『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
御床大橋のキャットウォークを渡りきり、対岸の非常階段を駆け下りた一行を待っていたのは、依然として容赦なく叩きつけるゲリラ豪雨だった。
川を渡ったとはいえ、西側エリアも安全とは程遠い。大通りからは乗り捨てられた車の警報機が虚しく鳴り響き、雨のカーテンの向こうには、音を失って彷徨う『奴ら』の影がいくつも揺れている。
「ハァ、ハァ……っ。なんとか、渡れたのね……」
高城沙耶が陸地に足をついた瞬間、膝から崩れ落ちそうになるのを平野コータが慌てて支えた。全員、ずぶ濡れで体力を激しく消耗している。特に鞠川静香は、寒さで白い歯をガタガタと鳴らしていた。
「ここに長居はできねえな。雨音で気配は消せてるが、この寒さだ。体温を奪われれば動けなくなる」
銀はクロスボウを濡らさないようツナギの懐で庇いながら、鋭い三白眼で周囲の建物をスキャンした。
「銀の言う通りです。動けなくなったところを囲まれれば、それでお終いですね」
冴子は木刀を構えたまま、一瞬の油断もなく背後の索敵を続けている。雨に濡れた紫の長髪が彼女の白い肌に張り付いて凄艶な雰囲気を醸し出していたが、その佇まいはどこまでも冷徹な武人のそれだった。
「ねえ、私の家はここから西に数キロよ! 早くお父様たちのところへ行きましょう!」
沙耶が焦燥感を露わにして叫ぶ。
「却下だ。この視界と足で数キロ移動するのはリスクが高すぎる。まずは近くで暖を取り、武器と物資を再編成できる強固なシェルターが必要だ」
銀は沙耶の意見を冷酷に一蹴した。
「なんですって!? あんた、私の親がどうなってもいいって言うの!?」
「ああ、興味ねえな。俺にとっては、今ここにいるお前らという『手駒』が全滅しないことの方が最優先だ」
銀の徹底した冷淡さに、沙耶は悔しそうに唇を噛んだ。しかし、小室孝は銀の判断の正しさを理解していた。
「……高城、銀さんの言う通りだ。今の俺たちじゃ、途中で化け物の群れに捕まったら全滅する」
「あ、あのね……! もし、近くて安全な場所っていうなら、心当たりがあるわ〜」
運転席から飛び出してきた時のままの薄着で震えていた静香先生が、おずおずと手を挙げた。
「静香先生、どこですか!?」
孝が身を乗り出す。
「ここからすぐ近くの高級マンションにね、友達の家があるの。南リカっていう、空港の警察でスナイパーをやってる子なんだけど……。今は東京へ出張中だから留守のはずだし、すっごくセキュリティがしっかりしてるのよ〜」
「警察のスナイパーの家……!?」
その言葉に、それまで大人しくしていた平野コータの目が闘牛のようにカッと見開かれた。
「特殊部隊の隊員の自宅なら、絶対に、確実に『アレ』がありますよ! 一般家庭には絶対にない、僕たちの戦況をひっくり返せるだけの装備が!」
銀の目が微かに細まった。
「決まりだな。警察官の家なら、頑丈なドアと、立て籠もるための備蓄、そして何より使える『道具』があるはずだ。静香先生、案内しろ」
「は、は〜い。こっちの裏道から行けばすぐよ」
一行は静香を先頭に、雨の濁流が流れる路地裏へと滑り込んだ。
しかし、その目的地である高層マンションの入り口には、すでに住人たちの悲鳴を聞きつけた『奴ら』の不穏な影が集まり始めていた。
(第9話【後編】へ続く……)