『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』   作:トート

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第2話:学園脱出ルート【後編】

職員室の重い防火扉を、小室孝が慎重に、しかし勢いよく押し開けた。

「誰だッ!?……って、小室と宮本か!」

部屋の中から鋭い声を上げたのは、ガスマスクを首にかけ、手製の釘打ち銃(ネイルガン)を構えた肥満体の男子生徒――平野コータだった。その隣には、ピンク色のツインテールを揺らし、不機嫌そうに腕を組む眼鏡の少女――高城沙耶の姿もある。さらに奥のソファには、藤美学園の校医である鞠川静香が、大きな胸を不安げに揺らしながら座り込んでいた。

「毒島先輩も……! って、ちょっと待ちなさいよ。そっちのツナギの男は誰?」

沙耶が跳ね上がるように一歩前に出ると、鋭い視線で銀を睨みつけた。彼女の天才的な頭脳は、銀の服の汚れや佇まいが、この学園の生徒でも教師でもないことを瞬時に見抜いていた。

「……裏の整備工場の人間だ。外がこんな状態なんでな、ここに逃げ込ませてもらった。俺は銀だ」

銀は短く答えると、職員室の大型テレビへと歩み寄った。画面の中では、アナウンサーが絶叫しながら市民の暴動を伝えており、やがて映像は完全に途切れてカラーバーへと変わった。完全に情報網が遮断されている。

「裏の整備工場? ちょっと、部外者がなんで学校の中に勝手に入り込んでるのよ! それに、何よその不気味な武器は!」

沙耶がクロスボウを指差して声を荒げる。当然の反応だった。学校という閉鎖空間が地獄と化した今、現れた正体不明の「武器を持った大人の男」は、彼らにとって『奴ら』とはまた違う明確な脅威になり得るからだ。

「高城、やめろ。この人はさっき、俺と麗を助けてくれたんだ」

孝が間に入って沙耶を宥めようとするが、沙耶は納得いかないように鼻を鳴らした。

「助けただから何よ? 携帯の電波もさっき死んだ。要するに私たちは完全に孤立したの。そんな時に、素性の知れない人間を簡単に信用できるわけないでしょ!」

「あなたの言う通りです、高城さん」

木刀を傍らに置いた冴子が、静かに言葉を挟んだ。

「ですが、彼はこの状況下で、一度も怯むことなく『奴ら』の脳を正確に破壊してここまで来ました。彼が敵に回れば厄介ですが、今の私たちに、彼の戦闘力を拒絶する余裕があるかしら?」

「毒島先輩まで……」

沙耶は苦々しく顔を歪め、再び銀を見た。

銀は彼女たちの言い合いに加わる気すらなさそうに、職員室の壁にかけられたキーボックスを物色していた。目的のものを掴み取り、指先でジャラリと鳴らす。

「信用してくれとは言わない。俺もあんたたちを育ちの良いお荷物だとしか思ってない」

銀の冷淡な言葉に、麗がムッとした表情を浮かべる。しかし、銀は構わずに続けた。

「だが、ここを脱出する手段なら提供できる。学園のマイクロバスのキーだ。これであんたたちの言う『音に集まる化け物』の群れを撥ね退けながら、街へ出られる。……問題は、この学園の敷地を出た後、街の道路は乗り捨てられた車で大渋滞を起こしているはずだってことだ」

銀は沙耶の目をまっすぐに見返した。

「渋滞を抜けるには、強引に車を押しのけるか、最悪、別の動く車へ乗り換えるか、その場で直して道を切り拓く必要がある。……ツナギを着た部外者の俺をここで追い出すか、それとも『足回り専門の道具』としてバスに乗せるか。選ぶのはあんたたちだ」

職員室に沈黙が流れた。

沙耶はメガネの奥の目を細め、銀の言葉の合理性を必死に吟味している。車の知識を持つ整備士がこの状況下でどれほど貴重な存在か、彼女の頭脳が理解できないはずがなかった。

「……フン、生意気な整備士ね。道具として役に立たなくなったら、その時は容赦なく置いていくから」

沙耶が不機嫌そうに腕を組んで視線を逸らした。それが、彼女なりの妥協のサインだった。

「あらあら、それなら私も一緒に行くわ〜。みんなを守るのが先生の役目だもんね」

静香がのんびりとした口調で言うと、張り詰めていた職員室の空気がわずかに和らいだ。

「よし、方針は決まったな。バスのある駐車場まで、ここから一気に突破するぞ」

銀がクロスボウを引き絞り、新しい矢を番える。

「ええ、行きましょう。私の剣、いつでも動かせます」

冴子は木刀を握り直し、銀の側面に並んだ。

二人の間にあるのは、信頼などという温かいものではない。銀は冴子の圧倒的な剣技を「道を切り拓くための最良の盾」として評価し、冴子は銀の冷徹な状況判断を「自分の力を最も発揮できる環境を作る歯車」として見ているだけだ。そして学生たちは、この不気味な部外者を、生き残るための「便利なパーツ」として割り切って利用しようとしている。

互いの利用価値が失われれば、その瞬間に切り捨てる。そんな冷酷な品定めを腹の底に隠したまま、異分子を交えた一行は、地獄の廊下へと再び歩みを進めた。

(第2話・了)

 

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