『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
「いいか、よく聞け。無駄な感傷で動けば全員死ぬ」
銀はカブのエンジンを切ると、車体を壁に預け、手にしたベネリM4ショットガンを低く構えた。その鋭い三白眼は、父親の肉を貪る化け物どもと、フェンスの奥で震える名も知らぬ少女の配置をミリ単位でスキャンしていた。
「平野、お前はそこから動くな。M1Aで子供の背後にいる3体の頭を順に狙撃しろ。一発でも外せばあのガキの脳みそが弾け飛ぶ。できるか」
「……やります。僕を誰だと思ってるんですか」
平野コータの目が据わり、ライフルの銃口をフェンスの隙間へと正確に向けた。オタクの怯えは消え、そこには冷徹な狙撃手の顔があった。
「小室、宮本。お前らはバイクで路地の入り口を塞げ。俺たちが子供を回収して戻るまでの『肉の壁』になれ。音を聞きつけて周囲の家から湧いてくる奴らを一歩も通すな。……声は出すなよ」
銀の底冷えする視線に、孝は喉まで出かかった言葉を飲み込み、ただ無言で激しく頷いた。麗もまた、銀の圧倒的な殺気に圧されながら、モップの槍を構えて路地の境界線へと静かに走る。
「冴子。お前は俺の左だ。漏れたやつを叩け」
「ええ。了解しました、銀」
冴子は白樫の木刀を正眼に構え、銀の斜め後ろにピタリと影のように寄り添った。その顔には、再び冷徹な武人としての鋭い光が戻っていた。
「作戦開始だ」
銀の短い呟きと同時に、平野のライフルが咆哮した。
パァンッ!!
激しい銃声と共に、少女のすぐ後ろまで迫っていた『奴』の頭部が消し飛んだ。
「次ッ!」
平野がボルトを猛烈な速さで引き、2発目、3発目を連射する。寸分の狂いもない狙撃により、子供を狙っていた化け物どもが次々と泥人形のように崩れ落ちていく。
「行くぞ!」
銀は泥水を跳ね上げて路地を疾走した。父親の肉を貪っていた群れが、銃声と銀の足音に反応して一斉に首を巡らせる。
ズドォンッ!!
銀の放った12ゲージの散弾が、最前線の『奴ら』の胸部と顔面を容赦なく肉片へと変えた。凄ましき硝煙の臭いが路地に立ち込める。
「ガァァァッ!」
横の生垣から飛び出してきた元主婦の『奴』に対し、冴子の木刀が電光石火の速さで下段から顎を突き上げた。バキィ、と骨の砕ける音が響き、化け物が垂直にのけぞる。その脳天を、銀がベネリの銃床で冷酷に叩き潰した。
「手を伸ばせ!」
銀は頑強な鉄製フェンスの前に到達すると、ツナギのポケットからプライヤーを抜く間も惜しみ、フェンスの上部の尖った鉄柵を素手で掴んで強引に乗り越えた。
恐怖で硬直している小さな少女の身体を、その逞しい腕で一本の荷物のように抱え上げる。
「お、お父さん……お父さんが……っ!」
少女が銀の胸元で激しく泣き叫ぶ。
「死んだやつは生き返らねえ。生き残りたいなら声を出すな、舌を噛み切るぞ」
銀の容赦のない言葉に、少女は恐怖からか、あるいは銀の持つ絶対的な強さに圧倒されたのか、小さな両手で銀のツナギをギュッと握り締め、涙を流しながらも声を押し殺した。
「回収した! 退くぞ!」
銀が子供を抱えたままフェンスを跳び越え、冴子が殿を務めながら路地を引き返す。入り口では、孝と麗が息を荒げながら、死に物狂いで新しい『奴ら』を無言で食い止めていた。
「全員、バイクに乗れ! 出すぞ!」
銀はカブの元へ戻ると、少女を自分のツナギの腹の前に強引に押し込み、その上から高城沙耶に少女の身体を固定させた。
「ちょっと、この子を私の前に挟むの!?」
沙耶が驚くが、銀は構わずにキックペダルを踏み抜いた。
「文句を言うな、高城。お前の家までの臨時の『貨物』だ。落とすなよ」
トトトトトトトト……!
再び鳴り響くカブの排気音。一行のバイクの列は、父親を失った名も知らぬ少女を最も合理的な作戦で救出し、さらなる生存者の群れを撥ね退けながら、ついに高城沙耶の生家である巨大な要塞、高城邸の門前へと向かってアクセルを開放した。
世界の終わりに、一人の無垢な少女が彼らの歪な『パーツ』に加わった。そこには温かい救済などはなく、ただ冷徹な生存の計算だけが、彼女を地獄の淵から引き揚げたのだ。
(第11話・了)