『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』   作:トート

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第10話:泥濘の死闘【後編】

小室孝の緊迫した声に促され、銀と毒島冴子はリビングの大きなガラス窓へと歩み寄った。

最上階のベランダから見下ろす床主市の夜景は、すでに死に絶えていた。街灯は消え失せ、あちこちで炎上する車両の赤黒い炎だけが、激しい雨に打たれながら不気味に揺れている。

「銀さん、あれを見てくれ……」

孝が指差す先、マンションの敷地を囲む頑強な鉄製フェンスの周囲に、言葉を失うほどの「黒い影」が集結していた。その数、およそ数百。

ゲリラ豪雨の激しい雨音に刺激されたのか、それとも大橋から流れてきた暴徒の生き血を追ってきたのか、周辺のストリートにいた『奴ら』が津波のようにマンションのエントランスへと押し寄せていた。強固なフェンスが、奴らの凄まじい質量によってミシミシと不気味な音を立てて歪み始めている。

「フェンスが破られるのは時間の問題ね。ここが破られたら、一階のガラス扉なんて一瞬で粉砕されるわよ」

沙耶が腕を組み、冷や汗を流しながら眼鏡の奥の目を細めた。

「……平野、準備はいいか」

銀は振り返り、リビングのテーブルでライフルを構え直した肥満体の少年を見つめた。

「バッチリです、銀さん」

平野コータの目は、昼間の怯えたオタクのそれではない。手に入れたスプリングフィールドM1Aライフルのストックを正確に肩に当て、闇夜を見据えるその横顔には、本物の狙撃手の狂気が宿っていた。

「スコープの調整は完了しています。この大雨と暗闇ですが、フェンスの前に密集しているあいつらなら、外す方が難しいですよ」

「よし。小室、お前は一階の非常階段の扉にバリケードを築け。家具でも何でもいい、重いものを詰め込め」

銀の鋭い指示に、孝は「了解!」と叫んでリビングの重い棚へと走り出した。

「冴子、俺たちはベランダから迎撃だ。弾を無駄にするなよ」

銀は南リカのコレクションから拝借したベネリM4ショットガンを手に取ると、装弾数いっぱいの散弾(12ゲージ弾)をシェルキャリアへと滑り込ませた。

「ええ。この豪雨の夜に相応しい、賑やかな宴になりそうですわね」

冴子は私服のジーンズのポケットに予備の弾薬を詰め込み、銀の真横に並んでベランダの戸を開け放った。激しい雨風がリビングへと吹き込み、二人の髪を乱す。

「平野、始めろ」

銀の冷酷な合図。

パァンッ!!

夜の静寂を切り裂いて、M1Aライフルの鋭い銃声が響き渡った。

はるか下、フェンスにへばりついていた先頭の『奴』の頭部が、正確に撃ち抜かれて消し飛ぶ。衣服や泥水を飛び散らせながら、怪物が崩れ落ちた。

「次ッ!」

コータはボルトを凄まじい速さで操作し、二発目、三発目を叩き込む。放たれる銃弾は、確実に死者たちの脳を破壊し、フェンスへの圧力を減らしていく。

ガガガガガッ! とフェンスの一角が激しく折れ曲がり、数体の『奴ら』が敷地内へと侵入してきた。

「こっちの間合いだ」

銀はベネリM4の銃口を下方へと向け、引き鉄を引いた。

ズドォンッ!!

強烈な反動とともに、銃口から眩い火炎が走る。

散弾の圧倒的な面制圧の火力が、侵入してきた3体の『奴ら』の頭部と上半身を一瞬で肉片へと変え、エントランスのコンクリートへと叩き付けた。銀の身体は整備士としての強靭な体幹によって、散弾銃の跳ね上がりを完璧にコントロールしていた。

「素晴らしい威力ですね、銀。では、私も!」

冴子は手にした木刀ではなく、銀から手渡されていた予備の拳銃(スミス&ウェッソン)を両手で構えた。彼女は銃の専門家ではない。しかし、武道で培った圧倒的な「芯のブレなさ」で、至近距離まで迫った『奴ら』の頭部へ、正確に9ミリ弾を叩き込んでいく。

激しい銃声と硝煙の匂いが、南リカの高級マンションを包み込んでいく。

恋も結婚も、温かい未来などさらさら存在しない世界の終わり。しかし、激しい豪雨の夜、銃火の光に照らされた二人の怪物の顔には、この地獄を rational(合理的)に支配しているという、絶対的な強者の笑みが浮かんでいた。

(第10話・了)

 

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