『学園黙示録:SILVER BULLET(シルバー・バレット)』 作:トート
「開けなさい! 早くバスのドアを開けるんだ!」
紫藤浩一が引き連れてきた十数人の生徒たちは、パニックの塊となってマイクロバスの車体に群がった。その後ろからは、彼らの悲鳴に引き寄せられた何十体もの『奴ら』が、不気味な地響きを立てて駐車場へと流れ込んできている。
「静香先生、ドアを開けて! 早く!」
小室孝が焦燥に駆られて叫ぶ。鞠川静香は運転席でパニックになりながらも、プシューという音とともにバスの自動ドアを開いた。
「押し合うな! 順番に乗るんだ! 先生が君たちを守ってあげるからねえ!」
紫藤は聖職者のような笑みを浮かべながら、恐怖に駆られた生徒たちを次々と車内へと押し込んでいく。だが、その目は全く笑っていなかった。
銀は最後尾から迫る『奴ら』の頭部へ、正確にクロスボウの矢を叩き込んでいた。
シュバッ、と短い風切り音が響くたびに、最前線の化け物が一体ずつ崩れ落ちる。その隣では、毒島冴子が白樫の木刀を電光石火の速さで振り下ろし、バスのステップに足をかけようとした『奴』の頭蓋を粉砕した。
「銀、これ以上は引き付けられません。乗りなさい!」
冴子の鋭い声に、銀は小さく頷いた。
「分かっている。……平野、乗れ!」
「は、はいっ!」
コータがネイルガンを構えたまま車内へ飛び込み、続いて銀と冴子が滑り込むようにバスへと乗り込んだ。
「静香先生、ドアを閉めて! 出して!」
孝の怒号と同時にドアが閉まり、バスの巨体が激しいエンジン音を立てて発進した。車体を激しく叩く『奴ら』の骨の音が鈍く響いたが、バスはそれらを強引に轢き潰しながら、地獄と化した藤美学園の正門を突破した。
車内に張り詰めた沈黙が流れる。
助かった安堵から、あちこちですすり泣く声が聞こえていた。
「いやあ、本当に助かったよ。皆が無事で何よりだ」
紫藤が息を整えながら、眼鏡の奥の目を細めて生徒たちを見渡した。そして、その視線が運転席の隣に立つ銀へと向けられる。
「ところで……君は我が校の生徒ではないようだね? その汚れた作業着……ふむ、部外者がなぜこの学園のバスに乗っているのかな?」
紫藤の声には、教師特有の、相手を値踏みして見下すような不快な響きがあった。
銀はクロスボウの弦を静かに引き絞りながら、紫藤の言葉を完全に無視した。その徹底した無視に、紫藤の額のピクリと青筋が浮かぶ。
「ちょっと、紫藤先生。彼を部外者扱いするのはやめてもらえる?」
高城沙耶が不機嫌そうに腕を組み、シートから紫藤を睨みつけた。
「この渋滞だらけの街で、バスが故障したら誰が直すのよ。この男は神崎モータースの整備士よ。今は素性なんてどうでもいいわ。生き残るための『道具』として、彼が一番役に立つんだから」
沙耶の冷徹な割り切り方に、紫藤は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつもの歪んだ笑みを取り戻した。
「なるほど、技術職の民間人かね。だが高城くん、これからの過酷な世界を生き抜くために本当に必要なのは、そんな小手先の技術ではないよ」
紫藤はバスの中央へと歩みを進め、両手を広げて自らのクラスの生徒たちを見つめた。
「見なさい、世界は崩壊した。これまでの法律も、秩序も、大人のルールもすべて消え去ったんだ。今この瞬間に必要なのは、私たちを一つにまとめる『新しい秩序』、そして優秀なリーダーだ。……違うかね、皆の衆?」
恐怖で理性を失いかけていた生徒たちが、救いを求めるように紫藤の言葉に聞き入り始める。その空気が、車内を急速に奇妙な狂気へと染め上げていく。
銀はその様子を、冷え切った三白眼で見つめていた。
(なるほどな……。化け物よりよっぽど厄介な『怪物』が、身内に混じりやがった)
(第4話【後編】へ続く……)