あの夏のギアフォース   作:鳳菊之助

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日本代表予選編④歴史の影

「ここから先はGBA関係者以外、立ち入り禁止だ。お引き取り願おう」

 

「だから何度も言ってるだろ! マサムネ会長に会わせてくれって!」

 

「会長はお忙しい。出直したまえ」

 

「くっ……!」

 

GBA関係者用通用口から侵入し、マサムネ会長に直接会おうとした俺だったが、すぐに黒服のボディーガードに見つかり、行く手を阻まれてしまった。

 

当然といえば当然だ。

 

事情を説明しても会長に取り次いでもらえる気配はない。

 

黒服の男は訝しげに俺を見下ろした。

 

「第一、なぜそこまで会長に会いたがる? 何か事情があるのか?」

 

「それは……」

 

言葉に詰まる。

 

クロノギアス。

 

歴史改変。

 

未来の記憶。

 

そんな話をいきなりしたところで信じてもらえるはずがない。

 

まして今の俺は子供だ。

 

妄想癖のあるガキだと思われて終わりだろう。

 

ならば――。

 

必要最低限の情報だけを伝えて立ち去る。

 

それが一番賢明だ。

 

「君も今日の日本代表戦の出場コマンダーだろう? こんな所で油を売っていないで、ギアフォースの整備でもしていたまえ」

 

「ねぇ、おじさん。紙とペン持ってる?」

 

「あぁ? 仕事柄持ってはいるが……」

 

「貸して」

 

男からメモ帳とペンを借り取る。

 

そして素早く一つのマークを描いた。

 

四つに割れた時計。

 

時間を破壊し、歴史を歪める秘密結社。

 

クロノギアスの紋章。

 

描き終えると、俺はメモ帳を男へ突き返した。

 

「これ、マサムネ会長に渡して!」

 

男は怪訝そうな顔でメモを受け取る。

 

そして内容を見た瞬間――

 

表情が変わった。

 

何も言わない。

 

ただ、その紋章をじっと見つめている。

 

数秒。

 

沈黙。

 

「……これは、なんなんだ?」

 

「この刺青をした人間に気をつけて!」

 

俺はそう言い残し、踵を返した。

 

これ以上ここにいても仕方ない。

 

今は一人でも多く危険を知らせる方が先だ。

 

「じゃあね!」

 

そう言って俺は走り去った。

 

 

キョウヤの姿が完全に見えなくなったのを確認すると。

 

黒服の男はゆっくりと口元を吊り上げた。

 

「ククク……」

 

その笑みは先ほどまでの警備員のものではない。

 

獲物を見つけた捕食者のような笑みだった。

 

「またあの少年……常磐城《ときわぎ》キョウヤか」

 

男は手元のメモを見つめる。

 

四つに割れた時計。

 

クロノギアスの紋章。

 

何故だ。

 

何故この少年は我々の正体を知っている?

 

いや――それ以上に。

 

「何故、お前は我々がこの大会に潜入していることを知っている?」

 

男の瞳が細められる。

 

「何故、ターゲット抹殺計画まで知っている?」

 

しばし沈黙。

 

そして男は小さく呟いた。

 

「……ホログライド解除」

 

その瞬間。

 

男の姿が揺らいだ。

 

まるで蜃気楼のように輪郭が歪み、別の姿へと変貌していく。

 

光の屈折を操り、幻覚を見せるギアフォース――ホログライド。

 

その能力による変装だった。

 

現れたのは。

 

シルクハット。

 

サングラス。

 

黒いローブ。

 

そして右腕には四つに割れた時計の刺青。

 

クロノギアスの一員。

 

ヴェザー。

 

「どうやら面白い砂利が紛れ込んでいるようだな」

 

その時だった。

 

コツ。

 

コツ。

 

静かな足音が廊下に響く。

 

「何を浮かれているの、ヴェザー?」

 

振り返る。

 

そこには黒いロングパーカーを纏った白髪赤眼の少女が立っていた。

 

全身から殺気を漂わせるその姿は、年齢に似合わぬ威圧感を放っている。

 

 

「おーおー、幹部殿じゃありませんか。今日も可憐なお姿で」

 

「相変わらず減らず口の減らない男ね」

 

「口の上手さと顔の良さだけでここまで生き残ったもので」

 

 少女は冷ややかな目でヴェザーを見つめる。

 

「私はお前の仕事ぶりには一定の信用を寄せている」

 

そこで言葉を切った。

 

そして。

 

「人間性については一切信用していない」

 

左目を覆う眼帯を指差す。

 

「私の左眼に嘘は通用しないわ」

 

「相変わらず手厳しいね」

 

ヴェザーは肩を竦める。

 

しかし彼女は気にした様子もなく話を続けた。

 

「私は大会参加者として潜入し、プローブとなるコマンダーの観測を行う」

 

プローブ。

 

クロノギアスが将来ギアボーグ化する候補者に与える呼称。

 

有望なコマンダーたちは、彼らにとって研究対象でしかない。

 

「ヴェザーはターゲットの抹殺」

 

少女の赤い瞳が細まる。

 

「分かっているとは思うけど――」

 

「クロノギアスに失敗は許されない」

 

ヴェザーは言葉を引き継ぎ、不敵に笑った。

 

「分かっておりますとも……闇狃《あんな》様?」

 

闇狃《あんな》。

それがクロノギアスの幹部を務める少女の名前のようだった。

 

闇狃《あんな》とヴェザー。

 

二人の影が交差する。

 

歴史の闇に潜む怪物たち。

 

その視線の先には、日本代表戦の舞台。

 

そして――常磐城《ときわぎ》キョウヤ。

 

かつてない波乱の幕が、静かに上がろうとしていた。

 




ヴェザーの仮イラストです。

https://www.pixiv.net/artworks/145334358#big_0
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