『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』   作:トート

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第8話:御床大橋の封鎖【後編】

激しい雨が鉄骨を打ち鳴らす音が、ゴオゴオと不気味に響いている。

銀の読み通り、大橋の下部に位置する河川敷の管理用フェンス付近は、上の道路の暴動に『奴ら』の意識が集中しているおかげで奇跡的に手薄だった。銀はツナギのポケットから頑強なプライヤー(ペンチ)を取り出すと、雨に濡れた鉄線を力任せに数箇所切断し、人間が一人通れる隙間を一瞬で作った。

「ここから大橋のキャットウォーク(管理用通路)に入る。足元は網目状の鉄板だ。滑るから慎重に行け」

銀はそう言うと、真っ先に暗い鉄骨の隙間へと滑り込んだ。

すぐ下を流れる床主川は、ゲリラ豪雨によって完全に濁流と化し、不気味な咆哮を上げて渦巻いている。一歩足を踏み外せば、生ける屍になる前に泥水に呑まれて死ぬのは確実だった。

「ひえぇぇ……高いわ、高すぎるわよぅ……」

静香先生が足をすくませながらも、平野に支えられて必死に鉄骨を這うように進む。

高城沙耶もまた、自慢のプライドを押し殺し、銀の背中だけを睨みつけながら一歩一歩進んでいた。

だが、地獄は彼らを簡単には見逃さなかった。

上層の道路から、暴徒に押し出された、あるいは自ら獲物を求めて転落した『奴ら』が、ボタボタと鈍い音を立ててキャットウォークの鉄板の上に落下してきたのだ。

「ガアァァッ!」

前方から、泥と血にまみれた元機動隊員の『奴』が、防弾ベストを着たまま四つん這いで銀に向かって這い寄ってくる。通路の幅は一人分しかなく、避ける隙間はない。

「小室、平野、動くな! 揺らすなよ!」

銀は冷静に命じると、狭い空間でクロスボウを真っ直ぐに構えた。

シュバッ――。

放たれた矢は、ヘルメットの隙間の眼窩を正確に射抜いた。脳を破壊された巨体が鉄板の上に転がる。銀は躊躇なくその死体を踏みつけ、強引に濁流の中へと蹴り落とした。

しかし、背後からも不穏な足音が迫っていた。後方からキャットウォークに侵入してきた3体の『奴ら』が、最後尾の宮本麗と小室孝に牙を剥こうとしている。

「しまっ――」

孝がバットを構えようとするが、狭い鉄骨の足場では満足に振り抜くことができない。

「下がりなさい」

その声を合図に、毒島冴子の白樫の木刀が、突き出すような鋭い軌道で闇を裂いた。

大上段からの振り下ろしが使えない狭所なら、点(突き)で殺す。冴子の放った神速の突きが、先頭の『奴』の喉笛を正確に打ち抜き、そのまま首の骨を破砕した。

「素晴らしいわ、冴子! 完璧な間合いの管理ね!」

沙耶が思わず声を上げる。

冴子は表情一つ変えず、死体を足蹴にして二人目の『奴』の眉間へと木刀の先端を叩き込んだ。激しい雨に打たれながら戦う彼女の姿は、冷酷なまでに美しかった。

「銀、前方はクリアですか?」

冴子が息を切らすことなく、階段の先を行く銀に声をかける。

「ああ、対岸の非常階段が見えた。もう一息だ。……行くぞ」

銀は次の矢を装填しながら、再び前進を開始した。

男女のロマンスなど1ミリも存在しない、ただ生き残るためだけに機能する二人の冷徹なコンビネーションが、大橋の空中回廊という絶望的な死地を、確実に切り拓いていく。

一行は激流の上を渡りきり、ついに川の向こう側――高城邸や南リカのマンションがある西側エリアへと、誰一人欠けることなく足を踏み入れたのだった。

(第8話・了)

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