グランドアリーナの入口で受付を済ませ、俺はゆっくりと会場の中へ足を踏み入れた。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
視界いっぱいに広がる巨大スタジアム。
観客席は既に人で埋まり始めていて、熱気と歓声が渦を巻いていた。
俺はギアシューターを起動し、会場データを確認する。
【本日の来場予測数:27,000人】
「二万七千……」
有名アーティストのライブやコンサートクラスの規模だ。
現実世界じゃまずあり得ない。
俺が知ってるギアフォースの大会なんて、小さなおもちゃ屋のショップ大会くらいだった。
十数人、多くても数十人集まれば大盛況。
俺も昔、ユウヤと一緒によく出場していた。
勝った負けたで騒いで。
カードショップの狭い机で笑い合って。
そんな記憶がふと頭をよぎる。
だけどこの世界では違う。
ギアフォースは文化であり、エンターテインメントであり、スポーツそのものなんだ。
「みんなーー! 盛り上がってるかーー!?」
突如、会場中に響き渡る元気いっぱいの声。
「イェェェェェェ!!」
観客席が爆発したような歓声に包まれる。
「ネジキィィィィィ!!」
「ボクの歌が聴きたいかーー!?」
「イェェェェェェ!!」
「聴かせろォォォォ!!」
「ボクのことは好きかーー!?」
「大好きだァァァァァ!!」
「超好きだァァァァァ!!」
「よーーし! 待っててなぁ! 今からこのネジキ様が、会場のみんなに熱いギアソウルを届けてやるかんなぁーーー!!」
ステージ中央。
スポットライトを一身に浴びながら、小柄な少女がマイクを掲げていた。
七色のメッシュが入った髪。
トレードマークの跳ねたアホ毛。
イタズラっぽい笑顔と、チラリと見える八重歯。
「あれって……ネジキか!」
思わず声が漏れる。
アイドルミュージシャンコマンダー、ネジキ。
『遊戯機装ギアフォース』のメインキャラクターの一人だ。
小学生離れした圧倒的な歌唱力。
観客を巻き込むカリスマ性。
そしてコマンダーとしても超一流。
ギアフォースの世界を象徴する存在だった。
俺は空いている席を見つけ、急いで腰を下ろした。
「新曲の名前は名付けて……スターライト・ビート! みんなーー! 準備はいいかぁーー!?」
『ドレミファソルジャー! SET ON!』
電子音声が響く。
ネジキのギアシューターにセットされたギアフォースが輝きを放った。
ドレミファソルジャー。
音を武器に戦う、ネジキ専用ギアフォースだ。
「1・2・3・4ーーーー!」
ネジキがカウントを叫ぶ。
同時に、ドレミファソルジャーが射出された。
ライブ音響システムが起動し、会場全体にアップテンポな音楽が鳴り響く。
「上手くいかない毎日に
ため息ばっか増えてって
『もうダメかも』って言葉が
胸の中ぐるぐる回る!」
ネジキの歌声に合わせて、ドレミファソルジャーが軽快に舞う。
まるで歌そのものに命が宿っているみたいだった。
左手には音撃の盾《ト音シールド》。
右手には音撃の弓《ヘ音ボウ》。
ト音記号とヘ音記号を模した武器が、ライトを反射して煌めいている。
「でもね君が笑うたび
不思議と前を向けるんだ
小さなその一歩だって
ちゃんと未来に繋がってる!」
ネジキの動きに合わせてドレミファソルジャーが跳ねる。
観客の歓声。
スピーカーの重低音。
ギアフォースの駆動音。
その全てが一体になっていた。
「転んだ傷も
泣いちゃった夜も
無駄じゃないって信じたい!」
そして。
ネジキがギアシューターを構える。
『FINISH BREAK!』
電子音声と共に、会場の熱気が一気に跳ね上がった。
「スターライトビィィィィィト!!」
ドレミファソルジャーが弓を引き絞る。
瞬間。
ネジキの歌声。
ギアフォースの駆動音。
観客の歓声。
その全てが七色の音符へと変換され、夜空の星屑みたいに会場中へ広がった。
「転んだっていいじゃん!
泣いちゃったっていいじゃん!
ボロボロの今日だって
明日には歌になる!」
観客席ではサイリウムが波のように揺れている。
誰もがネジキと一緒に歌っていた。
「うまくいかない日々も
ハズレくじみたいな恋も
全部まとめて抱きしめて
僕らだけのステージへ!」
空中に漂う七色の音符に、子供達が手を伸ばす。
触れた瞬間、シャボン玉みたいに弾けて消えた。
だけど。
その手には確かな温もりが残っている。
「スターライト・ビート!
響け!
君のそのギアソウル!!」
アウトロが駆け抜ける。
そして。
音楽は心地よい余韻を残したまま、ゆっくりとフェードアウトしていった。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「キャァァァァァ!!」
「ネジキィィィィィ!!」
「アンコール!! アンコール!!」
会場が揺れるほどの歓声。
観客のボルテージは最高潮だった。
「これが……生で見るネジキのライブか……」
テレビ越しとは全然違う。
歌に込められた熱量。
観客を巻き込むエネルギー。
全部、本物だ。
「アンコール! アンコール!」
隣の席の男の子なんて、まだ必死にサイリウムを振っている。
……ん?
俺はふと、その横顔に視線を向けた。
どこかで見覚えがある。
原作アニメでも、この日本代表予選で登場していたコマンダーだ。
メインキャラクターじゃない。
だけど、膨大なデータを駆使した堅実なギアバトルで強烈な印象を残したキャラクター。
確か名前は――
「データマンヒデ! 君がそうだよね?」
男の子が怪訝そうにこちらを見た。
「……君誰?」