美しき敗者たちの特別試験   作:EXTERMINATION

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第12話 坂柳有栖の支配

坂柳有栖の名前が退学圏へ近づいた時、Aクラスの空気は奇妙なほど静かだった。

 

一之瀬帆波の時のように、クラス全体が悲痛な結束を見せるわけではない。

椎名ひよりの時のように、怒りが露骨に噴き出すわけでもない。

軽井沢恵の時のように、依存や過去の関係が晒されて

教室全体が息苦しくなるわけでもない。

 

坂柳クラスは、いつも通り整っていた。

机の列は乱れず、無駄な私語も少なく、誰も大声を上げない。

だが、その静けさは安定ではなく、

むしろ限界まで張り詰めた糸のようなものだった。

 

なぜなら、このクラスの生徒たちは理解していたからだ。

 

坂柳有栖という存在が危険視されることは、

単に一人の女子生徒が退学圏に入ったという話ではない。

 

それは、このクラスの支柱そのものが揺らぎ始めたことを意味している。

 

白石飛鳥は、Aクラスの柔らかい象徴だった。

 

男子たちが無意識に安心を求める、穏やかな偶像。

 

だが坂柳有栖は違う。

 

彼女は癒やしではない。

 

守られる存在でもない。

 

むしろ、他者を動かし、試し、盤上に並べる側の人間だった。

 

その坂柳が、学校側によって盤上に乗せられた。

 

その事実は、Aクラスの生徒たちにとって、想像以上に重かった。

 

電子黒板には最新の危険度ランキングが表示されている。

 

1位、一之瀬帆波。

2位、堀北鈴音。

3位、軽井沢恵。

4位、椎名ひより。

5位、坂柳有栖。

6位、長谷部波瑠加。

7位、白石飛鳥。

8位、櫛田桔梗。

 

坂柳有栖は5位。

 

退学圏内。

 

まだ確定ではない。

だが、もう安全圏とは言えなかった。

 

橋本は端末を見ながら、軽い口調を装っていた。

 

「いやー、ついに姫様まで来たか。これ、本当に人気投票じゃないんだな」

 

その声には、いつもの軽薄さがある。

だが、完全に普段通りではない。

冗談に逃げなければ、空気の重さを処理できないのだろう。

 

神室は腕を組み、電子黒板を睨んでいた。

 

「気持ち悪い分析ね」

 

その短い一言に、教室中の感情が集約されていた。

学校側の資料には、坂柳有栖の分類がこう表示されていた。

 

【坂柳有栖】

【危険分類:支配憧憬型】

【高能力・特異性・血統的象徴性による畏怖、憧憬、反発の集中】

【男子生徒における敗北感、征服欲、崇拝感情の誘発】

【女子生徒における比較劣等感、反抗欲、依存的指導期待を確認】

【好意とは異なる感情支配型影響を高リスク因子として評価】

 

その文面を見た時、教室はしばらく完全に沈黙した。

 

白石は困ったように坂柳を見ていた。

 

だが、何を言えばいいのか分からないようだった。

 

橋本ですら、しばらく軽口を止めていた。

 

神室だけが小さく舌打ちした。

 

「つまり、坂柳は強すぎるから危険ってこと?」

「乱暴に言えば、そういうことですね」

 

坂柳は静かに答えた。

 

本人は笑っている。

 

いつものように、余裕を崩していない。

 

だが、その笑みの奥には、明らかな不快感があった。

 

「面白いです」

 

坂柳は電子黒板を見上げながら言った。

 

「私に対する評価が、好意ではなく畏怖や敗北感を中心に組まれている」

 

橋本が肩をすくめる。

 

「まあ、姫様に恋してる奴より、勝てないって思ってる奴の方が多そうだしな」

 

神室が睨む。

 

「今それ言う?」

「いや、事実として」

「橋本くんの言う通りです」

 

坂柳は穏やかに遮った。

 

「私は一之瀬さんのように、

誰かを包み込むことで人を集めるタイプではありません。

白石さんのように、柔らかな偶像として理想化されるタイプでもありません」

 

彼女は自分の端末を閉じる。

 

「ですが、人を動かすことはできます」

 

その言葉に、教室の空気がさらに重くなった。

 

それは自信ではなく、事実だった。

坂柳有栖は、このクラスを動かしてきた。

クラスメイトたちは彼女に従い、彼女を中心に判断し、

彼女の策を前提に動いてきた。

 

それがAクラスの強さだった。

 

だが今、その強さが危険因子になっている。

 

「この試験の本質が、ようやく見えてきましたね」

 

坂柳は静かに言った。

 

「これは、容姿の優れた女子を排除する試験ではありません」

 

橋本が眉を上げる。

 

「じゃあ何だ?」

「感情を動かす者を排除する試験です」

 

教室が静まる。

 

「好意、依存、同情、憧憬、畏怖、嫉妬、反発。

形は何であれ、多くの人間の心理を動かし、

集団の行動を変えてしまう女子を、学校は風紀リスクとして扱っている」

 

坂柳は微笑む。

 

「つまり、人気者だけが危険なのではありません。

人間関係の重心になってしまう者が危険なのです」

 

白石が小さく息を呑む。

 

「じゃあ……坂柳さんも」

「ええ」

 

坂柳は静かに頷いた。

 

「私も、その一人ということでしょう」

 

その声は落ち着いていた。

 

だが、白石には分かった。

 

坂柳は怒っている。

 

彼女は自分が負けることを嫌う。

 

だがそれ以上に、自分が知らないルールで勝手に評価され、

勝手に盤上へ乗せられることを嫌う。

 

それは、坂柳有栖の矜持に対する侮辱だった。

 

「私は、観察者のつもりでした」

 

坂柳は言った。

 

「この試験がどこへ向かうのか、誰が切られ、誰が残るのか、誰が感情に流され、

誰が合理性を保つのか。それを見極める側にいるつもりでした」

 

彼女の目が細くなる。

 

「ですが、学校は私を観察者として扱わなかった」

 

橋本は口を閉じた。

神室も黙っている。

 

「私もまた、評価される側だった」

 

坂柳の声は柔らかい。

 

しかし、そこには確かな怒りがあった。

 

「これは、少々不愉快ですね」

 

 

その日の昼休み、坂柳は綾小路清隆へ連絡を送った。

 

場所は特別棟の空き教室。

生徒の出入りが少なく、窓の外から見える校庭も遠い。

誰かに聞かれにくい場所ではある。

もちろん、この学校の監視から完全に逃れることはできない。

 

それでも、坂柳はそこを選んだ。

 

オレが教室へ入ると、彼女は窓際に立っていた。

 

杖を片手に、外の景色を眺めている。

 

「来てくださったのですね」

「呼ばれたからな」

「断ることもできたでしょう?」

「今のお前と話す価値はある」

 

坂柳は小さく笑った。

 

「率直ですね」

 

彼女はゆっくりこちらを向く。

その顔には、いつもの余裕があった。

 

だが、完全ではない。

 

「綾小路くん」

「何だ」

「あなたは、この試験の本質をいつから理解していましたか?」

「初期候補が発表された時点で、単純な人気投票ではないとは思っていた」

「やはり」

 

坂柳は楽しそうに目を細める。

 

「では、私が浮上することも予想していた?」

「可能性はあった」

「可能性、ですか」

 

坂柳は微笑む。

 

「便利な言葉ですね」

 

オレは答えない。

 

坂柳は一歩、ゆっくり歩く。

 

「私は、少しだけ油断していました」

 

坂柳は窓の外を見ながら静かに言った。

 

「最初は、もっと単純な試験だと思っていたのです」

「単純?」

「ええ。人気者を吊し上げ、男子たちへ選別をさせ、

クラス間へ不信感を植え付ける。その程度のものかと」

 

坂柳は小さく笑う。

 

「ならば、制御可能でした」

 

その言葉には明確な自負があった。

 

実際、坂柳有栖という少女は、

そうした空気の操作を最も得意とする人間の一人だ。

 

票誘導。

感情操作。

保護対象の選定。

情報統制。

クラス内の統率。

 

どれも坂柳の得意分野だった。

 

「ですが、途中で気づきました」

 

坂柳の笑みがわずかに薄くなる。

 

「この試験、本当に排除したいのは人気者ではありません」

「……」

「学校が排除したいのは、人間の感情を制御できる者です」

 

静かな声だった。

 

だが、その瞬間だけ空気が変わった。

 

「一之瀬さんの善意。堀北さんの理想。

軽井沢さんの依存。椎名さんの静けさ。そして――私の支配性」

 

坂柳は自分の胸へ指先を当てる。

 

「つまりこれは、坂柳有栖のような存在そのものを封じる試験でした」

 

オレは黙って聞いていた。

 

坂柳は続ける。

 

「私が誰かへ指示を出せば、学校はそれを支配構造として解析する」

 

彼女は電子黒板を見る。

 

「票を動かせば集団誘導。誰かを守れば依存形成。切り捨てれば統率支配」

 

そして小さく笑った。

 

「つまり私は、坂柳有栖らしく動くことそのものを封じられていたのです」

 

一拍置いて。

 

「自分は恋愛感情や保護欲の対象ではないからか」

 

坂柳は声のトーンを落とす。

 

「私は誰かに守られることを前提にしていません。

誰かの善意に縋るつもりもありません。男子に媚びることもない。

白石さんのように柔らかな偶像でもない」

 

彼女は静かに続ける。

 

「だから私は、安全圏にいるとまでは言いませんが、

少なくとも本命ではないと思っていました」

「違ったな」

「ええ」

 

坂柳は目を細める。

 

「学校側は、私が人を動かす力そのものを危険視した」

 

その言葉には、わずかな怒りと、それ以上の興味が混ざっていた。

 

「綾小路くん」

「何だ」

「この試験は、あなたを測るためのものでもありますね」

 

オレは黙る。

 

坂柳は続ける。

 

「女子を退学させるという理不尽な構造。

男子に加害者役を強制し、女子同士に評価をさせる仕組み。

そして、最終的には誰かを切らなければならない状況」

 

彼女は微笑む。

 

「あなたが誰を選び、誰を捨てるのか。それを学校は見ている」

「可能性はある」

「また可能性ですか」

 

坂柳は指先で杖を握りしめる。

 

「私は、あなたが私を守るとは思っていません」

「そうか」

「むしろ、必要なら真っ先に切るでしょう」

「否定はしない」

 

坂柳の笑みが深くなる。

 

「やはり、あなたは面白い」

 

その言葉は、いつもの坂柳なら余裕の表現だった。

 

だが今は、少し違う。

 

自分が退学圏にいる。

 

その状況でなお、綾小路清隆を観察しようとしている。

 

彼女は恐怖を隠しているのではない。

 

恐怖すら、分析対象に変えようとしている。

 

「怖くないのか」

 

オレが尋ねると、坂柳は少しだけ目を丸くした。

 

「あなたが私にそれを訊くとは、少し意外です」

「確認だ」

 

坂柳は窓の外へ視線を戻す。

 

「怖くない、と言えば嘘になります」

 

その答えは静かだった。

 

「私は退学したくありません。敗北することも嫌いです。

まして、このような不愉快な基準で排除されるなど、到底受け入れがたい」

 

彼女の声が少しだけ冷える。

 

「ですが、恐怖よりも先に腹立たしさがあります」

「腹立たしさ?」

 

坂柳は微笑んだ。

 

「私は、誰かの盤上で都合よく動かされる駒ではありません」

 

その言葉には、明確な矜持があった。

 

「この試験を設計した者は、私を支配憧憬型などと分類しました。

畏怖、憧れ、反発、敗北感。それらを私が周囲に与えていると」

「間違ってはいない」

「ええ。間違ってはいません」

 

坂柳はあっさり認める。

 

「だからこそ、不愉快なのです」

 

オレは彼女を見る。

 

「正確だからか」

「そうです」

 

彼女は微笑む。

 

「的外れな評価なら笑って済ませられます。

ですが、正確に見抜かれたうえで、退学の理由にされるのは腹立たしい」

 

その感情は、坂柳らしいものだった。

 

見誤られることではなく、見抜かれたうえで管理されることへの怒り。

 

「あなたはどうしますか?」

 

坂柳が尋ねる。

 

「このままでは、最終退学圏に並ぶのは、

一之瀬さん、堀北さん、軽井沢さん、椎名さん、そして私になる可能性が高い」

 

彼女は淡々と言った。

 

「見事に、学年の感情を動かす者たちばかりです」

「そうだな」

「あなたにとって、最も都合の良い結末は?」

「全クラスの損失を最小限に抑えること」

「そのためなら、私も切ると?」

「必要なら」

 

坂柳は笑った。

 

「本当に、あなたはぶれませんね」

 

その笑みに、ほんの少しだけ寂しさが混ざっているように見えた。

 

「ですが、綾小路くん」

「何だ」

「私はただ切られるつもりはありません」

 

坂柳の声が変わる。

 

静かだが、鋭い。

 

「この試験が私を盤上に乗せたのなら、私はその盤面ごと壊す方法を探します」

「見つかると思うか」

「簡単ではないでしょうね」

 

彼女は認める。

 

「ですが、抗わずに退学するなど、私の趣味ではありません」

 

その時、端末が震えた。

 

全校通知。

 

【クラス代表保全判断を追加します】

【各クラス代表者は、退学圏内女子生徒に対し、

保全推奨または排除容認の判断を提出すること】

【判断内容は非公開とするが、

対象者の最終指数およびクラスポイントに反映されます】

 

坂柳は端末を見つめた。

 

そして、ゆっくり目を細めた。

 

「なるほど」

 

オレも画面を見る。

 

新たな段階だ。

 

男子投票。

女子相互評価。

そして今度は、クラス代表による保全判断。

 

つまり、各クラスのリーダーたちに誰を守るか、誰を捨てるかを選ばせる。

 

「素晴らしく悪趣味ですね」

 

坂柳が言った。

 

「これで、堀北さん、龍園くん、私、

そして一之瀬さんの判断までもが試験に組み込まれる」

「お前は自分自身について判断を出すことになる」

「ええ」

 

坂柳は目を細める。

 

「自分を保全推奨すれば、自己保身として評価される。

排除容認にすれば、クラスを優先する合理性として

評価されるかもしれませんが、自分の退学確率は上がる」

「どちらもリスクがある」

「本当に嫌らしい」

 

坂柳は笑っていた。

 

だが、その笑みは冷たい。

 

「綾小路くん」

「何だ」

「あなたなら、私を保全しますか?」

「状況次第だ」

「そう答えると思っていました」

 

坂柳はゆっくり歩き出し、オレの横を通り過ぎる。

 

「けれど一つだけ覚えておいてください」

 

彼女は扉の前で立ち止まる。

 

「私が退学することになったとしても、それはあなたの完全勝利ではありません」

「どういう意味だ」

 

坂柳は振り返った。

 

「私の退学は、あなたの盤面にも必ず傷を残します」

 

その言葉を残し、坂柳は教室を出ていった。

 

放課後。

 

Aクラスでは、クラス代表保全判断を巡って空気がさらに重くなっていた。

 

橋本が端末を見ながら言う。

 

「姫様、自分に保全推奨出すのか?」

 

教室の空気が静まる。

誰も軽く聞いているわけではない。

 

それはつまり、坂柳有栖は自分を守るのかという問いだからだ。

 

坂柳は少しだけ考えるように目を閉じ、それから静かに笑った。

 

「さて、どうしましょうか」

 

神室が苛立ったように言う。

 

「ふざけてる場合じゃないでしょ」

「ふざけてはいません」

 

坂柳は穏やかに返した。

 

「ただ、もう理解してしまっただけです」

 

橋本が眉を上げる。

 

「何を?」

 

坂柳は電子黒板を見る。

 

そこには、一之瀬、軽井沢、椎名、堀北、そして自分の名前が並んでいる。

 

「この試験において、

坂柳有栖が坂柳有栖らしく振る舞うこと、そのものが危険なのです」

 

教室が静まる。

 

「私が指示を出せば支配構造。

票を誘導すれば集団統率。誰かを守れば依存形成」

 

坂柳は微笑む。

 

「つまり学校は、最初から私のような人間を封じる前提で設計している」

 

橋本の表情から笑みが消える。

神室も黙った。

 

坂柳は続ける。

 

「最初は、盤面を崩せると思っていました」

 

坂柳は静かに言った。

 

「票操作。集団誘導。クラス間取引。感情操作。いくらでもやり方はあります」

 

その声には、Aクラスを率いてきた者としての自負があった。

 

実際、坂柳有栖という少女は、そうした制度の穴を利用することに長けている。

 

橋本が低く言う。

 

「なら、何でやらなかった?」

 

教室が静まる。

 

坂柳は少しだけ目を伏せた。

 

「途中で気づいたからです」

「……何に?」

 

坂柳は電子黒板を見る。

 

「学校は最初から、こちらがどう動くかを織り込んでいます」

 

静かな声だった。

 

「もし私が大規模な票誘導を行えば、学校はそれを集団支配として処理する。

談合や統率行動を確認した時点で、制裁が発生する可能性が高かった」

 

神室が眉をひそめる。

 

「制裁?」

「追加退学です」

 

その瞬間、教室の空気が凍った。

 

白石が小さく息を呑む。

 

橋本の表情から笑みが消える。

 

坂柳は続ける。

 

「この試験、本当に恐ろしいのはそこです」

 

彼女は微笑んだ。

 

「誰かを救おうとして大きく動けば、

学校は集団異常として、さらに退学者を増やす口実を得る」

 

橋本が低く呟く。

 

「……だから動かなかったのか」

「正確には違います」

 

坂柳は首を横へ振る。

 

「動けなかったのではない。動いた先の崩壊が見えてしまったのです」

 

その言葉は重かった。

 

「私は途中まで、盤面を壊すことを考えていました」

 

坂柳は静かに認める。

 

「ですが、その結果、Aクラスだけでは済まない可能性があった」

 

彼女は小さく笑った。

 

「大量退学が発生すれば、それはもはや試験ではなく、学校そのものの崩壊です」

 

 

夜。

 

最新ランキングが更新された。

 

1位、一之瀬帆波。

2位、堀北鈴音。

3位、軽井沢恵。

4位、椎名ひより。

5位、坂柳有栖。

 

順位は変わらない。

 

だが坂柳の危険度は上昇していた。

 

理由欄には、こう表示されている。

 

【対象者喪失時のクラス運営影響度が極めて高い】

【対象者を中心とした判断依存構造を確認】

【支配憧憬型影響、継続強化】

 

坂柳はそれを見て、小さく笑った。

 

「私が必要とされるほど、私は危険になる」

 

誰に聞かせるでもなく、彼女は呟く。

 

「本当に、よくできた悪趣味です」

 

その頃、オレも同じランキングを見ていた。

 

一之瀬帆波。

堀北鈴音。

軽井沢恵。

椎名ひより。

坂柳有栖。

 

最終退学圏が、ほぼ固定され始めている。

 

この五人を救おうとすれば、誰か別の女子を危険圏へ押し上げなければならない。

 

だが、学校側はもはや分かりやすい候補を退学圏へ戻すことを許さないだろう。

 

櫛田は自分を守るために空気を操り、

白石は分かりやすい偶像として一度消費され、

長谷部は孤立と保護欲の矛盾の中で辛うじて退学圏を外れつつある。

 

残ったのは、学年全体の感情を本質的に動かす者たち。

 

善意の一之瀬。

理想の堀北。

依存の軽井沢。

静寂のひより。

支配の坂柳。

 

この五人は、学校側が最も切り落としたい存在であり、

同時に、生徒も本来なら最も守りたいと思う存在だ。

 

だからこそ、この試験は成立する。

 

そして次の段階で、彼女たちは必ずオレを責める。

 

誰を守るのか。

 

誰を切るのか。

 

なぜ何もしないのか。

 

なぜ全員を救わないのか。

 

その問いが、避けられない形でオレへ向かってくる。

 

オレは端末を閉じた。

 

坂柳有栖は言った。

 

自分の退学は、オレの盤面にも傷を残すと。

 

その通りだ。

 

誰が落ちても、傷は残る。

 

だが、勝つために必要な傷なら受け入れるしかない。

 

この試験は、もう終盤に入っている。

 

そして終盤に必要なのは、感情ではない。

 

選択だ。




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