未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか   作:ねこ

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お久しぶりです。
貯金が尽きて就活をしていたので投稿が遅れました。
今後は不定期になりますが、それでも読んでいただければ大変うれしいです。


偽りを照らす青月

 最悪の寝覚めでも、時間は進むもので。ファントムが来たから出撃することになった。今日は臨床小隊に引っ付いて行動するらしい。久我山の案ではないな。これは多分……。蓬くんだろうか。あるいはしおり? リンかも。輝夜だけはない。

 

「やっほ。臨床小隊諸君。今日も仲良しかい?」

「……」「――」「ふぅ……」

「三者三様に微妙なお返事をありがとう。しおりはあれから独断行動は減ったかい?」

「……ごめんって」

「蒸し返したりするつもりはないけど、確認だけしたくて。……いい顔になったね、しおりは」

 

 私の言葉に、しおりは照れたように目をそらす。

 

「他はあんまりいい顔じゃない。リンも輝夜も美人さんなのにねぇ。なんで心が晴れやかじゃないんだろう」

「クオンこそ。めちゃくちゃ隈できてるけど」

「私のことはさておいてほしいなぁ、なんて」

 

 リンの指摘を軽く流す。夢見が最悪なのは隠した方がいい。精神的な不安定さは許容すべきではない。

 

「……どうでもよすぎる。さっさと終わらせて帰りましょ」

 

 輝夜の、冷たい言葉に、苦笑い。

 

「引きこもり、陰険、薄情!」

「……ファントムと間違ってあなたを殺しちゃうかもね、比良坂クオン」

「冗談ですって、輝夜さん……」

「私も。今回はユーモアってことにしてあげる」

 

 こっわ。なんやこの女……。リンの背中に隠れてみたりする。リンが私の頭を撫でていると、無線が聞こえた。

 

「――来たよ、みんな。比良坂さんは穂村さんと一緒に前衛を。逸見さんと天満月さんは火力支援を」

 

 気配が強い。……一筋縄ではいかないかもしれない。囁く声が、かすかに聞こえる。

 

「――幻月に決着をつけろ。比良坂クオン。お前は、そのために生を受けたのだ」

 

 うるさい。お前は誰だ。私の知らない私。本当は知っているかもしれない私。今はどうでもいい。この瞬間は、現前する「この」意識が、私だ。

 ここにある私が私。ここになければ私じゃない。強く頭を振って、頬をたたいて気合を入れる。

 

「信頼してるからね、みんな」

「――ありがと」「私も、信頼してる」「……」

 

 うなずく。まだ、私の味方だ。――私は、みんなに味方でいられるだろうか。

 天を見上げる。太陽が、雲に隠れる。小さな、黒い影が見えた。

 

「――来る」

 

 刹那。隣にいるリンを思い切り押し出す。ぐじゅり、と嫌な音が聞こえた。

 私の腕が、ぽとりと落ちていた。赤い色が、あたりにまき散らされる。

 

「へ、クオン……?」

 

 リンの顔色が真っ青になっている。不思議といたくないのは、脳内物質のおかげだろうか。あるいは、もともと私に腕なんてなかったからか?

 とにかく、叫ぶ。

 

「しおりぃぃぃッ! そいつをぶち殺せ!!!」

「――ッ!」

 

 槍が、爆熱を解き放つ。私は腕をおさえながら、睨みつける。――少女の姿をした、ファントム。ヒトガタを模した、ファントムによるドリームキャッチャーの「模倣」。

 

「……ちぇっ。外れか」

 

 模倣は、手をカマキリのように刃に変えて、二度、三度とふるった。しおりの突撃が、模倣に襲い掛かる。模倣は軽く笑いながら猛攻をいなしている。否。表情ほど余裕ではないだろう。切っ先がほほをかすめている。

 私は脂汗を浮かべながら模倣を睨んでいた。

 はずれ。すなわち、リンを狙ったのだろう。危なかった。落ちた腕を拾いなおして、傷口に無理やり押し付ける。

 

「……それで、くっつくの?」

 

 リンが、小さくつぶやく。くっつかどうかはわからない。でも、やるしかないんだよ。

 

「――リン。しおりが隙を作るはずだ。……その時のために準備をしておくように。……輝夜ァ! 私があのヒトガタを捕まえたら、躊躇はいらない。私ごとやれ」

「……できない」

「やるんだよ。お前にはできる……いや、――でも、信じてる」

 

 輝夜に味方を撃てというのはひどい指示だが――。まぁ、それでもいい。模倣は臨床小隊にとって最初の難所でもある。本来なら撤退することしかできないが、ここであれを仕留めるべきだ。腕がつながる。かるくグーパーを繰り返して、動きを確認する。神経をつなぐ幻想の感覚。覚えた。

 

「じゃぁ、しおりの支援に行ってくる」

「まって、クオ――」

 

 リンの泣き言を聞いている暇はない。一気に、しおりのほうに走る。模倣の速度が速かったのは助走距離があったから。近距離戦であれば、単にめちゃくちゃ強いだけだ。しおりの槍に気を取られている間に、後ろから距離を詰める。加速をつけた、全力の頂肘を脇腹に突き刺す。バキバキ、とあばらがへし折れる感覚が感じられる。肘部に取り付けられたブレードが、骨の間の肉をずたずたに引き裂く。

 模倣は少し驚いた顔をして、私を睥睨する。

 

「――なるほど。少しは幻想を扱う心得があるらしいね、お前らは」

「偽。幻。所詮、お前はどこまで行ってもバッタもんだよ」

「ふふ、お前がそれを言うのか? 比良坂クオン、だったか」

 

 問答は無意味。弾丸を額に打ち込む。片手に拳銃を持っていてよかった。弾丸を受けながら、模倣はくつくつと笑う。――無線から、震える声が聞こえた。

 

「いつでも行けるわ」

 

 瞬間。しおりを思い切り蹴とばし、模倣の腕と肩口を掴んで、地面に縫い付ける。ひらきっぱなしになった無線から、圧縮された輝夜の呟きが聞こえた。

 

「――光の導の先に、我が意志を灯す。光明一閃」

 

 道連れにしてやる。にやりと笑うと、模倣は不思議そうに首を傾げた。

 たちまち、光の奔流が、私たちを包んだ。

 

 

 

 

 焦げ臭い。皮膚や体毛が焦げているからだと気付き、思わず顔をしかめる。全身が重度のやけどになっていると思ったが、そこまで重症でもないらしい。いや、そうでもないか。右足の感覚がない。……いずれ治る。臓器のような複雑な組織が治るなら、神経と筋肉と骨だけのそれであれば、まぁ取り繕うくらいはできるんじゃないか? 多分。

 軽く舌打ちをしながら、片足で何とか起き上がる。模倣はどこにいる、と目を細めた。

 

「クオン――ッ、後ろ!!!」

 

 すぐ近くまで来ていたリンが、私を押した。何が、と理解する間もなく。リンの腹部から、刃が生えていた。

 

「――今度はあたり。さて、――残りもいただこうか」

 

 模倣は、にやりと笑って、しおりのほうに駆けだしていく。リンは、その場に力なく倒れた。駆け寄ろうとして――一気にその場に倒れる。なんで……あぁ、足がないから。這って、必死にリンのもとにたどり着く。血が、一気にあふれている。

 焦点のあっていない目で、こちらを見るリン。

 

「――かのん?」

 

 ぼそりと、つぶやくリン。クソ。どうして、なんで。なんで助けた? できることが、あるか? そうだ、幻想力を使えば。リンの身体を、私の幻想で補えばいいのだ。幸いなことに、鋭い刃物で切り裂かれただけなのだから、いずれは自然治癒でどうにでも――。

 そっと、リンのおなかに手を当てる。

 

「かのん……」

 

 うるさい。クソ。ダメだ。他人のはらわたが全く想像できない。幻想が手の先から直ちにほどけていく。蓬に無線を送る。――使うしかない。

 

「蓬クン。少しいい?」

「――どうしたの、比良坂さん」

「リンの内臓を、今から一時的に幻想でつなぎとめる」

「そんなことができるの?」

「わかんないよ。わかんないけど、やらないとリンが死ぬ」

「……わかった」

「そこで、なんだけど。――しおりにやってたみたいにさ。私の出力を底上げして。できるよね、たぶん」

 

 ――リンを助けるためにできる、最後の賭け。私が、指揮下に入る。――プレイアブルキャラのようにふるまえたなら。

 それで、私もリンも。救われるんじゃないだろうか?

 

「――わかった。行くよ、比良坂さん」

 

 ――私は恐れていた。私の心が暴かれて。人類の敵だって。知られることが。でも。血を流しながら。私の目の前で命を失おうとしているリンを見て――何でだろうな。変な話だけど。

 

 自分のことなんて、心底どうでもよくなったんだ。

 

 

 

 

 

 まばゆい光が収まると、そこにあったのは待合室だった。ここは。僕が、初めて比良坂さんと出会った場所。比良坂さんは隣に座って、手に持っているのはお茶とサイダー。比良坂さんは周囲を見渡してから、小さく鼻を鳴らした。

 

「なるほどね、そうなるんだ」

「――比良坂さんも、幻月の場所にいたんだよね。原風景が、その浸食を受けていないんだね」

「受けてるよ。ほら」

 

 比良坂さんは天井を指さして、皮肉気に笑った。見上げると、天井なんてなくて、空にはまばゆい青い月が浮かんでいた。

 

「しおりはどんな景色だった? 京観かな、多分。――ま、あの子にとって幻月は非日常で、非現実の異空間みたいなものだからね。原風景がそれを大きく表しているのには納得って感じ」

「……じゃあ、比良坂さんにとって。幻月って何なの?」

「虚影による大災害。人類を滅ぼす猛威。夢と現の境目であり、最前線。そんなところかな?」

 

 比良坂さんは歌うように言葉を並べて、さらに続ける。

 

「私にとっては、お前らの現実もまるで幻想だよ。私のはらわたがそうであったように、蓬クンやしおりが幻想じゃない保証なんて、どこにもない」

 

 天を指す。青い月が、輝きを増していく。

 

「ねぇ、教えてよ指揮官。私の存在は。幻月の存在は。世界の存在は。私の前に確かにある『実存』が、嘘偽りじゃない証明」

「……そんなこと、できない」

 

 比良坂さんが、皮肉気に笑う。ほらね、といわんばかりに。でも、僕は指をさす。緑茶とサイダー。

 

「それでも。比良坂さんが僕にくれたお茶は。比良坂さんの優しさだろ。サイダーをくれなかったのは、比良坂さんのわがままだろ。その気持ちを抱く、比良坂さんの心は。確かにそこにあるんじゃないの」

 

 虚を突かれたように、比良坂さんは目を見開いた。少し黙ったかと思うと、笑った。

 

「今は、それが正解ってことにしといてあげる。――じゃ、リンを助けないとね」

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