自転車を停める、清潔感が大事だと書いてあったからサイクリングスーツまで買ったが、Tシャツとか私服でも全然良いらしい
「あちぃな……」
ガラスに映った俺は競輪の選手みたいだ、自動扉が開くと安っぽいチャイムの音と涼しいエアコンの風、と同時に線香の香りで何だかホッとする
「……おう」
軽く手を挙げる俺
「…お待たせ致しました位は言えんのか?」
本から目を離さない眼鏡…腹立つ、カウンターには紺色の着物に眼鏡の痩せた男、コイツは店番しながら一日中本を読む
世間的に言えばニートだと思うが本人は労働しているつもりらしい
「この暑い日に麻婆豆腐なんか注文しやがって」
俺は背負ったバックを開ける
「エアコンで体が冷えるんだ」
「普通の服着ろ」
嫌味か!
パタンと本を閉じると推理小説
「何を言ってる、コレは制服みたいなモンだ」
やっとコチラを向く幼馴染の嫌味眼鏡、着物の理由だが、コイツは憧れている某小説の人物をマネしているだけだ
ココは仏具屋、路地裏のマンションの1階にある小さな店、近くに雷門がある地域
今はネット注文が主流な上、両親は営業や配達で忙しく、コイツ一人で店番している
「こうやって疲れてるお前の健康を気遣って、この店で休ませてやってるんだぞ?今日も暑いだろ?」
「注文するから来てるんだろうが」
「外出るの面倒じゃないか」
屁理屈ばかり良く出る
梅雨…とは言っても東京は猛暑の午後四時、忙しい時間帯は過ぎていて正直助かる
俺も最近ココで昼メシを喰う様になった、今日も漸く喰える、と、自動扉が開いた
「こんちわ若旦那、線香切らしちまってなぁ」
少し腰の曲がったお爺さんが入って来た
眼鏡の奥がニパっと笑うと
「横瀬の御隠居さん!ありますよ、コレ辺りは煙も少なくて……」
若旦那wの態度がぜんぜん違う…もうこの店自体は大して機能していないハズだが、地元の客にとっては必要らしい、時期によってそれなりに客が入るそうだ
……もうすぐ七月だしな
「ありがとうございました」
横瀬の御隠居とやらが出ていくと
「チッ…まったく、気の利かないヤツだ」
こっちに向かって舌打ちする
「何の事だ?」
俺は店内のパイプ椅子に座り、スポドリと唐揚げ弁当を取り出す
「この狭い店にお前みたいなガチムチが居たらお客様が困惑するだろう?」
「やかましいわ!」
この眼鏡は尾上利一、俺は藤代俊明、
小中と同じ学校だったが、俺は親父の田舎に引っ越した、IT技術競争に親父の会社は呑まれリストラされたから
でも俺にとっての故郷はこの辺り、だから一度東京に出てみたかった、そしてバイト生活を始めて数年
配達員と客という思わぬ形での再会となった訳だ
「やっぱり5時までは暇そうだな」
スマホを気にしながら唐揚げを口へ放り込む
「その前に客が来るんだ、俺達に話聞きたいんだそうだ」
フタを開けて麻婆豆腐を食べ始める眼鏡
「俺『達』?」
「今朝警察が来てな」
「警察っ?!」
立ち上がる、広い道路を斜め横断したヤツ?!OLとブツかりそうになったヤツか?!
道交法違反の覚えなら山程ある!
「落ち着けよ、元不良少年w」
ニヤニヤすると
「一昨日の6月1日、そこの隅田川のトランクの事件知ってるか?」
知ってる、何日か前にニュースサイトで見た、プカプカ流れていたトランクから死体が出たそうだ
「キャリーケースじゃなかったか?」
「どっちでも良い、まだオフレコだそうだがな?中の遺体がな、田辺だったそうだ」
「田辺?」
「覚えてるか?小中学校の時に居たろ?出木杉の田辺」
「………………あの真面目か?!」
「そう、あの秀才」
普通の会社員の家庭で育ち、塾にも行かないのに妙に勉強出来たヤツ
その上人当たりも良くて、渾名はドラ◯もんの出木杉だった田辺
「……何か…」
俺達もそんな歳になったって言うか…
27ってもうそんな事あるのか…
「同級生が…多分事件で死ぬってなぁ、四時に来いって言っておいたんだ」
眼鏡を曇らせ麻婆豆腐をかき込む
と、自動扉が開く
「あー失礼します、度々申し訳ないですが…」
中年の…刑事?が入って来た
「あぁ、今朝言った同級生に来てもらいました、時間通りですね」
営業用スマイル
天パにシワが多い老け顔だけど、見た目より若そうな刑事だ、尾上と変わらない痩せ型、ワイシャツにネクタイ、スラックス、そして革靴
猛暑の中でコレって警察も大変だよな
……………………………………………………
「では小中学校以来見て居ない…と?」
ペンで後頭部を掻く
「同窓会などで話聞いた事は?」
「いや、俺は茨城県に引っ越したんで同窓会とか…」
知る訳無い
「…あれ?確かどこかの附属高に入って、国立大学行ったとか噂聞いたかも知れません、僕は同窓会へは出てませんが」
冷えたお茶を刑事に出す眼鏡、いや俺のは?
……ってか今ボクって言った?
「さぁて、どうしたモンかなぁ…」
「あちらの方は聞かないんですか?入った方が涼しいでしょうに」
外にはもう一人の刑事、スラリとしているが、だらしないボサボサ髪の後ろ姿
暑いのに外で立っている、番兵のようだ
「何て言うのか…Z世代?って言うのかなぁ、貴方がたと同じ位の歳なんだけど、内気って言うか」
小声になり
「まぁコミュ症ってやつですわwまだ刑事になりたてでね、田舎の出身だからかな」
時々ガラス越しにチラリとコチラを見る、それで警察が務まるのか?
「刑事さん、僕は推理小説を良く読むんですが」
やっぱりボクw嫌味眼鏡がボクですか!!
「多分刑事さん達は所轄の聞き込み、本部はもっと核心の捜査をしている…とか?」
「あっはっは、こりゃまいったなぁw」
ゆったり笑うと
「その通りです、捜査本部の連中は大学や職場の捜査してるんですw」
なるほど、偶々小中学校の同級生が近所に居たから形式上聞きに来ただけか、しかも新人の教育がてら
望み薄なのは本人達も分かっている訳だ
「また何か思い出したら連絡下さい、それと電話番号教えて貰える?」
名刺を出して出て行く、自動扉が閉まると
「米田慎吾…ねぇ…ありゃコ◯ンボに憧れてるな」
ニヤニヤ名刺を見る眼鏡
「コ◯ンボ?ポ◯モンか?」
「知らないのか?!あの有名な刑事ドラマを?!良く昼にテレビでやってたろ!」
「普通社会人は労働してんだよ!」
「まぁ良い…見たか?」
「何を?」
「朝来た時もアイツは外で待機しててな」
ガラスを指差す
「?」
「……鈍いな…アイツ見たこと無いか?まぁ例のイメージは無いだろうが」
例のイメージ
俺は小学5年の夏、茨城の曾祖父ちゃんの葬式に行った
小さな山の斜面に50基程の墓がある
その墓場で見たモノが強烈に頭に残っていて、今も時々夢に見る
ソレは墓場の地面
雑草もないタダの砂地だったが、赤や黄色、そして緑の不思議な色、そして凄い線香と何かの臭い
皆不思議がっていたが、ソレが何だか後でテレビのニュースで知った
殺人犯が遺体をあの場所で焼いたのだ、あの地面の色は黒焦げの遺体から出た脂肪分などが地面に染み込み、カビや微生物で作られたモノ
そんな悪臭を放つ地面、後日何も知らずに俺達家族は墓場に行った訳だ
俺はソレ以来夢に見る、そして偶に人混みなどで
『カラフルな地面』や『線香の臭い』
のイメージが出てきてしまう、でもコイツの店は常に線香の匂いで逆にホッとする
「何でアイツ疑ってんだ?それにこの店じゃあ……」
「あぁ、逆に臭いは感じずらかったな、安心するんだったか」
ヤレヤレと眼鏡を外しレンズを拭く
「それで何で疑っt」
「アイツの眼な、何処かで見た気がするんだ、見るからに怪しいだろ?」
「何処で?」
「それが思い出せないから呼んだんだ」
……………………………………
◯◯警察署、刑事課、ドアを開けるとオッサンの香り
「んで課長ぉ!もっと本部から情報出ないんすか?ただ同級生に聞き込みしろじゃ目的無いですよ」
戻って来た愚痴る米田と喋らない新人の菱木
「うるせぇよ…俺だって納得出来ねぇ…ソレより米田、同級生に話聴いたんだろ?」
課長の梶山はデスクで腕組みして俯く、お陰で後退した白髪混じりの頭が良く見える、初見の人には180cmを超える反社に見えるだろう
「小中学校時代の同級生が地元に二人、まぁ勉強は出来なかった様で、一人は仏具屋の店番、一人は◯ber Eatsの配達でしたよ」
梶山は顔を上げると
「被害者の事は何だって言った?」
「出木杉の田辺、勉強出来たらしくて、噂で国立大学行った位しか知ってませんでしたよ」
「そうなんだよなぁ…」
「課長?」
「特捜本部から少し情報が降りてな」
「やっとですか」
「本庁1課が出張る訳だぜ……」
上を指差す、2階会議室が本部になり占領されている
「?」
「被害者の田辺ってのはな?」
「?」
「俺達警察のキャリア様だとよ」
溜息
「………………はあっ?!」
目尻のシワも全開で伸びるほど目を見開くコ◯ンボ
「道理で…合同捜査にならない訳だ…本庁の面子って事か」
「かと言って頼まれたお使いやらない訳にも行かない、お前と菱木は地元の同級生を引続き探せ」
「捜査してるフリっすね?」
「違う」
「え?」
「ガチで捜査だ、特捜にデカいツラされるのは気に入らねぇ」
顰めっ面の反社
警察署を出る米田と菱木
「んじゃ明日は中学行ってみっか」
「先輩、行ってどうするんですか?」
頭髪はだらしないがスラリとした菱木
「昔は卒アルなんていう便利なモンがあってな?氏名住所が載ってたんだよ」
退勤時間で人が溢れる横断歩道を渡る
「個人情報ダダ漏れですね」
「時代ってヤツだ、今はメモリカードで渡す所もあるそうだな、どうなんだ?Z世代としては抵抗ないんだろ」
「抵抗……?」
「携帯やPCが当たり前の世代にゃ情緒なんて分からないだろ?」
「……情緒…」
「ほらな?分からねぇwじゃ明日は朝イチで学校だ」
…………………………………………
次の日、6月4日午後3時、上野付近
「◯ber Eatsでーす!お待たせ致しました!」
オシャレなネイルサロンの自動扉が開くと良い匂い
やべぇ…苦手だ、一度こんな感じの店に配達したとき
『うわぁ……』
って顔された記憶が蘇る
「ちょっと誰よ!?◯ber Eats頼んだヤツ!」
派手な化粧で白衣?の女が文句を言う
「えぇ~ダメでしたぁ?」
こっちも派手なスタッフの女性
「休憩のラテですぅ」
「良いじゃない店長、私は気にしないわよ?」
椅子に座る金持ちそうな派手なオバサン
ヤバい、完全に場違いだ、俺が居て良い空気じゃない
「え、えーと…」
マゴつく、早く出たい
「まったく…今度来る時は静かに入って貰える?気が散る…から…え?」
じっと見る店長と呼ばれた女性
「「あ!!」」
お互いに指差す
「藤代君っ!?」
「牧田ぁっ!?」
…………………………………………
同日午後4時
「牧田がネイルサロンか」
炒飯を食べる眼鏡
「ビックリしたぜ…お前知ってたか?」
相変わらず唐揚げ弁当
「まぁ気になるよな、元彼女の動向はw」
「彼女じゃねぇっ!」
俺は脚が速かった、5年で墨田区内の小学校で1番だった
そうなると言い寄って来る女が居た、中でも牧田花梨はグイグイ来て、他の女子と喋ると邪魔して俺を独占したい様だった
考えて見れば人生のピークだったかもしれない
クラスのカーストの頂点、そして調子に乗ってたんだ
その頃尾上なんて、いつも本を読んでる暗いヤツだとしか認識してなかった
でも現実を知った
記録会だか選抜審査だかに呼ばれた、東京中から脚の速い連中が集められてた
100mトラック、先頭でゴールするイメージしか無かった
でも世の中上には上が居る事を知った
「来年もチャレンジ出来るさ」
担任の言葉で安心していた、だが俺の体は横にもデカくなり体重が増え始めた
そしたら記録が止まった、と同時に皆離れだした
牧田花梨はその一人
「まぁ彼女は承認欲求の塊だからな」
食い終えて本を開く
「『タイトルを持ってる男と付き合ってる自分』が大好きなんだな、心理学で読んだ」
「女ってヤツが嫌になった最初の経験だったかもなぁ」
自動扉が開くと安っぽいチャイム
「おや、お揃いで」
コ◯ンボが手を挙げる
「あぁいらっしゃい米田さん、と…えー…」
営業用スマイル
「あぁそうだ、コイツは新人の菱木って言うんだw」
米田の後から入る菱木、今回は店に入って来たが……物凄い暗い雰囲気で軽く頭を下げただけ
「気にしないでくれるかなw人前が苦手なヤツなんだ、この椅子良いかい?」
もう一つのパイプ椅子に座る、俺の向かいに、菱木は立ったまま
「あれ?まだ俺達に聞きたい事あるんすか?」
尾上は若い方を気にしてたけど、眼なんて前髪で見えねぇなぁ
「いやぁ、君達以外に被害者を知ってる人が居なくてね、尾上君の家は代々ココだから良かったんだけど」
「あぁ、それなら偶然一人見つかりましたよ」
唐揚げ食べながら
「そりゃあ助かる!」
気の向くまま書き出します、自分でもジャンルが分かりません