プロローグ
―――夢の方が人生長いんだが?
正直に言おう
詰んだ
いや本当に
だって目が覚めた瞬間、
まず見えたのがボロい木の天井で
次に聞こえたのが、
赤ん坊の泣き声で
最後に
カサカサカサカサ……
っていう、
控えめに言って最悪な羽音だった
「……あ、これ間桐家だ」
って理解した瞬間、
人生終了のお知らせが脳内を駆け巡った
いやだって知ってるし
俺、
Fate微妙に知識あるし
魔術の設定も、登場人物の設定と末路も、くらいしか知ってない
だから分かる。
ここ、
超特級の地雷原だ
しかも俺よりにもよって。
間桐慎二
終わった \(^o^)/オワタ
完全に終わった
魔術才能なしメンタル脆い後々めちゃくちゃ拗らせる。
しかも家には、
人類悪寄りのジジイがいる。
虫ジジイ。
あの間桐臓硯
無理無理無理
幼少期からホラーゲーム始まってるって
しかも、
赤ん坊だから逃げられない
泣くしかない
泣いた
そしたら壁の向こうから、
カサカサ……
って音がした
泣くのやめた
怖すぎる
そこからの数年は、
割と必死だった
とにかく、
「原作慎二っぽく」振る舞った。
癇癪
ワガママ
ちょっと見栄っ張り
優越感ほしそうな感じ
理由?
簡単だ
臓硯に警戒されたら終わる
あのジジイ、
人間観察ガチ勢だから。
変に賢かったり、異常性見せると、絶対面倒なことになる
だから俺は、
できるだけ普通のクソガキを演じた。
……まあ
演技しながら、
内心ずっと怯えてたんだけど。
だって知ってるし。
この家の地下
蟲蔵あるし。
未来の間桐桜の運命とか知ってるし。
知識あるのに止められないって、
結構キツい。
精神に来る
でも
そんな生活の中で、
唯一マシだったのが――夢だった。
最初は暗闇
ただ真っ黒
何もない
……はずだった
ある日。
夢の中で、
俺は“音”を聞いた
カチッ
って
金属音 振り向く
するとそこに、
ベルトが落ちてた
黒い外装 焼けた回路 半壊したフレーム。
俺は数秒固まったあと、
思わず言った。
「いやゼッツドライバーじゃん!?」
なんで!?
夢ってそんな雑に出る!?
いや確かに前世で特撮オタクだったけど!
ライダー変身ベルトとか超好きだったけど!
脳内再現にしても解像度高すぎるだろ!?
で
そこから俺の人生がおかしくなった。
いや元からおかしいんだけど いやおかしいというより地獄ですけど
もっと変になった
まず
夢の時間がおかしい
現実で一時間寝た
夢の中だと、
体感数日経ってる
最初は気のせいかと思った
でも違った
明らかに長い
しかも、
寝るたびに夢の続きになる。
ログ保存されてる
何それ
クラウド同期?
しかも夢の中の俺、
普通に思考できる
痛覚ある
疲労感ある
集中できる
つまり
研究できる
……そう研究
俺は気づいた
この壊れたゼッツドライバー
修理できるんじゃね?って
そこから先は、
もう狂気だったと思う
毎晩。
延々
分解
解析
観察
失敗
爆発
再設計
俺、
前世で工学知識あったわけじゃない
ただのオタクだ
でも。
特撮オタクって、
変な方向に知識偏ってるんだよ
強化外骨格
エネルギー循環
ナノ装甲
変身機構
そういう“それっぽい理論”が脳内に山ほどある
で
夢の中だと、
それをいくらでも試せた。
失敗しても死なないしやり直せる。
だから積み上がる。
毎晩。
何年も
何十年も。
気づけば
現実の俺は、
まだ子供だった。
なのに夢の中では、
もう二十年以上、
工具握ってた
おかしい
絶対おかしい。
精神年齢バグる
しかもある日
夢の中で作ったネジが、
現実の枕元に落ちてた。
俺は三分くらい固まった
「……は?」
いや待って
待って待って待って夢の物、持ち帰れてる?
いやいやいや
そんなのアリ?
Fate世界観的に言うと何?
固有結界?
投影?
いや違う。
固有結界もどき
夢の中の世界を自分の固有結界
衛宮士郎みたいに現実を塗り替えることができない
自分の工房
夢の中の世界を、
自分の固有結界みたいに扱える
……いや
正確には違う
衛宮士郎の「無限の剣製」みたいに、
現実を塗り替えるほど完成してない
俺のはもっとショボい
もっと不完全
もっと個人的
ただ
夢の中にある工房を、
“閉じた空間”として維持できるだけ
だから固有結界未満
劣化品
でも
俺にとっては十分だった
だって
現実には何もないから
間桐邸には、
俺の居場所なんてない
臓硯は論外
使用済み乾電池を見る目
「使えるか」「使えないか」しかない
使用済み乾電池の方がまだ優しく扱われるかもしれん
しかも桜は来るし
あの子の未来知ってると、
マジで胃が痛い
どう考えても地獄直行
でも今の俺じゃ止められない
力がない
身体は子供
魔術回路もゴミ
じゃあどうする?
積み上げるしかない
だから俺は、
毎晩夢へ逃げた
いや
逃げたっていうか
籠もった
夢の工房は、
少しずつ広がっていった
最初は真っ暗な空間に、
作業台一つだけ
そこから
工具が増えた
壁ができた
棚ができた
設計図が積み上がった
気づけば
天井には青白い雷が走り、
床には無数の焼け跡が残ってた
……で
問題は
ゼッツドライバー
これ、
直らない
いや
正確には
「動力がない」
回路は分かる
構造も少しずつ理解できる
でも
根本的に、
エネルギー源のカプセムが存在しない
車作ってもエンジンない感じ
だから何年も詰まった
夢の中だけで、
たぶん十年以上
毎晩、
頭抱えてた
で
ある夜
夢が変わった
雷の音がした
ゴロゴロとか、
そんな可愛いもんじゃない
空そのものが裂けるみたいな轟音
気づけば俺は、
真っ暗な道路に立ってた
雨
豪雨
全身ずぶ濡れ
鉄の臭い
焦げた空気
そして
嫌な予感
本能が叫んでる
「逃げろ」って
でも身体が動かない
その瞬間
空が白く染まった
落雷
視界が焼ける
熱
痛み
神経が全部ひっくり返る
肺が止まる
心臓が爆ぜる
脳が焼ける
「――――ッ!!??」
そこで目が覚めた
全身汗だく
息ができない
喉が焼ける
しかも
右腕が、
微かに焦げ臭い
……は?
いや待って
待って待って
夢だよな?
夢だよね?
恐る恐る腕を見る
火傷はない
……ないけど
静電気みたいな青白い火花が、
指先でパチッと弾けた
俺は固まった
数秒
完全停止
そして理解した
「あ、これ前世の死因だ」
終わってる
マジで
それからだった
悪夢が始まったのは
毎晩見る
雷
落雷
感電
焼損
死
何百回も
何千回も
夢の時間だと、
たぶん数十年分
しかも最悪なのが
痛い
夢なのに
普通に
めちゃくちゃ痛い
神経焼ける感覚とか、
覚えたくなかった
でも
何度も繰り返すうちに、
俺は気づいた
……これ
毎回、
微妙に違う
雷の形
放電の流れ
熱量
電流
神経反応
全部
少しずつ違う
まるで
「観測できる」
解析可能な情報みたいに
その瞬間
頭の中で、
何かが繋がった
ゼッツドライバー
夢
雷
変身
カプセム
原作の仮面ライダーゼッツ
夢を圧縮したカプセル
だったら
この悪夢そのものを、
圧縮できるんじゃないか?
……って
思ってしまった
その時点で、
たぶん俺も大概狂ってたと思う
夢の工房へ戻る
作業台に座る
震える手で、
設計図を書く
必要なのは
「器」
悪夢を閉じ込める容器
夢を圧縮する殻
つまり
空のカプセム
何百回も失敗した
作った瞬間、
爆散
雷が漏れる
工房が焼ける
自分が感電死
いや夢だから死なないけど
でも痛い
超痛い
最悪
しかも夢時間で何十年単位
地獄
でも
俺は止めなかった
止めたら
またあの無力な慎二に戻る
桜を見捨てる未来へ戻る
臓硯に怯えるだけのガキへ戻る
そんなの嫌だった
だから
俺は悪夢を観測した
恐怖を記録した
雷を解析した
死を分解した
狂ったみたいに
毎晩
毎晩
毎晩
そして
ある夜
夢の工房で
ついに
完成した
五センチほどの、
黒い空カプセル
透明な外殻
中身は空
でも
その空洞だけが、
妙に暗い
光を吸ってるみたいに
俺は震える手で、
それを持ち上げた
その瞬間
遠くで雷鳴が響いた
悪夢が、
こっちを見た気がした