11日朝9時 仏具屋
店の自動扉の鍵を開けると、
「尾上君!」
いきなり駆け込んで来る米田
「米田さん、どうしました?」
「尾上君!落ち着いて聞いてくれ!」
……………………………………
さぁて今日も稼ぎますか、ワンルームのアパートから出てチャリに跨る、今年はカラ梅雨か?と、
「ピロン」
早速注文!……あ?尾上?着信?出ると
「黒岩が殺された!!」
「何だと?!!」
仕事どころじゃねぇっ!!
「署まで来てくれるかい?!」
「え?!米田さん?!」
警察署の刑事の部屋で話を聞く
今朝8時頃、近くに住んでいる黒岩の母親が訪ねた所、倒れている黒岩を発見、通報
現場は荒らされておらず、部屋の状態から物取りではないようだ、隣人も争う声など聞いていない
となれば顔見知りの犯行、絞殺だそうだ
「えーと、僕達は取り調べ受けるんですか?」
キョロキョロする尾上
「最近被害者に接触してる訳だし、事情聴取だよ」
なんか疲れているコ◯ンボ、梶山も眠そうな顔
「お二人とも徹夜ですか?」
「夜勤明け、ゴツい上司とw」
「うるせぇ、あー、先ずは指紋取らせて貰えるかい?尾上君は初めましてだな」
ニコっとする反社
「はい、仏具屋の尾上です」
軽く頭を下げる
尾上と一緒に青いインクを指に付け、書類にペタペタ指紋を付ける、全部の指だ
俺は住所も書いていく
「どうやら僕達は信用されてるみたいですね?」
「犯人だったら素直に警察署には来ないだろう」
伸びたヒゲをジャリジャリする梶山
「いつもこんなに人少ないんですか?」
梶山と米田しかいない
仮眠用なのだろうか、ヒビ割れたソファーセットに座る俺達、向かいに二人が座って書類を書く
「あー…何から話したら良いか……米田」
「はい、捜査本部の話しちゃっても?」
上を指差す
「構わねぇ、捜査手伝って貰ってんだしよ」
米田さんの話によると、昨日夜7時に合同捜査が決定、情報共有のための捜査会議が開かれた
田辺の事件では重要参考人として、とあるホームレスが重要視され、都内全域に画像が送られた
「そんな画像があったんすか?!」
「…どんなヤツです?」
メガネが光る
「これ見て」
出されたタブレットには街灯に照らされるツバの広い帽子、斑に見えるのは汚れだろう
それにロングコート、左肩から背中にかけて白っぽいペンキ?の汚れ
少し写ってる顎の辺りには髭かな?斜め上からのアングルで顔は見えない
そして喋ってるらしいスーツの男、コレが田辺か?
「画像荒いですね」
尾上は眼鏡を取ったりして見ている
「本来は河川管理の映像を拡大したやつだからね」
あぁ、台風の時に川の監視してる映像のか、橋のすぐ横の公園っぽい、手摺の前で話している様だ、だけど
「コマ送り?」
「大雨警報とか出るとフルになるらしいけどね、普段は数分おきらしいよ」
二人が話し…次の瞬間には…居なくなった
「コレじゃ分かりませんね」
「何でこんな暑苦しいカッコしてんだ?」
「藤代、ホームレスだから中は何も着ていないかもしれないぞ?」
この暑い東京でなぁ
「このホームレスと田辺さんが何かを話して居たのを、近くを通った会社員と、その辺りに住んでるホームレスが見ている、午後10時位らしい」
「じゃあそのホームレスに聞けば直ぐに…」
「ずっと見てた訳じゃ無いそうだよ、関わりたく無いから住処に入っていたそうだ、それと両国橋のホームレスはコイツを見た事ないそうだ」
写真を突付く米田
「ウチの地域課…まぁ交番のお巡りさんがな、上野近辺で見てるそうだ」
梶山は周りを見ると
「みんなそっちの捜索で今朝から出払っちまったよ」
「ここまでは田辺君の進捗、で、君達が黒岩君から聞いた話をもう一度聞きたいんだ」
なるほど『こっちがコレだけ情報出したろ?だから隠し事せずに全部話せ』か
もう一度説明する、勿論昨日話した内容で全部だが
「うん、買い物頼んだヘルパーさんが来るまでだね」
「はい」
「それ以後は分かりません」
「今ヘルパーの所へも捜査員が行って事情を聞いてるが…夕飯を買ってきて、黒岩君が食べ終わるまで居たそうだ、さっき連絡が入った」
梶山はメモを置くと
「気になるのは……その『アイツ』だよな、クラス会に参加した人、参加したメンバーの中のヤツ……」
腕組みして唸る
「田辺さんの事件と関係あるのか別件なのか……とにかく全員に連絡して貰えるかい?あと名前全員分書いて、住所も聞き出して貰えると助かる」
メモ帳とペンを出す米田
「…その前に確認したい事があります」
眼鏡を直すと
「田辺と黒岩の死亡の事は伏せた方が良いですよね?」
そりゃそうだ
「どうします課長?」
「……まだ伏せておいてくれ、公開捜査にならない内にネットに流れたら問題だ」
「分かりました」
「木村に知れたら拡散するかも知れないもんな」
「あ、そうだ、一度現場来て貰える?」
……………………………………
サイクリングスーツと着物がkeep outのテープをくぐる
半日も経たずにまたこのアパート、そして黒岩は……いない
「お疲れ様です」
番兵の様に立っている初老の制服警官
「はい、お疲れ様です」
軽く頭を下げる米田にならって俺達も頭を下げる、と、
カラフルな地面!線香の臭い!
「んぐっ!」
鼻を抑える
「藤代、アレか?」
「あぁ…あのイメージだ」
人が死んだ場所だから当然だわな
開きっぱなしのドアを出入りする鑑識の人、その一人に
「谷さん、データ行ってます?」
米田が呼び掛ける、ベテランらしき人
「あー?……おう、二人分指紋来てるな」
マスクと手袋を外しタブレットを操作する
「その指紋はこの二人なんです」
米田はこっちに手を向ける
「おう、そいつは助かる」
俺達は昨日、どこに座ったか、どこに触れたかを聞かれる
「そうだ、アンタラに聞きたいんだが、昨日軍手してたかい?」
「いえ、着けてませんが」
「この真夏にですか?」
「なら良いんだ」
そのまま解放された
……………………………………
「軍手……犯人は軍手してたんだな」
チャリを押す
「もう一度全員に連絡しておく」
「おう、俺は仕事に行くわ」
自転車に乗り走り出す
『仏具屋の尾上だ、この前のクラス会のリストあるかな?あったら欲しい、あと皆の住所も、年賀状送るよ』
『年賀状w』
『今時ハガキが来るのかよw』
『でも古き良き日本って感じ』
『リストなら田辺か黒岩が持ってんじゃね?幹事だし』
『あの二人に聞いてみれば?』
『なんか二人共コメないね』
『黒岩は仕方無いべ』
『変じゃね?』
その後も返信が続いたが……真昼、店番している時にLINE電話が来た
「尾上君?」
「金井?いきなり通話とは」
「グループLINEじゃ書けない事だからさ、それと今は村田だよ?」
「で?どうした?」
「藤代君って田辺君と黒岩君と仲良かったの?」
「?、中学の時ウチでゲームとかやってたが?」
「何で?」
「何で??」
午後4時
「さて……」
スマホを見たまま動かない尾上、麻婆豆腐が冷めそうだ
「米田さん達、18人全員の住所調べて聞きに行くんだろうな」
俺は唐揚げ食べながら
「……いや、ずっと引っかかる事があってな」
眼鏡を外し目頭を摘む
「何がよ?」
何か変、小さな違和感、気にしなくても良い些細な事だが
「藤代、そもそもだ、幹事やってて参加者の誰かを『アイツ』って言うか?」
……想像する、自分が幹事やってたら……名前……始まる前に確認するよな…
わざわざ『アイツ』が居たなんて…
「言わねぇな……勿体付けてんじゃね?」
謎掛け?
「いや、黒岩の性格考えると素直に言うと思う」
「顔は覚えてるのに名前が出てこない……とかか?」
顔!!!
「そうか!何であの時気が付かなかった!!」
カウンターを叩く
「どうした?!」
「黒岩は眼が悪い!逆に耳が良くなってた!」
「そうだな」
「分からないか?!黒岩は知っている『声』を聞いたんだ!」
「……あ?……!、『アイツ』ってクラス会に呼んでないのに『会場に居た』って事か!」
となれば!
「ホテルのスタッフだ!そこにお前も知ってる…いや、同級生の誰かが居たんだ!」
「考えてみりゃ地元なんだしありえるわな!」
「米田さんに連絡だ!」
スマホを操作
「浅草〇〇ホテルのスタッフ?」
「そうです!黒岩の言った『アイツ』は従業員です!」
「詳しく聞かせて貰えるかい?」
話してみるが
「うん、声だけで根拠は薄いけど、従業員名簿程度なら直ぐに見せてくれるよ、ついこの前別件で行ったばかりだし」
「別件?」
「そのホテル先月事件があってね、ウチが行ってるんだ」
「ちょっと待って下さい」
pcで検索、直ぐに出て来た
「この結婚式に男乱入ですか?」
「そうそう、ガールズバーの女の子が結婚する話を聞いた常連がね、包丁もって行ったんだ、けど親族に取り押さえられてね、大事件にならなくて良かった」
「………5月23日……土曜日」
ビクン!とする尾上
「そんな事あるか?……ありえるか?」
「何だ!どうした尾上?!」
「まさか…」
カウンターを見つめる
「尾上?」
「藤代、後で話す、今は待ってくれ」
スマホを持ち直す
「……米田さん、今一人ですか?」
「例のホームレスの捜索でね、ゴツい課長とツーマンセルw」
「誰がゴツいだ」
尾上が固まっている、一点を見つめて
「おい?尾上?」
麻婆豆腐は冷え切っただろう
「尾上君?尾上君?どうした?」
スマホから米田の声が漏れ聞こえる
たっぷり十数秒の静寂を破る
「ただの思い付きですが、やってみませんか?」
………………………………………………
特捜本部
「千束のコインランドリー、こっちは南千住、後は上野のコインランドリーでも確認出来ます」
「夜はコインランドリー内で1時間程寝るようですね」
「で、注意されない内に移動か」
コインランドリー内の防犯カメラ映像、コートに白ペンキのホームレスが複数のモニターに写っている
生活パターンを把握出来たと思ったが、煙の様に消えてしまった
捜査本部では連日捜索が行われているが、一向に足取りが掴めない
「どうなってる……」
連日の徹夜で疲れが溜まっている時田
周辺の県警にも写真を回した、徒歩での移動なら1週間程度ならそこまで遠くには行けない
だがとにかくおかしいのだ
そもそもあのホームレスは両国橋付近に突然現れた
その前に付近の防犯カメラに写っていない
田辺の足跡は辿れているのに
ほかの場所もカメラに写る前後の映像がほぼ無い
突然コインランドリーに現れる
カメラの死角を移動?
徒歩である以上早く移動出来ないはずだが?
「どうにも分からん……」
眠い目を擦る、と、
大音量で会議室に無線が鳴る!
「上野公園で発見!現在追跡中です!」
一斉に立ち上がる
「来たか!!」
……………………………………………………
「だから知らないって!!」
否定する老人のホームレス
「帽子はどうした?!」
「仲間にやった!」
「両国橋に行っただろ!」
「行ってない!!」
隣の部屋から見る時田達
「あのコート着てましたから確保したんですが」
「ずっとあの調子です」
「コートは拾ったモノの一点張りで…」
「とにかく一晩追い込め、手を緩めるな」
……………………………………………
「まず、米田さんの課は何人ですか?」
「6人、課長入れたら7人」
「では7人だけで極秘で動けますか?」
「ソレは……」
ゴソゴソ音がすると
「梶山だ、何をすれば良い?」
午後7時、仏具屋へ向かう刑事課
「なんなんすか課長?」
「特捜から文句言われますよ?」
「良いから黙って着いて来い」
先頭を進む梶山
「え?飲みっすか?」
「さっすが!勿論奢りっすよねw」
そして最後尾を黙って着いていく米田と菱木
仏具屋に到着、中には尾上と藤代、全員が入るのは無理だろう
「俺だけ入る、待機してろ」
自動扉が開くと梶山だけ入る
何が始まる?
「いらっしゃい、梶山課長」
「言われた通り来たぞ?で何をする?」
「根拠の無い僕の思い付きに協力ありがとうございます」
頭を下げる
「で?何やるんだ?」
「ソレはですね………………」
ヒソヒソ話す
「はぁ?それで何が分かんだよ?」
「尾上君、信じるが………」
「はい、まさかこんな事になるとは思いませんでした」
「尾上、何の事だ?」
「藤代、本当に俺の思い付きだが菱木が『アイツ』かもしれない」
3人は無言で、ガラス越しに一点を見る
「あれ?課長何してんだ?」
「こっち見てんぞ?」
無表情で見る、ただ一点を、それは菱木の目
「菱木見てねぇ?」
「お前何かやったか?」
全員が菱木を見る
カタカタ震える菱木…
「お前……」
菱木の目を見る米田
「う……う…うわあああっ!」
突然ダッシュで逃げる菱木!
「逃がすかぁ!!」
米田が掴むが振り解く
「え?」
「何だ?」
「追え!菱木を確保しろ!重要参考人だ!」
飛び出す梶山
「行くぞ藤代!」
「何だよ!説明してくれよ!」
「とにかく追いかけろ!得意だろ!」
そうだよな、今もチャリで鍛えてる
「任せろおぉ!!」
全力ダッシュ!!