6月7日、午後4時
「まぁそんな流れで田辺の話聞いたら、付き合ってる女は居ない様でした」
仏具屋、いつもの時間、いつもの唐揚げ弁当
「何故居ないと断言出来たのか分かるかい?」
メモを取る米田
「キャバ嬢の知識で分かる事があるらしくて」
普通は見た目を良くする、尾上の言葉を借りるなら自慢したい訳だ
しかし当日田辺が付けていたネクタイはパニックカラー、しかも近くで見ると
「動物柄だったそうで、私服のセンスがまるでダメらしいです」
「子供っぽいな、でも付き合ってる女が他の女避けにした可能性も…」
自分のネクタイを見る米田
「女避けなら簡単な手があるそうです」
「どんな手だい?」
「男に比べて女の方が嗅覚凄いらしくて」
俺は自分の鼻を指差す
「パン!」
尾上が突然手を叩く
「あぁ!女物の香水付けさせるってアレか!」
何かで読んだらしい
「香水…ね、ありがとう」
自動扉を出る米田と菱木、暫く歩くと
「とりあえず女性関係は無しか…同級生の話じゃこの辺りがせいぜいだな」
「先輩、どうします?」
「そうだなぁ、明日見学行く?」
「見学?」
一方
「あー、なんか疲れる」
「でも実入りは良くなったろ?」
「あぁ」
牧田の店に週4回、ラテを数杯届ける事になった、業務外だから◯ber Eatsは関係無いが
「どう?やってくれたら一回につき三百円、更に週五百円、つまり月6800円経費で払うよ?」
「何でそんなに出せんだよ?」
「儲けが出そうなんだw」
近距離、曜日、時間が確定している、コレは助かる
配達は一件300円だから損は無い
「なぁ、牧田は一回300円、週500円だってよ?」
「そうらしいな」
小説を読み始める
「500円だってよ?」
「俺は頭脳労働、お前は肉体労働、バランス取れてるなw」
「この野郎」
「この猛暑、涼しく弁当食えるのは何故だ?」
ニヤリ
嫌味眼鏡め
その後数人と連絡してみたら
『俺の所町田だけど来れるのかよ?!』
『無理だ、遠い』
『久しぶり、私今川崎だけどお願いして良い?』
『だから遠いって!』
『今度幕張まで頼むわw』
『◯ber Eatsは宅配便じゃねぇっ!!』
しかしそんな中
『私三ノ輪だけど頼んで良い?』
金井美歌という女
見た目は地味だが愛嬌があり、生徒、教師、近所の子供から年寄りまで、誰とでも分け隔てなく話せる不思議ちゃん
不良だろうがお構いなしに普通に喋るから度胸があると思ったら
「良くわかんない」
ポケッとした顔で答えた覚えがある
『花梨ちゃんに頼み方聞いたよ、やってみるね』
と言われ例のやり方で注文を受けた
夜7時、安っぽい賃貸アパート
「ポテトー!」
前の歩道に居た小1位の男子が絡んでくる、匂いで寄ってくるって犬か?
「ソウタ、配達の人だよ、ママ!来たよ!」
お姉ちゃんらしき女子…と
「藤代君?何かデッカいねぇw」
「金井か?」
少しポッチャリしてるが、この間延びした喋り方と狸顔、間違い無い、間違い無いが……
「やだぁ、金井は旧姓だよ、今は村田」
いや分かる、分かるが…
「これ注文のセット、確認をsi」
「ポテトー!」
大騒ぎ、脚にまとわり付いて煩いから一つ渡すと食べ始めてしまう
「受け取りの確認をしてほsi」
「こらソウタ!お家入ってからでしょ!」
お姉ちゃんに怒られる弟……え?子供の歳がおかしくね?
旦那の連れ子とか?
「ゴメンねぇ、騒がしくて」
………………………………
「こっちが主人」
「どうも」
40歳位の痩せた男、軽く挨拶したらアパートに入り、子供達にハンバーガーを食べさせてるようだ
旦那は高校教師で卒業と同時に出来ちゃった婚したそうだ、つまり実の子
「上の娘って何歳?」
「もうすぐ9歳」
「まさか二人の子持ちとは」
「ううん、三人」
腹を撫でる
……恐れ入りました
「藤代君って遠くに引っ越したんだよね?」
大人になるとそんなに遠くないけどね
「実家は茨城で白菜農家だ」
笑い合う……さて
「なぁ、この前クラス会あったんだろ?田辺どうしてた?」
「?、何で田辺君?仲良かったっけ?変じゃない?」
首を傾げる
ギクッ、そうだ不自然だ
「い、いやぁ国立大学行って偉くなってるって聞いたんだ」
「あー、それね」
ジト目
なんでも一流大学の法学部を出て警察へ行ったそうだ
「詳しい話は黒岩君に聞けば分かるかも」
「あー、黒岩か」
いつも学年トップを田辺と争ってたヤツ
「この前田辺君と一緒に幹事やっててね、集まるの言い出したのは黒岩君なんだって」
「あいつが?何で言い出したんだ?」
人前に出るタイプじゃない、尾上タイプなんだが
「もうすぐ眼が見えなくなるから、皆の顔見ておきたいって」
「何だよソレ?」
「事故で凄く視力が落ちたんだって、私も気の毒で詳しい話聞き辛くて」
……この話は田辺と関係あるか?
「誰かその話知ってる奴は?」
「うーん、事故の事……分かんない、藤代君そんなに二人と仲良かった?」
「いやぁ、気になってな」
探るって難しいな
…………………………………………
翌日、8日午後3時、両国橋のそば
緑地帯を見下ろす米田と菱木
「おいおい、ダイバーまで使ってるぜ」
「川の中って視界あるんですかね」
下の緑地帯に鑑識が何人も居る、ワンボックスの警察車両も数台、川にはダイバー、本庁の潜水班が来ている様だ
「ヘドロの中からスマホ探し出せるかねぇ」
人形焼きを口へ入れる米田
「アレ何ですか?」
指差す菱木、ダイバーが先端に丸い円盤が付いた、長い棒をもっている
「金属探知機、本部も本気だねぇ」
「おい!」
後ろから呼ばれ振り返るとスーツの中年二人
「お前〇〇署のヤツだよな?」
その襟には
(やっべえ赤バッジ、本部の特捜だ)
「そうすよ?非番なんで後輩に地理教えてるんです、何の捜査で?」
ニコニコ答える米田、菱木は頭を下げる
「フン、所轄に関係無い!」
「はぁ」
(へいへい所轄ね、退散しましょ)
「ありましたー!!」
下から大声
「あったか!」
「よし!」
拳を握る特捜、水中ライトの光が上がって来ると20人ほどのダイバー、こんなに居た
下を見ながら
「スマホ見付かったみたいですね」
菱木の何気ない一言
「ばっ!お前!」
狼狽える米田
「…おい!なぜ見付かったのがスマホだと分かる?!」
「お前らぁ!何してた?!何を知っている?!」
「い、いや勘でそう思ったんだよな?な?」
「…………」
俯いた菱木
……………………………………
仕事中に尾上から連絡、電話に出ると
「思い出しだんだ」
田辺の進路を誰から聞いたか思い出したらしい
「鶴見だ、あの機械好き」
鶴見、高校行ってから疎遠になってたが俺に近いヤツだった
小学校の頃は俺に次いで脚が速かったが、頭より運動神経のヤツで、(俺も人の事は言えないが)バイクを触りたがり、俺とバイクの話ばかりした
ちなみに不良グループに入ると思って仲間の所に一緒に行ったら、エンジンの形式について熱く語り出し
(あ、コイツ違う)
と思われ仲間にならなかった
確か町田に住んでいる、LINEを投げるとすぐに
『おう、来てくれるのか?』
『そうじゃない、何か尾上と会ってたらしいな』
話を聞くと工業高校に進学、そのままバイク屋に就職した
偶々尾上の近所で自転車屋兼バイク屋が廃業する事になり、下取りを頼まれた
軽トラを停める場所を探していたら、偶然尾上を見かけ、店の前に停めさせてもらい、少し話したらしい
「長文めんどくせーや!」
着信から通話へ
「藤代は茨城で何してたんだよ?」
「普通に健全な高校生だぜ?」
「健全って何だよwあっちはヤンキーの本場だろ?お前原チャリ乗るの好きだったじゃん!」
俺もそんなイメージだったが、オヤジの実家に引っ越して驚いた
週末の夜にブンブン音がしない、高校でその話をしたら
「バカにしてんのか?」
「あんなクソダセー事する奴もう居ないだろ」
「俺は田舎者です、どうぞバカにして下さいって叫んでるようなモンだぞ?」
「何だよソレw」
「足立とか台東区の話したら『田舎かよ』って言われたぜ?」
珍走団なんてネットでは言われてるしな、さて
「なぁ、田辺が国立行った話って誰から聞いた?」
「あー?あれ?就職してからだったか?何でよ?」
「いや、国立出た奴から世の中見たら、どう見えるのか聞きたくてな、田辺が何してたかとか分かるか?」
「この前警察になってた話はしたな、何か出世コースに居るらしかった」
「出世コース?」
「キャリアって言ってたぜ?ドラマでよく出るアレか?」
多分正解
「黒岩と幹事やっててな、何かスゲェ仲良さそうだった」
「黒岩って眼が悪いらしいな?」
「あぁ、事故に巻き込まれたらしいぜ?」
………………………………………………
8日 午後4時
「成る程、黒岩か」
今日は回鍋肉弁当の眼鏡
「結局黒岩になるな」
唐揚げ弁当
「こんにちわ」
米田と菱木
「いらっしゃい、何か進展ありました?」
と、
「若旦那」
お婆さんが入り口に来た、店内が狭くて遠慮して入って来ない
「ありがとうね、見付かったよ」
割烹着で頭に三角巾を付けた恰好、コンビニ袋を持ってきた
「お礼なんて要らないのに」
営業用スマイルで袋を受け取る
「良いんだよ、いつもありがとうね」
笑いながら帰って行く
ガサガサ袋を開けると
「おお、何と今日はお茶菓子が出来ましたよ」
米田と菱木に和菓子を渡す
俺のは?
「尾上、何だあのお婆さん」
「すぐそこの和菓子屋のお婆さん、良く入れ歯なくして聞きに来るんだ」
月餅を囓る
「……もしかして尾上君ってそういう事が得意なのかい?」
米田は団子
「簡単ですよ、入れ歯を外すのはほとんど寝る時と洗う時だけです」
寝る時なら寝室の辺り、洗うなら水周り
「それ以外で外す時は大体ティッシュに包みます、それを忘れてゴミ箱に入れちゃうんですw」
「うん……なぁ、尾上君って探偵になりたいとか?」
コイツ勉強はともかく、頭は良いな
「米田さん違うんです、コイツずっと中二病なんですw」
「何だいそれ?」
体を乗り出す
俺が調子に乗ってた小学生の頃、コイツは辞書みたいな分厚い小説を良く読んでいた
「いつも家で本を読んでて、最後に全部の謎を解く人が着物なんすよ」
「着物だけじゃないけどな」
眼鏡を直す
「成る程、尾上君はアームチェア・ディテクティブな訳だ」
「?、何ですかソレ?」
唐揚げを咥えたまま
「人の話聞くだけで事件解決する探偵の事だよ」
茶を啜る米田
成る程、確かにそうだ、コイツは店から出ていないのに事件を調べ……あ?
「おい、俺に情報集めさせてないか?」
「そのお陰でお得意様と収入が増えてないか?」
この野郎
「で?米田さん」
「あぁそうだ」
ポケットからスマホを出し
「コレをLINEに載せて欲しいんだ、田辺さんが使ってたスマホかも知れない」
画面が酷く割れたスマホの画像
「分かりました」
俺は言われた通りに送る、さて…
「何て書いたら良いか…」
「普通に『コレ田辺のスマホと同型か?』って送れば良いだろ?余計な話は逆に突っ込まれるぞ」
米田に向き直ると
「スマホ見付かったんですねw」
ニヤリとすると
「やっぱり田辺はキャリアでしたねw」
「尾上君、何処でその情報を?」
身を乗り出す
「藤代がクラス会に出たヤツから聞いたそうです、所で米田さん、いつもより二人共シャツがキッチリズボンに入ってます、ネクタイも一度締め直してますね、偉い人に会いました?」
やっぱりコイツは切れ者だ、ウソを言うのは悪手かもな
「いやぁバレた?さっき特捜本部に呼び出されて怒られちゃったw」
天パ頭を掻く
「スマホが行方不明の情報はコッチに来てない事になってるのに、コイツがペロッと言っちゃってさw」
菱木は立ったままモソモソ最中を食べている
「まだ新人だからその辺りの事か分からないんだよw罰として課長から夜勤押し付けられたw」
凄く小さい声で
「すいません……」
案外マヌケなのか?
「…成る程…自分の縄張りに威張ったヤツが来たら気分悪いですもんね、米田さん達は本気で捜査して見返したい訳だ」
光る眼鏡
「……その通りだよ、課長に尻叩かれてるんだw」
目尻のシワが深くなる
(コイツ使えるな)