未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか 作:ねこ
鉄の竜が、唸り声をあげる。そろそろ、私たちを仕留める算段が付いたらしい。――どうせ、かぎ爪による拘束からのフリーフォール。掴まれれば即死だが、後隙が大きく回避もパリィも思うがまま。とはいえ――。
「現実で即死技相手にパリィはかなり厳しいよなぁ」
「即死技? なにそれ、あのドラゴン、なんかしそうなの!?」
「急降下。掴んで再上昇。そのあと地面に叩きつける」
「絶叫系? サイテーなんですけど」
リンのげんなりした顔に、私も思わず苦笑い。小さな粒になっていた竜が、だんだんと大きくなり――。
「リン、回避!」
「わぁってるっての!」
リンはビルのガラスをたたき割りながら、建物に隠れる。私はというと、ビルの屋上に駆け上がり、そこから一気に移動を始める。
できるだけ無防備なしおりに攻撃をぶつけたくない。ぐんぐんと迫る竜。走る私。距離はみるみるうちに近づき、竜の鋭い爪が私の身体を捉える――。
その、刹那の一瞬。体勢を一気に低くし、かろうじて攻撃を回避する。背中を爪が掠め、私の装備を引き裂く。ついでに、背中の肉もえぐられるが――致命的なシチュエーションは回避できた。
竜はまだ高度を上げていない。今からは、こちらが狩る側に回ることになる。
「――リン!!!」
「とらえたし。――切り刻んでやる!!!」
リンの双剣が、滑らかな軌跡を描きながら、竜の身体に突き刺さる。無数の刃が、竜の身体にダメージを蓄積させていく。
絶技・雹剣三昧。
リンは、無数の刃を躍らせる質量飽和攻撃が得意技。双剣の癖に技巧派ではないのだ。リンは臨床小隊の中では優秀だと思う。しおりはアレだし、輝夜は少しイレギュラーだ。それがケアが不要であるということにはならないけど……。それに、リンも抱えている事情は闇が深い。
「槍よ、悪逆を貫け!」
リンの刃を受けて、竜が地面に墜落した。すかさず竜の片翼に槍を突き刺す。鉄を焼き溶かす音がよく聞こえる。
竜は、目に憎しみを浮かべてこちらを睨みつける。飛行能力も奪われたんじゃ、ただの鉄屑。この勝負、もう決まったも同然――。
「違うな」
「へ? クオン?」
こいつには、厄介な力がある。竜の姿を模した鉄屑。結局のところ、こいつはファントム。嘘偽りであり、虚影でしかない。
どろり、と鉄竜の姿が溶け歪んでいく。鉄竜だったものは、一つに集まり、別の形をとっていく。
「――舐めやがって」
鉄屑は、翼の生えたヒトガタの甲冑へと、姿を変えた。キラキラと輝く鉄かぶと。そして、腕に持つ槍はしおりのデッドコピーだ。
「ヒトガタなら、勝てるとでも?」
一気に距離を詰める。槍の間合いよりはるかに近く。槍は、すでに捨てた。肘を頂点にしてみぞおちに突き刺す。全身の体重を肘の先に集めた一撃だ。頂肘。肘から、ほんの少しだけブレードが飛び出る。通常なら、その一撃でヒトガタのファントムなんておしまいなのだが――。
かぁん、と甲高い音と。火花が散る。竜人は、私の一撃を受けても少しのけぞるだけで、あまりダメージはないらしい。
距離を取れば槍が来る。超接近戦で、時間を稼ぐほかあるまい。
拳を構えた私を見て、竜人の気配は変わった。これは。この伝わってくるものは、なんだ。侮蔑だろうか。嘲笑だろうか。
刹那。考える間もなく、竜人は槍をリンの方向に投擲した。一瞬の隙。とっさに、掌底を撃ち込むが、ダメージが浅い。私の暗器では、こいつを仕留めるのに。何百発とかかるだろう。――そして。今の、私では、その負荷に耐えられない。
肺から、空気が漏れだすような。力が抜けていく感覚と、それに伴う激痛。
あばらが肺に刺さったのか。あるいは、触れただけだろうか。ともかく、激痛が私を支配した。動きが滞った、その瞬間に。
竜人の拳が、みぞおちに突き刺さる。体がふわりと浮き上がり、体から空気が押し出されていく。視界と、脳が揺れる。耳鳴りの中で、状況を把握しようとして――再度、腹に、どすんと衝撃が突き刺さる。景色が、一気に変わる。
蹴り飛ばされたのだろう。瓦礫の中に吹っ飛ばされる。一日に何度も吹っ飛ばされるなんて、ついてない。多分顎にも一撃もらったな。クソ、見事な三連撃。
腹を見ると、鉄筋が下腹部からニョロっと出てきていた。浅黒い血が、はらわたからこぽこぽとあふれ出る。
――詰みである。これ以上打つ手はない。
「――クソ、……ミスった」
視界がかすむ。リンには申し訳ないことをした。ここからは一人で抵抗してもらうことになる。
まぁ、闇落ちする前にくたばるなら、それはそれで利益か……? つまらない思考に気を取られながら、意識は闇に沈んだ。
リンは、クオンに駆け寄り――彼女が沈黙しているのを見て、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。クオンは、出力こそ低いが予測以上のスコアを平然とたたき出すタイプ。才能のない天才だった。
今、一人で残されて。あのファントム相手に戦うのはかなり苦しい話なのだが。
「――全部しおりのせいだし」
その苦境、問題の原因になった判断ミスは自分のそれではないという事実が、彼女をいらだたせる。クオンを近接で圧倒したあの速度であれば。自身の得意とする双剣投擲はあまり効果のある攻撃には思えない。
――そもそも、ファントムとの殺し合いですらリンにとっては……。
ぐるぐると渦巻く悪い思考を振り払う。ちょうど、無線から指揮官の声が届いた。
「逸見さん。お待たせ」
「おっせえ……何してたの? うんこ?」
「違うよ」
「――迷惑をかけた。ごめんなさい」
会話に割り込んだ張本人に、リンは怒鳴りつける。
「しおり! てめぇ、お前のせいで色々とんでもないことに――」
「あとで聞く。……すぐ終わらせるから」
しおりの言葉に、リンは思わず笑ってしまう。クオンが苦戦した相手に、しおりが勝てるなんて。
しおりが、上空から着地する。周囲を焦がすようなすさまじい熱気が漂う。――出力が、常日頃のそれと違う。槍がしおりの手元に戻ってくる。主人の下に馳せ参じるように。
クオンのほうをちらりと見て、しおりは顔をゆがませた。
「――……っ」
「とりあえず、ファントムを撃破しないと治療も撤退もできない」
「分かってる」
槍に、力が込められていく。
「――ありえない。しおりにそんな力――ありえないんだけど」
「一人じゃないからね……指揮官の力を借りてるのは、癪だけど」
これが、指揮官の、力? こんな、圧倒的な力が得られるなら――。しおりは、一気に突貫した。ファントムも、槍を同じように構えているが――。
「それ、私の真似? それとも、私の槍を持って行った、クオンの真似?」
槍と槍の穂先がぶつかる。かぁん、と甲高い音が戦場に響いた。ちりちり、と火花が周囲に舞い散る。ファントムの槍に、熱と呼べるような力はなかった。その槍に蓄えられた力は、ただの模倣。
「槍よ、燃えろ」
しおりが跳ね上げた槍の切っ先が、ファントムの兜をかすめる。かすめただけで、兜は赤熱し、くぐもった声で悲鳴を上げた。
「燃えろ。焦がせ。一切を焼き焦がす燎原の火」
鋭い突きが、一息の間に二度、三度と鎧に穴をあけていく。
「我が根源は火。一気呵成に万物を焼き滅ぼし、その在り方を流転せしめん」
一合、また一合。槍を合わせ、火花を散らせば散らすほど。しおりは優勢になり、鎧はその形を保てなくなるほど疲弊していく。抵抗は、もはや無意味であった。
「木端微塵・大爆槍――これで終わり!」
槍が、ファントムを貫くと同時に、爆発した。鎧の姿は、炎に飲まれて消え去った。
しおりは、槍を引き抜いてたちまちクオンのところに駆け寄った。――勝った気がしない。なんて、言葉に出す必要もない。
クオンをこのまま死なせてしまえば、敗北することになる。
「クオンを運ぶ」
「言われなくても」
刺さった鉄筋が、ちょうどよく止血になっている。意識の戻らないクオンだが、その胸が浅く動いているのを見て安堵する。
まだ、死んではいない。きっと施せる処置があるはずだ。
彼女の意識が目覚めたら。何を言おうか。感謝? 謝罪?
いずれにせよ、しおりは思う。――もう、逃げるわけにはいかない。クオンに、大きな借りができてしまったらしい。
木端微塵・大爆槍
周囲の敵に灼熱属性のダメージを与える。攻撃力×3000%。
クリティカルヒットした場合、クリティカルダメージブースト+200%。