あの夏のギアフォース   作:鳳菊之助

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日本代表予選編③クロノギアス

「あれは確か…」

 

大型モニターに映し出された初老の男の姿を見た瞬間、俺の脳裏に微かな違和感が走った。

 

黒いスーツに身を包み、堂々と観客へ手を振る男。

会場中から歓声が沸き起こる。

 

「えっ、キョウヤ知らないの? GBAで会長をやってるマサムネ会長だよ?」

 

隣でヒデが不思議そうな顔をする。

 

「マサムネ会長…?」

 

俺は子供の頃に見ていた原作アニメ『遊戯武装ギアフォース』の記憶を辿った。

 

確か日本代表戦編は、物語でもかなり序盤のストーリーだったはずだ。

 

なのに。

 

何かがおかしい。

 

頭の奥で引っかかるこの違和感。

無視してはいけない何かがある。

 

「やれやれ…アインシュタイン、検索を頼むぞ。検索ワードは『GBA会長マサムネ』だ」

 

『OK! MY HERO!』

 

ヒデのノートパソコンから陽気な電子音声が響く。

 

直後、空中ホログラムが展開され、大量の情報が高速で流れ始めた。

 

『一致率99%』

 

表示と同時に、信頼度の高い情報から順番に画面へ表示されていく。

 

『マサムネはGBA(GEAR BATTLE ASSOCIATION)の会長である』

 

『GBAは世界中のギアバトル大会を統括する国際機関である』

 

『本日行われる日本代表戦にスペシャルゲストとして登場予定』

 

『かつてはプロコマンダーとして活躍していた』

 

情報を見ながらヒデが肩を竦めた。

 

「まさかギアバトルを嗜むコマンダーがGBAのマサムネ会長を知らないなんて…君ホントにコマンダーなの?」

 

ヒデは呆れたように続ける。

 

「昔は名のあるコマンダーだったみたいだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()みたい」

 

――その瞬間だった。

 

「…ッ!」

 

全身に電流が走る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その一言で、止まっていた記憶が一気に繋がった。

 

思い出した。

 

中々思い出せなかったはずだ。

 

アニメ本編でもマサムネ会長がギアバトルする描写は無かった。

だから印象が薄かったんだ。

 

だが。

 

これから彼に起こる“結末”だけは、嫌でも思い出してしまった。

 

俺は思わず身震いする。

 

その時だった。

 

『一致率45%』

 

突然、検索画面の数値が激減する。

 

「え、なんで!?」

 

ヒデが目を見開く。

 

「アインシュタインがハッキングされてるのか!? でも遠隔操作された形跡なんて――な、なんだこれ!?」

 

ホログラム画面に不気味なノイズが走る。

 

文字列が歪み、表示内容が崩れていく。

 

さっきまで表示されていた。

 

『かつてはプロコマンダーとして活躍していた』

 

という一文が、跡形もなく消えていた。

 

「なんで情報が勝手に消えてるんだ…?」

 

ヒデの声が震える。

 

情報を武器に戦う人間だからこそ、彼は“あり得ない現象”に弱い。

 

現実そのものが壊れていく感覚に、明らかに動揺していた。

 

「これはもしかすると…奴らの歴史改変の影響かもしれない」

 

「…歴史改変?」

 

ヒデがゆっくりとこちらを見る。

 

「本来の歴史を捻じ曲げて、自分達に都合の良い歴史へ書き換えることさ」

 

「そんな…SF小説じゃないんだぞ!? そんなあり得ない事が出来るわけ――」

 

「あるんだよ」

 

俺は低く呟いた。

 

「そんなあり得ないことを本気でやろうとしてる奴らが…しかも、もうこのグランドアリーナの中に潜り込んでる」

 

ヒデの表情が強張る。

 

「さっきから君が言ってる“奴ら”って、一体誰なんだよ?」

 

可能性は低い。

 

だが、確認する価値はある。

 

「ヒデ。G5を使って検索してくれ」

 

「検索ワードは?」

 

俺は静かに告げた。

 

「――クロノギアス」

 

ヒデがアインシュタインへ視線を向ける。

 

「クロノギアス…だな? アインシュタイン?」

 

『OK! MY HERO!』

 

いつも通り陽気に返答したアインシュタインだったが。

 

数秒後。

 

『SORRY…MY HERO…』

 

電子音声が妙にノイズ混じりに歪んだ。

 

次の瞬間。

 

『一致率0%』

 

空中へ無機質な数字だけが表示される。

 

「一致率0%…該当データ無し?」

 

ヒデが困惑したように呟く。

 

俺は静かに目を細めた。

 

「やっぱりな…検索したところでヒットするわけがない」

 

クロノギアス。

 

奴らは歴史の影から歴史を弄ぶ秘密結社だ。

 

自分達の存在を知る者。

邪魔になる者。

不都合な歴史。

 

その全てを、歴史改変によって消し去ってきた。

 

G5で検索しても情報が出ないのは当然だった。

 

原作アニメ『遊戯武装ギアフォース』において。

 

歯車廻率いるライズブレイバーズと熾烈な戦いを繰り広げた、全ての事件の元凶。

 

それがクロノギアスだ。

 

このままでは。

 

マサムネ会長は原作アニメと同じ運命を辿る。

 

マサムネ会長は――この日本代表戦の最中に。

 

クロノギアスによって抹殺される。

 

そして歴史の闇へ葬られる。

 

「なんとかしなければ…!」

 

気付けば俺は立ち上がっていた。

 

いてもたってもいられず、観客席を飛び出す。

 

「ま、待ってキョウヤ!」

 

ヒデの声に振り返る。

 

「君は何者なんだ? 一体何を知っている?」

 

「言えない」

 

即答だった。

 

「どうして?」

 

俺は少し考える。

 

だが。

 

「…言えない」

 

結局それしか答えが見つからなかった。

 

「だから! どうしてだって聞いてるんだろ!」

 

ヒデが珍しく声を荒げる。

 

当然だ。

 

もし俺が“外の世界”から来た人間で。

ここがアニメの世界だと説明したところで。

 

普通なら頭がおかしいと思われるだけだ。

 

それに。

 

不用意に自分の正体を明かすことで、自分自身が歴史改変の引き金になる可能性もある。

 

リスクが高過ぎる。

 

「もし言える時が来たら言う。だから今は何も聞かずに察してくれ」

 

「キョウヤ…ど、どこに行くんだ?」

 

俺は数秒考えた。

 

だが、それっぽい言い訳が思いつかなかった。

 

仕方ない。

 

俺はビシッと指を前へ突きつけ、決め台詞みたいに叫ぶ。

 

「しょんべん!」

 

「は?」

 

ヒデが完全に固まった。

 

絶対嘘だろ…という顔をしている。

 

俺に何が出来るかなんて分からない。

 

でも。

 

やるしかない。

 

俺が上手く立ち回れば。

 

原作アニメで救えなかったあの人を救えるかもしれない。

 

まずはマサムネ会長の暗殺を阻止しねえと。

 

マサムネ会長は既に開会式のスピーチを終えている。

 

恐らく関係者用通路から中へ入れば接触出来るはずだ。

 

先を急ごう。

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