未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか 作:ねこ
ファントムが出現し、臨床小隊とその支援遊撃部隊が出撃指令を出された。――私は、お留守番。蓬くんは画面越しに指令を出す。特殊なデバイスとかを使っているらしいが、そこらへんは私にはどうでもいい。
私は自室にこもって、ぼけっとするだけ。暇である。暇なときは、自分がどういう理由で闇落ちするのか――つーか、人間が世界を飲み込む災害側に「協力」する理由って何なんだって感じがある。
どんな狂人でも、災害を利用して権益を拡大するとか、そういうもんだと思うんだよな。私――比良坂クオンが、闇落ちする理由なんてどこにもない。
ということは、すでに運命の輪から私は外れているのか。あるいは、致命的な見落としをしているのか。はたまた、私が離脱するのが全体最適なのか。
考えても仕方ない。
別のことを思案してみる。しおりを救うのは、勝手な判断で飛び出した彼女を蓬が強く諫め、それを拒絶して大喧嘩に発展するところから始まる。
彼女の強い拒絶に対して、他の小隊員は怒りの感情を見せて、しおりは孤立する。理解者であるはずの人間に拒絶され、さまようしおりと、手を焼く蓬。
しおりは自暴自棄になっていき、粗暴なふるまいが目立つようになり――そんなしおりを見捨てずに、蓬は彼女の心が作り出した虚影空間に入り込み、彼女の本質を理解する。
「誰にも理解されない」「理解なんてしてほしくない」
くせに、
「見捨てられたくない」「愛してほしい」「わかりあいたい」
そういう矛盾を抱えて、歪んだ鋳型に煮えたぎった心を溶かし入れるように型にはまった拒絶しか出力できない少女の正体が明かされる。
しおりは素直になれた……わけじゃないけど、蓬くんには心を開くようになる。
シナリオ通りに行けば、悪くない。でも、シナリオ通りでいいのなら、私の破滅が回避できない。しおりの無謀は、初出撃から始まる。
「……少しだけ、介入してあげますか」
私は、大団円が欲しいんじゃない。私だけの幸福が欲しいのだ。
その日は、ファントムの数が多くて。前に出すぎるのはいけないけれども。安全第一でちまちま殴って、遊撃部隊の助けを借りて。それを続けるには、あまりに長い時間戦わないといけなかった。集中力が切れかけていた、なんてのは。言い訳にもならないけど。
鉄の竜が、私たちを睥睨しながら宙を飛び回る。指揮官の言葉が、耳に伝わる。
「穂村さん、出力がぶれてきてるけど……そろそろ撤退した方がいいかもしれない。待機部隊と後退しようか」
「はぁ!? これじゃ、いつも通りの成果しか出せてないんだけど……指揮官が、それでいいわけ?」
「――数が多すぎるよ、穂村さん。無理する場面じゃない。引き際だよ」
追い打ちみたいに、リンと輝夜の言葉が降ってかかる。
「正直、もう限界。かえって風呂でも入ろ」
「物足りないけどね。一度、撤退すべき」
なんで、誰もわかってくれないんだ。少ししんどくても、踏ん張るべきタイミングはあるだろう。
「ありえない。――前より良くなるかもって思って、アンタのいうこと聞いてたけど。何も変わらない。それじゃぁ、何も変えられないんだけど!」
「穂村さん、待って――」
「うるさい!」
槍を構えて、敵の軍勢に躍り出る。無謀なんて、腹の底ではわかっていた。でも。信頼できない相手の言葉を聞いて、何も得られないなんて。絶対に認められない。
思い切り踏み込んで、いっきに加速する。真正面。汚泥でできた泥人形に肉薄する。握りしめた槍が、赤熱して、火の粉を噴き上げながら泥人形を切り飛ばした。
ぐずぐずと崩れた断面から、黒煙が上がり、泥人形は動きを止める。核を打ち抜けばこいつらは容易に仕留められる。昔、クオンから聞いたことがあった。
目の前の泥人形の群れ――何十といるそれと、上空の鉄の竜。
撤退の二文字が、頭をよぎる。――今、逃げてたまるか。
「邪魔――ッ!」
槍を横薙ぎに振るう。火炎が軌跡を描き、熱気が皮膚を焦がす。このままだと、焼石に水だ。後ろから伸びてきた触手を焼き払う。
「穂村さん、出力がぶれてる、やっぱり撤退を――」
「うるさいなぁ、そうやってピーピー騒ぐからぶれるんだよ――ッ!」
槍の範囲に入る敵相手にだけ攻撃を叩き込んでも、意味がない。力を練り上げて、一気に解き放つ。
「――燃え上れ!!!」
大地を這う炎熱。力が一気に広がり、泥人形を焼き焦がす。焼け具合にむらはあるが、これで鉄竜に集中できる。
空を見上げ、竜の位置を把握する。――いない。あるのは、青い空だけ。
気配を感じて、正面に槍を構えなおす。竜が、絶叫をあげながら突撃してくる。砂利がほほにたたきつけられ、思わず目を細める。
返り討ちにしてやる。そう思って、槍を構えて――槍が、手からこぼれ落ちた。
めまいと、頭痛。くそ。力を使いすぎた――。
「穂村さん――」
刹那。体が、宙に浮いた。吹っ飛ばされた。誰に? 竜だろうか。違う。目で、その正体を確認した。
そこにいたのは、たなびくロングヘア。手に持っているのは、ただの拳銃。よく知っている姿。だが、いるはずのないその姿に、幻を見たのかと思った。なんで、クオンがここに。
貼山靠。肩と背中で相手を弾き飛ばす、体当たり技。
近接戦闘において、投げ技などが効きづらいファントム相手に使っているのを見たことがあった。私を吹っ飛ばしたのは、彼女の体当たりであった。
何かを言う前に、クオンの身体は吹っ飛んだ。そして、ボールのように地面をはねて、停まってあった車に突き刺さったきり、動かなかった。
状況が理解できなかった。否。認めたくなかったんだ。私は、失敗したんだ。そして、目の前で、その代償を、私の代わりに支払った存在がいた。
「は、は」
視界が、二重にぼやける。力が出ない。そう、か、私は。また。失敗したのか。
理解が、頭を支配して。いやな汗が、背中に張り付く。竜は、旋回しながら再度突撃の構えを見せている。
「穂村さん、大丈夫!? ほかの隊員を向かわせているから、返事を――」
うるさい。でも、動かないといけない。
「わかった」
鈍痛が、全身にじんわり染み渡る。
フロントガラスが砕け、細かいガラス片を首を振って振り落とす。
「少しは効いたぜ……」
骨が何本か折れている……うん。内臓もかなりダメージを受けているが。がばりと飛び起きる。やってくれたな。無線に割り込む。
「蓬指揮官。小隊員の到着までどれだけかかる?」
「比良坂さん……五分もかからないよ」
「少し遅いな。ファントムがずいぶん沸いてるみたいだな。しおりの支援は少しだけやっておく」
全力でしおりの下に復帰するため、アスファルトを砕きながら大地を駆ける。結構ぶっ飛ばされた。そう考えると少しムカつくが――。
「俄然殺意が湧いてきた」
低い出力でも、弱点を知っていれば何とでもなる。しおりに並んで、竜を睨みつける。
「しおり、無事か?」
「……クオン、生きてたの?」
「死んでた方が良かった?」
「ふざけないで――」
「とにかく、あの鉄屑をスクラップにしましょうか」
……鋼鉄相手に格闘と暗器で勝負ができるか~~~~! 頼んだぞしおり! しおりを見ると、すごく情けない面を浮かべていた。
「……私には、無理だよ」
シオリサン!? ナンデ!?!?!?
「私は、足を引っ張るだけだから」
……比良坂クオン、闇落ち前に敗死の危機。
しおりに戦意をあんまり感じない。心が折れているのか。言いたいことはいろいろあるが、すべて蓬くんが悪いってことにしたい。つーか指揮官として未熟だから兵隊が突っ走るんだろ。
「まぁ、こういうときに戦えなくなるのは仕方ないかなぁ」
しおりの槍を拾い上げて、竜を睨みつける。槍を軽く振って、使い心地を確認する。……ちっと重い。槍術の類は一通りできるけど……しおりとはスタイルも違うし、出力を考えれば竜を討伐できる気はあんまりしない。
竜が、また降下を始めている。槍を下段に構えて、笑う。
「――さて、どこまでやれるかな」