「待て菱木ぃ!」
「どうしたんだ?!」
「何で俺等追ってんだコレェ?!」
「良いから走れ逃がすなぁ!!」
最後尾に米田が走る、梶山と尾上は更に後ろ
浅草寺付近は碁盤の目ではない、古い道をそのまま残してある箇所がある
菱木はそんな斜めに入り組んでいる道を走る、建物の隙間、お堂の陰をすり抜ける
俺は不思議な気分になる、俺はまだこんなに走れるんだ、まだまだやれるんじゃね?
刑事達を全員追い越し先頭まできたが……何だ?デジャヴ?このルート、このパターンは……
「アイツ何でこんな道知ってんだ?!」
「地理知らない筈だろ?!」
「くっそ!!」
「三十路後半にはキツイぜぇ!」
刑事達は見失いそうだが
ここは原チャリでパトカーから逃げたルート、コッチは万引きして逃げた路地裏……
なら!
「こっちだ!」
俺は別の道へ
「あ!ちょっ!藤代君!」
「米田さん達はそのまま!」
俺は回り込んで待つ、とすぐに走って来る菱木!
「止まれ!!」
デカい身体で立ち塞がると
「藤代おぉぉっ!!」
怒り顔で叫びながら横道へ入る菱木
俺は菱木を知らない、だが菱木は俺の名を叫んだ、今の遣り取りで分かった、菱木は俺を知っている
黒岩が言った『アイツ』なら、間違いなく同級生だ
そしてこんな道知ってるのは俺と同じく不良グループにいた奴
……誰だ?
「待てええっ!!」
追い駆けると
「キキキーーッ!!」
「ドンッ!!」
「きゃああっ!!」
「うわぁっ!事故だ!」
「救急車ぁ!!」
「菱木っ!」
「課長!!課長まだか?!」
菱木はタクシーに撥ねられた
…………………………………………
1時間後、捜査本部
「納得出来る理由があるんでしょうね?」
神経質な時田に詰められる梶山と刑事達
「…………………………」
「黙っていては分かりません、なぜ仲間を追い駆け、事故になったんですか?」
「………………………………」
気を付けの姿勢で微動だにしない
「黙秘のつもりですか?!」
捜査本部の全員が注目している、平たく言えば吊し上げだ
「この重大事件の捜査中に捜査員が事故……どう責任を取るつもりです?」
イライラする
………………………………………………
同時刻
「……くそっ!くそっ!バレないようにしてたのに!!」
緊急処置を終えてベッドに寝ている菱木、鎖骨と左足の骨折で動けないが、文句を言う位は余裕で喋る
「何であの時藤代だけ助けたんだ!そのせいで俺は損ばっかりだ!」
病室には藤代、尾上、米田、菱木は涙を見せながら尾上に言い続ける
「助ける……」
尾上の頭の中で、この数日中の記憶が思い返される
助ける……藤代を助けた話だな…あの時不良グループに居たのは……同じ小学校出身だとしたら……
「……お前……福山か!」
メガネが光る
「福山っ?!あのデブの福山かよ?!」
福山智宏、小学校の頃から同じクラスで、中学から俺も入った不良グループの……あれ?コイツ不登校になってね?
「あーそうだよ!バレないようにしてたってのに!くっそ!!」
昔からは想像出来ないスリムな体
「福山、お前は人をイジメるからな、本に落書きしたりゴミ箱に入れたり、背中蹴られた事もあったな、そんなヤツを助ける義理なんてないだろう?何度も言うが、藤代はイジメなんて絶対やらなかったぞ」
「あー……コイツ昔から弱い者いじめするからな」
「そんな事してない!」
怒鳴る
「あのな福山、イジメられた方は全部覚えてるんだよ、田辺と黒岩も忘れるハズがない」
「おい尾上!!あの2人もイジメ受けてたのかよ?!」
「藤代は知らなかったんだよな、俺も金井……いや、今は村田から聞いたんだ、だから村田は不思議に思ってたぞ?」
「何を?」
「お前同じグループだったからイジメに加担してると村田は思ってたんだよ、なのに田辺と黒岩の事気にしてたからな」
思い出す、中学入ってすぐ……
「おい藤代、昼休み体育館前のトイレ来いよ、オモシレェぞ」
福山にそう言われ行ってみると、トイレの個室から足が出ているのが見える、便器に頭を突っ込まれているのだ、
「藤代!お前もやれよ!オラっ!オラっ!」
尻を蹴る福山や先輩達
「俺はやらねぇっ!!」
「なんだぁ?ノリ悪ぃなぁ」
「バイクは乗りたくてもな、イジメなんてやりたくねぇっ!」
「誤解されてたのかよ……」
あの時の金井、いや村田の態度、今漸く分かった、そしてあの時イジメられていたのが田辺と黒岩だったのか
米田は顔を覆う
「尾上君の作戦……当たって欲しくなかったな……冗談になって笑い話になって欲しかったよ
……予想通り…菱木が『アイツ』だったのか……お前本当は福山って言うんだな?」
菱木、福山は黙ったまま
「お前が眼を見た事あるって言ったの、当たってたんだな…」
今思えば尾上の勘は鋭い訳だ
そして福山は警戒していた、だから店に入るのを躊躇い、俺達の前で喋らなかった
米田は首を振る
「思考が追いつかない…警察学校入る時に身体検査(身辺調査)あるんだぞ?何かの間違いであって欲しいが…」
「恐らく少年保護法で別の名前にする方法とか……または母親の旧姓とかになってるんでしょう」
「尾上、コイツが福山だったのは分かった、でもよ、田辺の事件とどう繋がる?」
「何処から話せば良いか……まだ頭が整理出来ないんだ、断片を繋げると」
息を吸い込む尾上
「金井、いや今は村田から色々聞いた、発端はクラス会、変わった事があったそうだ、開始直後に別の部屋に移動させられたらしい
原因は米田さんもご存知の通り、結婚式場に男が乱入、安全のため近い会場の人は別会場に移動させられたと思う」
「あ!菱木にその移動やらせたぞ!!」
「やっぱりそうですか、恐らくその指示をしている時に黒岩に声を聞かれた、そして田辺は黒岩から聞いたはず……
以前から田辺と黒岩は調べていた、自分達をイジメ、更には黒岩の眼の原因を作ったヤツラを
向島で起きた少年犯罪の犯人を」
福山を見ると
「卒業名簿に名前も載らないハズだ、1年の夏休み明けにはお前居なかったからな、二人共調べるの大変だったろうよ」
福山を睨む
「俺は手足押さえてただけなんだ!なのに何で俺まで!」
叫ぶが
「立派に犯罪者だろ!」
珍しく怒鳴る尾上
「あ!思い出した!あの頃先輩達にも居なくなったヤツがいた!皆あのグループか!」
「多分全員未成年だったから名前も出ないし、不登校扱いにして転校させたとかだろうな」
「な、なぁ尾上君?それは田辺さんと黒岩君が殺された理由になるかい?菱木は更正して……」
そうだ、何で殺された?
「恐らく田辺は……真相に辿り着き、あのコートを着た福山に」
「俺じゃねぇっ!!」
叫ぶ福山
「だったら誰だ?!黒岩まで殺したろうが!!」
「まさか殺すとは思って無かったんだ!!」
下を向き悲鳴の様に叫ぶ
「菱木っ!まさかお前犯人と繋がってんのか?!」
顔を右手で覆うと
「田辺は脅したんだ!俺を一生下っ端でコキ使って!最後は不祥事でっち上げて退職金も出ない様にしてやるって!」
「ソレが理由かよ!!」
「課長に連絡する!!」
スマホを操作する
尾上は顔を覆うと
「……黒岩は」
間を置くと
「結果俺が死なせてしまった!」
「え?!…………くっそ!そうか!!」
福山の前で『アイツ』の話したからか!
「口封じか!福山ぁっ!テメェっ!!」
胸倉を掴み引き釣り上げる!俺達が住所を言ってしまったからか!
「痛い痛い痛い痛い!!やってない!!」
福山が叫ぶが尾上も米田も止めない
「けっ!」
ベッドに放り出す
「一時でもお前等と一緒だった自分が許せねぇ!一生の恥だ!!」
「二人共!特捜本部に来てくれ!今の話してくれって!!」
………………………………………………
6月12日午前零時 〇〇警察署二階 特捜本部
「すまないな、こんな遅くに」
軽く頭を下げる梶山達
「いえ、素人である僕の意見を真剣に聞いて頂いてありがとうございます」
頭を下げる尾上
「いや、そのお陰で捜査が進んだ、ありがとう」
全捜査員が集まっている、偉そうな人達も…スゲェ迫力……俺が居る必要ある?
「それでは尾上君?でしたか、知っている事を全部話しなさい」
時田が仕切る、尾上にマイクを渡すと
「捜査一課長も本庁でお聞きだ、失礼の無いように」
「はい、始まりはこの辺りの不良グループが向島で起こした事件、今から15年程前です」
カップル襲撃、繋がる交通事故、クラス会の場所変更、黒岩の疑念、福山の証言、田辺のトランク事件、黒岩絞殺
今度は順序良く話せたと思う
「僕の頭の中で整理した結果、このような経緯となりました、勿論僕の知らない要因があれば変わりますが」
「ふむ……どうもありがとう、大いに参考になった、帰って休んで下さい」
「……なぁ?俺も良いかな…」
手を上げて立ち上がる
「何ですか?君は?」
「田辺の同級生の藤代です」
「もう概要は分かりましたよ?帰りなさい」
「コレ偉い人も聞いてるんだよな、だったら聞いてくれ!」
「止めなさい!連れ出せ!!」
時田が指示すると数人に掴まれる、と、立ち上がる梶山と刑事課
「おい!ココで話せって言ったのはお前等だろ!貴重な意見だろうがよ!」
「所轄は引っ込んでろ!」
「んだとぉ!!」
俺は尾上のマイクを掴む
「なぁ!聞いてくれ偉い人!田辺は事件調べてたんだろ?!」
「!!!、君は喋るなぁ!!」
急いでマイクを掴む時田、何だこの雰囲気?
「止めろテメェ!」
梶田が時田の肩を掴む、特捜と刑事課が揉み合いになる!
と
「君は誰かな?」
凛とした声が会議室に響く、全員が固まる
「え?えーと…藤代ですが……」
「捜査一課長の間宮です、言いたい事があるんですね?」
「は、はい」
やべぇ…マジ偉そう
「どうぞ……聞かせて頂きたい」
「じゃあ…確か警察の資料って、何かその……偉さっていうか立場みたいな、その」
「…階級だな」
「そ、その階級ってヤツで見られるモノが変わるって話を聞いたんだ」
「いかにも、その通りです」
「だっ、だったら田辺は誰か偉い人に聞いたハズなんだ」
時田が悔しそうに下を向く
尾上がパンと手を叩く
「そうか!田辺は少年保護法で公開してない福山が分かったから脅したんだ!」
「そうだ、誰か教えたんだ、それで事件が起こったハズなんだ!」
知ってる声が会場の誘導している刑事のモノだった、だから田辺は菱木の経歴を調べたはず
しかし少年法により閲覧出来ない、だから誰かが協力したはず
そして個人情報に辿り着いた
尾上は『アイツ』を調べるためのイチかバチかの作戦をやって、そこから福山が分かった
じゃあ田辺はどうやった?誰か偉い人に聞いた筈だ
「……恐らく本庁の幹部の誰か、だろうな」
会議室に静かに響く
「捜一課長!」
「時田、私は全責任を負う義務がある、殺人事件の発端が本庁の情報漏洩にあるのなら尚の事だ、私の為に心配かけたな、ありがとう」
わなわな震えている時田、これを言わせたく無かった
「おう」
副署長が立ち上がる
「時田ぁ、間宮が辞表書いちまうぞ?アイツはそういう男だ、どうするよ?」
メガネを上げ姿勢を正す時田
「捜査を立て直します!尾上君と藤代君、ご協力を!」
…………………………………………
朝、再び警察署に呼ばれる二人
「菱木…いや福山に捜査官が張り付いてね、尋問してるけど口割らないんだよ」
天パがボサボサ、ヒゲも伸びた米田が歯を磨きながら、目が真っ赤
「一晩中尋問と映像確認で目が痛ぇ」
椅子で上を向き目にタオルを載せる梶山
他の刑事達もソファーや椅子で寝ている
皆寝ていないんだろう、何てブラックな職場だろうか
「それで僕達は何を?」
「君達の推理力は捜査の力になる、米田の話を信じて良かった、本当に君達は切れ者だ、米田」
「はい、上行こうか」
二階、再び特捜本部
「コレを見て貰いたい」
やつれた時田が言うと出て来た4台のノートpc
「現状一番怪しいのはこの男だ」
そこに映るのは例のコートの男、両国橋とコインランドリー
「他の映像は無いんですか?」
「すまない、どういう訳か見つからないんだ、足取りが掴めない」
鮮明に写っている映像もある
黒い帽子には水玉の様に白い汚れ、コレもペンキ?黒いコートには左肩から背中にかけて、まるで派手なデザインの様に白いペンキ?
「………………」
黙って見る尾上
「これなら直ぐにみつかんじゃね?」
画面を指差す
「着ていたヤツは確保したが…否認を続けていてな」
時田も眠そうだ、この人寝てるんだろうか
「この画像って鮮明化とか出来ますか?」
「尾上君、ドラマじゃないんだ」
「え?出来るもんじゃないんだ?」
てっきり『コレを何とかのソフトで』とかやると思った
「手掛かりはコレだけ…福山じゃないとしたら……」
何度も再生する尾上、コインランドリー内の椅子に座り、眠ってから出て行く
「外に出た後とかが無いんですよね?」
「僅かな距離までなら防犯カメラに映っているが……前足と後足が掴めない」
「……何ですソレ?」
「藤代、来る前と来た後の映像が無いって事だ、全部見せて下さい」
「結構な量があるが……」
「構いません」
…………………………………………………………
「尾上、店どうした?」
「今日は空けてないよ、親にも許可してもらった、捜査協力なら仕方ない」
モニターから目を離すと目頭を摘む
「藤代は収入無くなるだろ、そっちこそ大丈夫なのか?」
「俺も早く解決したいからな、黒岩の仇討ちだ」
朝から3時間、モニターの映像を見続けたが……集中して見るってこんなに疲れるのか
「尾上、小さな違和感無いのかよ、それで福山見付けたろ?」
伸びをする
「小さな違和感……あるなぁ」
「あるのかよ!」
「変だと思わないか?」
「いや変だぜ?こんな目立つコート着てたのに見付からn」
「それだよ」
画面を指差す
「殺人するのに何でこんな目立つコートなんだ?」
「……あ?!」
「時田さん!」