『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』   作:トート

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第12話:一時的な決別【前編】

床主(とこなめ)市の高級住宅街を見下ろす丘の頂上。そこには、周囲の喧騒から隔離された巨大な城塞――高城邸がそびえ立っていた。

頑強な鉄筋コンクリートの白壁、上部に張り巡らされた有刺鉄線。

そして門前には、日本刀や改造された猟銃を手にした、黒い突撃服を着た男たちが鋭い目を光らせている。沙耶の父親・高城壮一郎が率いる地域防衛組織の私兵たちだった。

トトトトト……。

銀たちの乗る3台の郵政カブが門前に滑り込むと、男たちが一斉に銃口を向けた。

「動くな! 何者だ!」

「下がりなさい! 私よ、高城沙耶よッ! 門を開けなさい!」

沙耶が銀の背中から身を乗り出し、声を張り上げる。その姿を認めた私兵の隊長が、ハッとしたように無線に叫んだ。

「沙耶お嬢様だ! 門を開けろ!」

重い鉄門がゆっくりと開き、一行は敷地内へと迎え入れられた。広大な庭園には、避難してきた何百人もの市民がテントを張り、男たちが厳重な巡回を行っている。これまでの地獄が嘘のような、圧倒的な武力による「秩序」がそこにはあった。

「沙耶……! 無事だったのね!」

母屋から走ってきたのは、仕立ての良いスーツを身に纏い、腰に実戦用のナイフを帯びた美しい女性――沙耶の母親、高城百合子だった。沙耶は母親の胸に飛び込み、初めて張り詰めていた糸を切って涙を流した。

銀はカブから降りると、救出した少女をツナギの腹から引き剥がし、近くにいた静香先生の腕の中に無造作に押し込んだ。

「先生、そのガキを風呂にでも入れてやれ。お荷物の手入れも大人の役目だろ」

「は、は〜い。よく頑張ったねぇ、もう大丈夫よ〜」

静香が少女を優しく抱きしめる。少女は銀のツナギの裾を名残惜しそうに見つめていたが、静香に連れられて奥へと歩いていった。

「お前たちが、娘を送り届けてくれた生存者か」

重厚な足音と共に、庭園の奥から一人の巨漢が現れた。

和服の上に羽織を引っ掛け、腰に尋常ではない長刀を差した男――高城壮一郎。その眼光は猛禽類のように鋭く、周囲の私兵たちを一言で平伏させる圧倒的な支配者のオーラを放っていた。

小室孝や平野コータがその威圧感に思わず息を呑む。壮一郎の視線は、孝たちの持つM1Aライフルやバットを通り過ぎ、最後尾でベネリM4ショットガンを無造作に肩に担ぐ、ツナギの男――銀のところでピタリと止まった。

壮一郎の目が、不審な部外者を排除しようとする鋭い光に変わる。

「……そこのツナギの男。お前は娘と同じ学園の生徒ではないな。その服の汚れ、そしてその佇まい……。なぜ娘たちと行動を共にしている」

周囲の私兵たちが、銀を取り囲むようにじりじりと間合いを詰めてくる。不穏な空気が庭園に張り詰めた。

「俺は銀。裏の神崎モータースの整備士だ。あんたの娘をここまで運ぶ『足』として、こいつらに利用されてただけだよ」

銀は周囲の銃口に怯むどころか、壮一郎の目を冷徹な三白眼で真っ直ぐに見返した。その声には、一切の敬意も恐怖も含まれていない。

「ほう。道具として娘たちに付いてきたか。だが、我が敷地に入った以上、素性の知れぬ武器を持った部外者を自由にさせるわけにはいかん。その散弾銃をこちらへ引き渡してもらおうか」

壮一郎が冷酷に言い放つ。

「断る」

銀の即答に、私兵たちが一斉にボルトを引き、銃撃の体制に入った。

「銀さん、やめろッ!」

孝が焦って止めようとするが、銀はそれを完全に無視した。

「あんたらの身内のルールを俺に押し付けるな。この銃は俺が生き残るための最低限のパーツだ。これを渡せって言うなら、俺は今すぐこの門を出ていく。……高城、お前の送り賃はここに置いていく。これで契約満了だ」

銀はそう言うと、本当にカブのキーを地面に放り投げ、躊躇なく踵(きびす)を返して歩き出した。その徹底したドライさと、死を恐れない合理性に、壮一郎は一瞬だけ驚愕に目を見開いた。

「待ちなさい、銀」

凛とした冴子の声が、歩き去ろうとする銀の背中にかけられた。

銀がわずかに足を止めると、冴子は白樫の木刀を携えたまま銀の真横へと進み出た。そして、銃口を向けたまま硬直している高城壮一郎を正面から見据える。

「高城先生、彼の非礼はお許しください。ですが彼はこの地獄の街を、その圧倒的な状況判断と技術で切り拓いてきた本物の武人です。彼をここで手放すことは、高城邸にとっても大きな損失かと存じますが?」

全国大会優勝の経歴を持つ毒島流の令嬢、冴子の言葉には重みがあった。壮一郎は冴子の顔、そして銀の冷徹な佇まいを交互に見つめ、やがてフッと不敵な笑みを漏らした。

「……毒島流の令嬢がそこまで言うか。面白い男だ。神崎の頑固親父が育てただけのことはある。いいだろう、銃の携帯は認める。ただし、敷地内での勝手な行動は許さん」

「最初からそのつもりだ」

銀は表情一つ変えず、母屋の方向へと歩み出した。

(第12話【後編】へ続く)

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