未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか 作:ねこ
こちらをすごい目で睨みつけているのは、ドリームキャッチャーの大隊長、久我山さんと、もっと上。ドリームキャッチャーですらない普通の軍人の厳めしいおっさんである。
「――今回の査問会は不正が疑われる隊員に関して、事実調査を行うためのものです。事実を黙秘することも含めた偽証は認められず、虚影対策基本法及び虚影特例法に基づく軍事裁判で裁かれることとなります。それでは、査問を始めます」
ひぇぇ。圧迫面接というか、無断出撃ってこんなに罪が重いのか……。いや、重いか。結果良ければすべてよしじゃないの? なんて、そういう理屈は社会では通用しないんですよね。ぐぬぬ。
「まず、あなたは七月二十日午後十五時半。待機指示を知りながら出撃しました。事実ですか?」
「事実です」
「分かりました。特別な理由がなければ、独断による出撃は通常認められないということは知っていましたか?」
「……待機指示が、出撃判断を妨げるものにならないということのみ知っていました」
「――では、なぜ出撃したのですか?」
原作に介入するため、という事実を吐くのはまずい。それは誰でもわかる。――そして、臨床小隊の危機を察知したというのもかなり危ない。機密にアクセスしてる、とか言われる可能性が高いので。
ギリギリ嘘にならないラインで、理屈を並べるしかない。
「ファントムの数が、多いのは基地からでもわかりました。気配が、しましたから」
「続けてください」
「その日の出撃が臨床小隊の試験出撃で、大半の隊員が基地で待機中でした。あの規模の数を、臨床小隊と遊撃部隊だけで攻撃するのは、無理がある。そう判断しました」
「その判断を久我山大隊長に提案しなかったのはなぜですか?」
あうぅ……。社会であんま言っちゃいけないこと言ってしまおうかな。今はクソガキなんだから。
「――久我山大隊長に提案しても、許可される可能性は極めて低いと考えました」
「常日頃、久我山大隊長の指揮に不満があったということですか?」
まずい。なんか知らんがとにかくまずい!!! ここで、事実でしょうとか叫んだら、とにかくまずい方向に持っていかれる!
今更気づいたが……この査問会。有罪ありきの弾劾裁判みたいなものだ。
「……いえ。ですが、久我山大隊長に出撃の必要性を説く前に、急ぎ出撃しなければならないと考えました」
「――――組織において、指揮系統を軽視することがどれだけ問題かを理解していないようですね」
「……」
沈黙――まぁ、結果が過程を正当化するなんて言いたくはないし、実際私が出撃しなくてもあの場はシナリオ通りなら何とかなったはずなのだ。
それを考えれば、別に私が戦う必要なんて――。
「比良坂。お前にとって私は良い大隊長ではなかったらしいな」
ずっと無言だった久我山が、口を開いた。
「――お前の出撃が結果として穂村の覚醒をもたらしたことには素直に感謝している」
「そう、ですか。それは何と申し上げてよいことやら」
「ところで、だ。比良坂」
「はい」
「……穴の開いた内臓は無事か?」
「えっと……おそらくは」
久我山の隣に座っている軍人が、久我山に耳打ちをしている。久我山は何か首を振り、こちらを見る。
「お前の臓器の一部はな、そもそも存在しない。知っていたか?」
「……えっと、つまり?」
おなかを思わずさする。いつも通りのおなかである。
「お前の肝臓・腎臓・肺の一部。加えて、消化器系の一部。それらの臓器は欠損を幻想力によって補っている。お前は常に出力を回し続けているがゆえに、戦闘で出せる出力に限りがあったということだ」
「――そんなことができるんですか」
「できている。……どうやら、お前自身は知らなかったようだな」
久我山が、鋭い眼光で睨みつける。私を。
「まどろっこしいのは嫌いでな。単刀直入に話させてもらう。貴様は、その力をどこで身に着けた? 幻想力を常時高出力で維持し、そのうえ戦闘にも転用できる余剰を残している。幻月をお前は内臓を失った状態で生き延びている。――あの夜に、高度な幻想力操作を覚えた。そう考えていいのか?」
「えと、その、あまり覚えてなくて……」
「領域に入った者の原風景を、例外なく焼き付けたあの幻想世界が、覚えていられなかったのか。――お前は、何者だ?」
幻月。知っている。確かに体験した。だけど、同時に。これが私の記憶なのか疑わしくなる時がある。ゲームで見知った誰か。口づてにきいた何か。そういったものの混在なのかもしれない。
「わ、私は――私の記憶を、信用できません。どこまでが自分の体験なのか。どこまでが幻月だったのか。わからないんです」
責め立てるような、久我山の視線が胸に刺さる。知らない。疑われているのか。どうして。私は――比良坂クオンは、何者だ? そんなもの、私は分からない。
絞り出すように、言葉を紡ぐ。
「実のところ、まだ――夜、空を見上げると。あの青い月が見える時があるんですよ。聞きたいのはこちらです。久我山大隊長。私は、何ですか? あなたは、何ですか。――ひょっとして、今もまだ幻月の中なんじゃないんですか――?」
「……今日の査問はここまでだ」
私の言葉に、久我山は話を打ち切った。
部屋を出てから、胸の中には暗雲が立ち込めていた。そうか。確かに、私の身元は。疑われるべくして、疑われている。納得したい。納得しなければならない。
前世の記憶。ここはゲームの世界。だれが、そんな、戯言を信じる? 青い月の狂気にあてられておかしくなったとしか思われないだろう。
じゃあ、私が虚影側につかなかったとして。――ドリームキャッチャーは、こいつらは。本当に味方なのか? 私の「いざというとき」に、私を守る盾になってくれるのだろうか。
鉄筋が突き刺さったはずの部分に触れる。強く、強くおさえる。
空っぽのおなかには思えない。そこまで高度な幻想力の行使ができるのだろうか。本当に?
ぐるぐると回る思考の渦の中で、声が聞こえた。
「比良坂さん……」
「ぁ、蓬、クン――」
どうしようか。こんな状態で、指揮官とは話したくないんだけど。蓬くんは、サイダーを私に渡してきた。
「好きなんだよね、ほら」
「……ありがとう」
プルタブを引っ張って、一気に炭酸を飲み下す。心地よい痛みが、のどを刺激する。軽く一息ついて、つぶやく。
「消化器も幻想なら、飲んだサイダーもこぼれちゃうんじゃないかって思わない? 蓬クン」
「――そのこと、知ってたの?」
「知ってるわけないじゃん。知ってたら生命活動に不要な臓器は捨てて出力に変えるよ」
「絶対、そんなことしちゃだめだ」
「戦場に出ない、私を指揮しない。蓬クンのいうことを聞く義理、あるかな?」
頭の中では別のことを考える。嘘で現実の臓器を作り出せるなら。現実を食らって、幻想力に還元することもできるはずだ。――あー、そっか。その力こそが、虚影なのか。現実を食らって、力を蓄える。……多分、「俺」が死んでからのアプデで公開された情報なんじゃないかな。奇しくもたどり着いてしまった。
「それでも。自分を犠牲にするような戦い方は、認められない」
「誰しもが文字通り身を削ってる。もとから無いものを無くすだけ。ゼロからゼロを引いて、力を生産する。――もっとも、できるかどうかは知らんがね」
「……それがなきゃ、比良坂さんは死ぬかもしれないんだよ」
死という言葉を、目の前の男は私に向けた。
「しおりを助けて、竜にぶっ飛ばされて、乗用車をへこませたとき。――竜人にぼこすか殴られて、鉄筋が腹に刺さったとき。その前から、何度も、何度も何度も。死ぬんじゃないかなと思ったよ。それでもまぁ、自分なりに悪くない選択ができたかなと思えてたんだ。その挙句の果てが、これなのかって思うと。そうだね」
炭酸を、一息に飲んでしまう。
「――あの時死んでおけば、よかったのかもね」
「……」
黙ってしまった。何かをこらえるような顔をしているその顔を見て。苛立ちを覚える。――あぁ、そっか。私は、怒っているのか。
理不尽な査問。理不尽な疑惑。未来を知る私からすれば、濡れ衣とまでは言えないということは分かる。でも、それでも。
「いいよね、蓬クンは。しおりの力を引き出して、臨床小隊は大成功。もちろんしおりも査問を受けてはいるけど……あの子を処分するつもりなんて何一つないわけだ」
言葉が止まらない。この子にぶつけても仕方ないのに。わかっている。でも、久我山にぶつけても無意味だ。
「そんな、僕は――」
「ついでに言ってしまうけど――――お前が隊員を止められなかったせいで、しおりが死にかけたってこと、理解してる? よく指揮官続けられるね、お前」
はっきりと、殴られたみたいな顔をした。泣きそうな、くしゃくしゃの顔。――なんかむしゃくしゃして、つい好き勝手に言いすぎてしまったかもしれない。
「ごめんね、励ましに来てくれたのかもしれないけど……あんま、聞く気になれないや」