『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
ズドォンッ!!
ガレージの奥深くから、耳を劈(つんざ)くような圧倒的な爆音が轟いた。
銀の構えるベネリM4ショットガンから放たれた12ゲージの散弾が、武器を失った毒島冴子の鼻先を掠め、迫り来ていた3体の『奴ら』の上半身を一瞬にして肉片へと変えた。マズルフラッシュの眩い白光が、暗闇のガレージを刹那の瞬間に白く浮かび上がらせる。
硝煙の強烈な臭いが狭い空間に立ち込める中、銀は素早く次弾を装填しながら、運転席から躍り出た。
「冴子、これを掴め!」
銀が助手席のシートから掴み取り、正確な軌道で投げ渡したのは、南リカの部屋から回収していた一振りの日本刀(真剣)だった。
冴子は空中でその黒塗りの鞘(さや)を鮮やかに引っ掴むと、流れるような動作で鯉口(こいぐち)を切り、白刃を抜き放った。
闇の中に、鋭い一筋の冷光が走る。
「……感謝します、銀!」
真剣を手にした冴子の佇まいから、それまでの「お淑やかな先輩」としての仮面が完全に剥ぎ取られた。内に秘めていた破壊への狂気を100%解放した彼女の剣技は、もはや武道ではなく、純粋な『屠殺(とさつ)』の領域に達していた。
ザシュッ! と、肉と骨を同時に両断する凄惨な音が響く。
真剣を手にした冴子の前には、押し寄せる死者の質量など、ただの肉の塊に過ぎなかった。首を撥ね、脳幹を裂き、流れるような無駄のない動きでガレージの入り口を血の海へと変えていく。
「平野、小室、下がれ! トラックに乗れ!」
銀の鋭い怒号が飛ぶ。
銀は運転席の下へ再び潜り込むと、ナイフの刃先で剥き出しにした極太のスターターコードと、バッテリーのプラス端子から引いた電線を、力任せに接触させた。
バチチチッ!!! と、暗闇のなかで激しい青白い火花が散る。
キュキュキュ、ドゴォォォンッ!!!
EMP(電磁パルス)によってコンピューターを焼き切られていた大型トラックのエンジンが、銀が急造したアナログなバイパス回路によって、力強い重低音を響かせて爆発的に始動した。
「か、かかった……! 本当に動かしたわ……!」
トラックの荷台にしがみついていた高城沙耶が、エンジンの振動に驚愕の声を上げる。
「全員乗れ! 急げ!」
銀が運転席から身を乗り出して叫ぶ。
コータと麗が荷台へと滑り込み、最後に返り血で全身を濡らした冴子が、刀の血を鋭く振り払いながら助手席へと飛び込んできた。その顔には、死線を越えた者特有の、凄艶な恍惚の笑みが浮かんでいた。
「静香先生、アリスを抱きしめていろ! 舌を噛むなよ!」
銀はクラッチを強引に叩き込み、アクセルを踏み抜いた。
大型トラックはガレージの壁を擦り、激しい金属音と火花を散らしながら、地獄の庭園へとバックで猛然と飛び出した。
バックミラーに映る庭園の光景は、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
松明の炎が燃え広がり、何千もの『奴ら』が避難民たちを貪り喰っている。その中心で、高城壮一郎が長刀を血に染めながら、自らの私兵たちと共に最期の防衛戦を繰り広げているのが見えた。
沙耶は窓の外に広がるその光景を、目を見開いて見つめていた。父親の最期。彼女の天才的な頭脳は、もう助からないことを理解している。しかし、その目からは涙ではなく、この地獄を生き抜くという過酷な『覚悟』の光が宿り始めていた。
「裏門を突き破る! 衝撃に備えろ!」
銀はハンドルを切り直すと、トラックのフロントグリルを、裏手の比較的薄い外壁フェンスへと向けた。行く手を阻もうと群がる数十体の『奴ら』を、強靭なバンパーで骨ごと粉砕し、肉飛沫を飛び散らせながら加速していく。
恋も結婚も、温かい約束など最初から存在しない世界の終わり。
銀の繋いだエンジンが咆哮を上げ、冴子の刀が闇を裂く。
炎上する高城邸の断末魔の叫びを背に受けながら、彼らの歪なサバイバルの歯車は、ついにこの床主市からの最終脱出へと向かって、最高速で回転を始めた。
(第15話・了)