です。ですが、彼ならもう別のルートを頭の中で組み立てているはず。……そうでしょう、銀?」
冴子の白刃のような視線が、暗闇の中で銀を捉える。
銀はクロスボウの残弾を確認しながら、冷酷に、しかし確実な survival(生存)の解を導き出していた。
「正面突破は100%死ぬ。だが、あの封鎖線に気を取られているおかげで、橋のすぐ下にある『河川敷の管理用通路』の手前は手薄だ。あそこには保線用の頑丈なフェンスがあるが、工場の工具(プライヤー)があれば1分で切断できる。……バイクはそこに捨てて、徒歩で橋のトラス構造(鉄骨の隙間)を伝って対岸へ渡るぞ」
「鉄骨を歩いて渡るって、この大雨のなかをですか!?」
平野が驚愕して声を上げる。一歩足を踏み外せば、激流の床主川へと真っ逆さまだ。
「嫌ならあの化け物の津波に混ざるか、ここで警察に射殺されるか選べ。……行くぞ、時間がねえ」
銀は迷うことなく陸橋の階段を駆け下り始めた。冴子がそのすぐ後ろにピタリと従う。
小室孝は、自分の想像を遥かに超える銀の冷徹で迅速な判断力に、息を呑みながらも、バットを握り直して叫んだ。
「みんな、銀さんに遅れるな! 走るぞ!」
一行は激しい雨のカーテンの中、大橋の直下に広がる、暗い暗い死の淵へと向かって疾走を開始した。
(第8話【後編】へ続く……)