『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
ドガァァンッ!!
ガレージの外、暗黒の庭園から響く鉄製フェンスの崩壊音は、すでに決壊の合図だった。
自家発電を失った高城邸の敷地内に、紫藤のマイクロバスが呼び寄せた数万の『奴ら』の津波が、生者の肉の匂いを目がけて四方八方から雪崩れ込んでくる。
「ひえぇぇっ! 来た、来ちゃったわよぅ!」
鞠川静香がガレージの奥で頭を抱えて震え、沙耶は悔しさに涙を浮かべながらも、背後の座席の下に隠したアリスを庇うようにトラックのボディにへばりついていた。
「平野、一歩も引くな! 射線を維持しろ!」
小室孝が叫び、ガレージの入り口の暗がりにバットを構えて飛び出す。
ガガガガッ! と、血の匂いに狂った最初の『奴ら』――かつて高城邸に避難していたはずの男や、突撃服を着た私兵だったモノが3体、白濁した目をギラつかせながらガレージの傾斜を駆け上がってきた。
パァンッ!!
平野コータの持つM1Aライフルが火を噴く。至近距離から放たれた7.62ミリ弾が、先頭の『奴』の眉間を正確に撃ち抜き、その後頭部を肉片ごと吹き飛ばした。脳を破壊された巨体が泥人形のように崩れ落ち、後続の足を引っ張る。
「次ぃッ!」
コータは凄まじい手際でボルトを後方へ引き、空薬莢を弾き飛ばすと同時に二発目を装填する。しかし、暗闇と激しいパニックのなか、残りの2体がコータの銃口を掻い潜るようにして掴みかかろうとした。
「フンッ!!」
その肉薄する影を、毒島冴子の白樫の木刀が電光石火の速さで横一文字に薙ぎ払った。
強烈な破砕音が響き、左側の『奴』の側頭部が不自然に変形して消し飛ぶ。返す刀で、冴子は右側の『奴』の喉元へ深く木刀の先端を突き立て、その頸椎を完璧に粉砕した。
「素晴らしい……! 毒島先輩、右の生垣の奥からさらに来ます!」
孝がバットを振り下ろし、冴子の死角から這い寄ろうとしていた元女子生徒の『奴』の頭部を叩き割る。
3人の息の詰まるような防衛戦が展開されるなか、ガレージの奥の運転席の足元では、銀がオイルランタンの仄かな灯りを頼りに、信じられないほどの冷徹さで指先を動かしていた。
「……あと2分だ。そこを動くなよ」
銀のツナギはすでに自分の汗と、昼間浴びた社長の返り血で酷く汚れていた。彼の鋭い三白眼は、ステアリングコラムの奥に複雑に絡み合う配線の束だけを、機械のように正確に見据えている。
EMP(電磁パルス)で焼き切れたコンピューター基盤(ECU)を完全にバイパスし、バッテリーからの電力を直接セルモーターへと繋ぐための即席の回路。ナイフの刃先でコードの被覆を剥ぎ取り、プライヤーで銅線を力任せに捩(ねじ)り合わせていく。
外からは、憂国一心会の私兵たちの絶望的な銃声と、高城壮一郎の「引くなッ! 叩き斬れぇッ!」という地鳴りのような怒号が、避難民たちの断末魔の悲鳴とともに響いていた。銀の予想通り、庭園で派手に交戦する彼らが巨大な音のデコイとなり、数万の『奴ら』の9割以上をそちらへ引きつけてくれている。
だが、そのおこぼれとも言える数十体の群れだけでも、この狭いガレージを圧殺するには十分すぎる質量だった。
「ガァァァッ!」
「アアァォォ……!」
暗闇のなか、さらに5体の『奴ら』が重なるようにしてガレージの入り口へと殺到する。
コータのライフルが再び咆哮し、一体の頭部を吹き飛ばしたが、至近距離での乱戦にネイルガンもライフルも徐々に限界を迎えつつあった。
「くそっ、数が多すぎる……!」
孝のバットが『奴』の肩口に弾かれ、生気のない冷たい手が孝のツナギの胸元を強く掴んだ。牙が孝の首筋へと迫る。
「小室、伏せなさい!」
冴子の鋭い警告と同時に、彼女の持つ白樫の木刀が、正面の『奴』の腕を強引に叩き折った。しかし、激しい連戦の負荷に耐えかねたのか、全国大会を制した彼女の相棒である白樫の木刀が、パキィン! と不吉な破裂音を立てて、中央から真っ二つに折れ飛んでしまった。
「しまっ――」
冴子の美しい顔が一瞬だけ驚愕に強張る。武器を失った最強の女剣士の前に、なおも3体の化け物が爪を立てて迫っていた。
その絶体絶命の瞬間、ガレージの奥の暗闇から、冷酷極まりない金属の作動音が響き渡った。
ガシャリ。