『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』   作:トート

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第12話:一時的な決別【後編】

高城壮一郎との張り詰めたファーストコンタクトを終え、銀と毒島冴子は、私兵たちの厳しい監視の目を背中に受けながら母屋へと案内された。

小室孝や平野コータたちは、ひとまず用意された客間で泥のように眠り、これまでの疲労を癒している。

しかし、銀は案内された自室に入ることもなく、屋敷の裏手にあるガレージへと足を運んでいた。そこには、壮一郎の私兵たちが街から徴発してきたであろう四輪駆動車やトラックが何台も並び、男たちが慌ただしく燃料の補給や整備を行っていた。

銀はベネリM4ショットガンを壁に立てかけると、手近にあった工具箱から使い慣れたスパナを拾い上げ、無言でカブのエンジン回りの点検を始めた。長距離の走行と先ほどの泥道を抜けたことで、プラグに煤が溜まり始めている。それを冷徹な手際で清掃していく。

「やはり、ここでしたか」

工具の金属音が響くガレージの入り口に、毒島冴子が静かに姿を現した。

彼女は屋敷の用意した白いシャツに袖を通し、濡れた紫の長髪をすっきりと一つに結わえていた。手にはあの白樫の木刀がしっかりと握られている。

「カブのメンテナンスだ。次の移動がいつになるか分からないからな」

銀は視線を落としたまま、スパナを規則正しく動かした。

「高城先生の言葉、気に障りましたか」

冴子が歩み寄り、カブのシートにそっと手を置く。

「いや。素性の知れない人間に武器を渡せと言うのは、組織のトップとしちゃ極めてノーマルな判断だ。ただ、俺はそれに従う義理がないというだけの話だ。……それより、さっきのフォローは助かった」

「お互い様です。あなたをこんな檻のなかで失うのは、私にとっても不利益ですから」

冴子はふっと目を細め、銀の無駄のない指先の動きを見つめた。二人の会話は、どこまでも簡潔で、実用的な利害の上に成り立っている。馴れ合いの温かさはないが、だからこそこの極限状態において奇妙な安定感があった。

その時、ガレージの奥の通用口から、鞠川静香に手を引かれた小さな少女がトコトコと歩み寄ってきた。

シャワーを浴びて汚れを落とした少女は、南リカの部屋にあった大きめのTシャツをワンピースのように着ており、その大きな瞳にはようやく生きた人間の光が戻っていた。

「あ、いたいた〜。銀くん、この子がね、どうしても銀くんにちゃんとお礼が言いたいって聞かなくてぇ」

静香がのんびりとした口調で、少女の背中を優しく押した。

少女は銀のツナギの裾をそっと見上げ、小さな拳を握りしめながら、震える声で一生懸命に言葉を紡いだ。

「あの……たすけてくれて、ありがとうございました。わたし、希里ありす(きり ありす)っていいます」

初めて判明した少女の名前。

銀はスパナを動かす手を止め、鋭い三白眼でありすを見下ろした。その視線には、大人が子供に向けるような優しい眼差しは一切ない。しかし、怯えさせるような冷たさでもなかった。ただ、一人の「生き残った個体」を観察するような、フラットな目だった。

「アリスか。自分の名前が言えるなら上出来だ。……静香先生」

「な〜に、銀くん?」

「このガキに、生き残るための最低限のルールを叩き込んでおけ。音を立てないこと、大人の指示に私情を挟まないことだ。それができないなら、次の移動の時に置いていく」

「もう、銀くんは相変わらず厳しいんだからぁ〜」

静香は苦笑いしながらも、アリスの頭を優しく撫得た。アリスは銀の厳しい言葉に泣き出すこともなく、ただまっすぐに銀の目を見つめ、小さく、しかし確かに「はい」と頷いた。その目には、この地獄を生き抜こうとする確かな強い芯が芽生え始めていた。

ガレージの外からは、夕闇が迫ると同時に、私兵たちの慌ただしい号令と、防衛線のフェンスを叩く『奴ら』の不気味なうめき声が、遠くから再び響き始めていた。

高城邸という強固な要塞。しかし、その内部に渦巻く壮一郎の過激な防衛思想と、銀たちの徹底的な現実主義は、静かに、しかし決定的な決別へと向かって、カウントダウンを刻み始めていた。

(第12話・了)

 

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