日本代表戦は二日間の日程で行われる。
一日目は予選のブロック戦。
そして各ブロックを勝ち抜いたコマンダーだけが、二日目の決勝トーナメントへ進出できる。
決勝トーナメントはAからHまでの八ブロックを制したコマンダー達によって行われる、日本一のコマンダーを決める頂上決戦だ。
ちなみに俺はGブロック。
現在、ブロック決勝進出をかけた試合の真っ最中だった。
「トドメだ! ユーヤカスタム!」
『FINISH BREAK!』
「サンバーストブレイカー!」
太陽の力を纏ったユーヤカスタムが一気に加速する。
黄金色の光を引きながら突撃したユーヤカスタムの拳が、相手のギアフォースを捉えた。
「ギアソルジャー、フィールドアウト! 勝者、常磐城キョウヤ!」
「よしっ!」
相手のギアフォースが場外へ吹き飛ばされる。
俺は思わず拳を握りしめた。
少しずつだが、サンライザーの胸部アーマーの力を使いこなせるようになってきている。
もちろん、歯車廻ほど上手くは扱えていない。
それでも確実に動きは良くなっていた。
俺がアニメで何度も見た、あの歯車廻の戦い方に近づいている気がする。
何故なら――
「サンライザー! サンバーストブレイカー!」
「ギアナイト、フィールドアウト! 勝者、歯車廻!」
少し離れたフィールドでは、当の本人が勝利を収めていた。
歯車廻。
この世界の主人公。
俺が憧れ続けた男。
そして、この物語の象徴だ。
「見てたよ! おめでとうキョウヤ!」
聞き慣れた声が飛んできた。
「ヒデ! 見てたのか!」
「当然だろ!」
ヒデは得意げに胸を張る。
「ヒデはどこのブロックなんだ?」
「Cブロックさ。そしてたった今、一足先に決勝トーナメント進出が決まったぜ!」
「やるじゃん! さすがデータマンヒデ!」
「キョウヤこそな」
ヒデはニヤリと笑う。
「次の相手は確か……」
「Gブロック決勝だな」
俺はトーナメント表を確認する。
「対戦相手はリナ・キングリートだったはずだ」
「えっ!? リナ・キングリート!?」
ヒデが大声を上げた。
「やっぱり知ってるのか?」
「もちろん!」
ヒデはギアシューターを掲げる。
「HELLO MY HERO!」
『WELCOME BACK HERO!』
電子音声と共にアインシュタインが起動した。
「G5起動して。検索ワードは『リナ・キングリート』」
『OK! MY HERO!』
数秒後。
ホログラムモニターに検索結果が表示される。
一致率69%。
『キングリート家はスポーツ界の名門一家』
『リナ・キングリートは三姉弟の次女』
『長女エレナ・キングリートはテコンドーでオリンピック二連覇を達成』
「なるほど……」
「ただしリナは今シーズンから公式大会に出場し始めたからね」
ヒデは肩をすくめた。
「情報が少ない。一致率が低いのもそのせいだ」
「でも分かることはあるんだろ?」
「もちろん」
ヒデの表情が真面目になる。
「確認できる限り、公式戦無敗」
「……」
「キングリート家の英才教育は本物ってことさ」
キングリート家。
スポーツ界の名門。
確かアニメでもそんな説明だった。
勝つことを義務付けられた一族。
厳格な父親。
勝利至上主義。
「ギアフォースの情報は?」
「あるよ」
ヒデはさらに画面をスクロールする。
『使用ギアフォース:ドリームメイカー』
『能力:ギアバトルごとに変化』
「ギアバトルごとに変化するギアフォースか」
「普通じゃない。何故なら」
「ギアフォースの特殊能力は基本的には一つ、多くても二つだ。それ以上はソウルギアがオーバーフローを起こす」
「つまり……」
「毎回能力が変わるなんて前例がない」
ヒデは腕を組んだ。
「正直、不気味だね」
ドリームメイカー。
確か俺の記憶ではコイツの能力は――
「あなたが常磐城キョウヤね?」
突然聞こえた声に思考を遮られる。
「げっ!? 本人!」
ヒデが素っ頓狂な声を上げた。
振り返る。
そこにいたのは、金髪碧眼の一人の少女。
腕を組み、真っ直ぐこちらを見据えている。
鋭い眼差し。
近寄りがたい雰囲気。
「リナ・キングリートよ」
静かな声だった。
だが有無を言わせぬ圧がある。
「よろしく」
俺は笑顔で手を差し出す。
「お互い楽しいギアバトルができるといいな」
「……楽しいギアバトル?」
リナの表情が僅かに曇る。
「勝負の世界には常に勝者と敗者が存在する」
冷たい声。
「楽しいギアバトルなんて生まれる余地はない」
そして一拍置いて。
「勝つのは私よ」
断言した。
「今も。そしてこれからも」
自信に満ちた姿。
けれど何故だろう。
俺にはその言葉が、自分自身へ言い聞かせているようにも聞こえた。
「その絶対的な自信はどこから来るんだ?」
「キングリート家の人間に許された敗北なんてない」
リナは背を向ける。
「それだけよ」
「待てよ、リナ」
「気安く呼ばないで」
リナは振り返った。
「何?」
俺は胸に親指を当てる。
歯車廻がいつもやっていたポーズだ。
「ギアバトルは最後まで何が起こるか分からない」
リナが眉をひそめた。
「最後まで希望を捨てない奴が勝つんだ」
そうだろ。
なぁ。
歯車廻。
「……ッ」
リナの眉が僅かに動く。
理解できないものを見るような目だった。
「くだらない」
吐き捨てるようにそう言うと、彼女は人混みの中へ消えていった。
「思ったより嫌なヤツだったな……」
ヒデが呟く。
俺は首を横に振った。
「大丈夫だよ」
「え?」
「ギアバトルをする人間に嫌なヤツなんていないから」
ヒデが苦笑する。
「相変わらずだな、お前」
「ギアバトルが終わる頃にはきっとライバルになってるさ」
勝ったら嬉しい。
負けたら悔しい。
でも、それ以上に楽しい。
だから俺はギアバトルが好きなんだ。
「そうだ」
ヒデが思い出したように言う。
「ソウルアカウント交換しないか?」
「もちろん!」
俺達はギアシューターを近づけた。
『……万原秀俊のソウルアカウント登録が完了しました』
『……常磐城キョウヤのソウルアカウント登録が完了しました』
「よし」
ヒデが笑う。
「絶対勝てよ、キョウヤ」
「ああ!」
俺も笑い返した。
「そしたら明日の決勝トーナメントでギアバトルしような!」
ここからが本当の正念場だ。
相手は公式戦無敗のコマンダー。
今の俺とユーヤカスタムがどこまで戦えるか分からない。
それでも――
全力を尽くすだけだ。