未実装・闇落ちキャラに救いはあるのか   作:ねこ

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明日は多分更新無いです。ごめんなさい!


「私はクオンの味方だから」

 あれから何度かあった査問が終わり、結果的に私の処分は保留となった。その代わりと言っては何だが、監察処分として私は出撃回数の月次制限と更生プログラム、ついでに幻想力操作講習なんてものも受けさせられるようになった。仕方ないんですけどね。

 しおりは厳重注意で済んでるあたり、なんつーか政治っぽい何かが動いているのだろうか。プレイアブル補正……ってことか!?!?

 幻想力操作とかいうけど、私はそもそも出力のコントロール精度はかなり高い方だと自負している。臓器を出したり出さなかったりしろってのか。まぁ、蓬くんの前ではできるみたいな顔してるけど。

 

「――そもそも私の臓器(おなか)が偽物ってのにびっくりしてるのに……」

「おなかが偽物? 何の話?」

 

 ぼそりとつぶやいた言葉を捕まえていきなり声をかけてきたのは逸見リンであった。リンは査問の中ごろから、私とよくご飯を食べておりなんだか親しくなった。しおりの行動に巻き込まれたということに腹を立てているらしく、臨床小隊の行く道は多難である。

 

「うーん……臓器を幻想力で補完してるらしいんだけどさ、ほんとにそんなことができるのかなーって」

「えーっと、臓器を、補完? 誰が?」

「私が。……でもどちらかというと定義にほころびが生じたというか……ん? 幻想力ってそもそも」

「ちょっと! 勝手に自分の世界に入るのやめて。――前の戦いのせいで? そうなったってこと?」

「いや……幻月のときに、おなかのほとんどを失った、らしくて……」

「は?」

 

 リンは、私の言葉に目を大きく見開いて動きを止めた。目には動揺が見られ、心なしか呼吸も浅い。絞り出すように、リンはつぶやいた。

 

「かのん……なの?」

「――――違う。私は、比良坂クオンだよ」

「じゃ、じゃあ! クオンはあの月の下で、なんでそんなことになったの? おなかに穴があくような、ひどい攻撃を受けたの?」

「……知らないよ、そんなの。覚えてない」

 

 急き立てるように幻月の話をしてくるリン。やめろ。そんなセンシティブな話をするな! デリカシーがないんじゃないですかぁ?

 リンは、何かぼそぼそつぶやいてから、誤魔化すように笑った。

 

「ううん、なんでもない。私の勘違いだったのかも……でも、大丈夫。私はクオンの味方だから。今度こそ、私が守るから!」

 

 リンは笑って、その場を去った。……人違いなんですけど。とは言いづらい。

 しおりのハートランドは、自分が見捨てた死体の山から構成される、後悔と怨嗟の集合。リンの原風景は、少し違う。

 永遠に続くトロッコ問題とでもいおうか。正義と不正の根本にあるべき選択。何を選んでも、自分以外が贄となる世界。その世界の中心にいる存在が、逸見リンを救って死んだ少女。空島かのん。彼女が十字架に架けられた世界こそ、リンの原風景。

 かのんの死に際の一言が、リンを縛る呪いになっている。――その呪いがあるから、逸見リンは息をしている。かのんはリンの心臓(生きる意味)だ。

 そんな存在と同一視されるいわれはない。私は、闇落ちするかもしれない不安定で愚かなドリームキャッチャーの一人。……ひょっとすると、私はファントムにただ利用されるだけで……すぐに死ぬ出オチキャラなのかもしれない。

 

 スチルを思い出す。

 

 巨大な十字架。磔刑にされている、目に光のない少女。その少女を見上げて、涙をこぼすリン。――二度と間違えません、と叫ぶその姿は。許しを請う咎人のようであり。あるいは、最も敬虔な信徒のようでもあった。

 リンも、普段のぎゃるぎゃるしい様子とは裏腹に、精神的にかなり危うい。まさか、私に変な誤解をしてくるとは思わなかったが……。

 

「ま、蓬クンにお任せだな」

 

 ちょっと、私には受け止めきれそうにないですね。ご勘弁!

 

 

 

 

 

 

 

 青い月の光は、炎として顕現した。その光に照らされた人間の皮膚は焦げ、肉はじゅうじゅうと音を立てる。溶け落ちた皮膚。赤い足跡。水を求めて誰もが川に飛び込み、下流は赤黒く染まる。今でこそファントムと呼んでいるそれは、光で焼かれた人間と区別がつかなかった。

 光を避けて逃げてきた私の前で、空島かのんは誰よりも頼りがいのある存在だった。

 

 青い月を避けて古びた教会に逃げ延びたかのんと、それにつれられた私。続々と集まる子供たち。かのんは、子供たちの中で唯一幻想力を行使できる「ドリームキャッチャー」だった。私たちは、そのおこぼれを預かるだけ。

 黄金の角笛を吹き鳴らし、天から無限のつるぎを打ち落とすかのんの力は、私たちにとっては神そのもののように思えた。

 かのんを頼るものは日に日に増えていき、青い月の力に対抗できる力が蓄えられていった。

 

 でも、かのんは一人で戦っていた。

 

 一人でできることには限度がある。かのんは、力を分け与えた。青い月から身を守る防護壁と、剣を無限に生み出すチカラの一端を。私を含めた、十三人。

 私は、そういう意味で純粋なドリームキャッチャーではなかった。

 与えられた、借り物の力で。それでも、幻月の中で戦い続けた。何年、何か月。あるいは、数日だったかもしれない。それでも、奇跡を起こし、かのんを慕って戦い続けた日々は楽しかったんだ。地獄のようだったけれども。それでも、不思議なことに楽しかった。

 

 終わりは、唐突にやってきた。

 

 かのんだけは、終わりを知っていたのかも。

 

「ファントムとドリームキャッチャーは、その根源において同じ力を使っているんだよ。だから、その在り方は表裏一体。簡単に逆転する」

 

 かのんはそう言い残して、いつも通り巡回に出かけた。

 そして、あいつが――かのんの力を与えられた、使徒のひとり。高宮あすかが、ファントムになって私たちに襲い掛かってきた。

 角笛を高らかに鳴らして、剣をまき散らすかつての使徒に、私以外の使徒は討ち取られ。私も、必死で戦ったけど。結局、あすかを殺したのはかのんだった。

 かのんはあすかの攻撃を受けて、おなかにぽっかり穴が開いちゃって。血をだばだば流して、動かなくなった。

 

 あすかを葬って、帰ってきた私に投げつけられたのは無慈悲な言葉で。おまえは、化け物なのかとか。あの力は何なのかとか。

 知らない、と答えた。

 

 明確な言葉(こたえ)を、知っていたはずなのに。

 

 声を荒げて、恐怖のままに動く連中を。とうとう私は見捨てて、逃げ去った。走って、走って。気づいた。

 彼らに、月の光を耐え忍ぶことなどもうできやしないと。思い至って、助けなければと思ったんだ。バカみたいに。

 

 引き返した先にいたのは。微笑みながら、光を放つかのんの姿だった。唇が、かすかに動いた。

 

「往くべきところに、往け」

 

 結局。私は、あの人たちを助けなかった。私は、――小さな建物で力を消耗させるのではなくて。もっと、多くの人々を助けなければならないと思ったんだ。

 だって、それが。生き残った使徒の、意味じゃない?

 

 

 

 クオンの腹が幻想で補われているんだって知って。よく理解した。

 そんな力を使えるのは、かのんだけだ。

 

 クオンは、かのんが復活した姿なんだよね。

 

 

 

 クオンのことをよく知らないバカな連中が、その力を恐れても。私は知ってるから。

 クオンの味方は、裏切り者の使徒でも、力の足りない人間でもない。私だけだから。

 

 今度は、今度こそは。正しくあなたを守ります。




かのん「クオン……? 誰それ、知らん……」
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