あの夏のギアフォース   作:鳳菊之助

15 / 15
日本代表予選編⑥VSドリームメイカーその1

 

観客席に佇む少年は、物憂げな表情で携帯食ゼリーを啜っていた。

 

天童リョウガ。

 

群れることを嫌い、馴れ合いを嫌い、ただひたすらギアバトルだけに情熱を注ぐ孤高の天才コマンダーである。

 

彼はすでにブロック戦を勝ち抜き、明日の決勝トーナメント進出を決めていた。

 

だが、その表情は晴れない。

 

胸騒ぎがしていた。

 

優れたコマンダーほど、人間の感情エネルギーに敏感だ。

 

向けられた視線から相手の感情を読み取ることさえある。

 

そして今、リョウガの鋭敏な感覚は、この大会の裏側に潜む異質な気配を捉えていた。

 

観客席を埋め尽くす歓声。

 

笑い声。

 

興奮。

 

期待。

 

その中に混じる、明らかに異質な感情。

 

嫉妬。

 

憎悪。

 

執着。

 

それらが一つに溶け合い、腐った泥を煮詰めたような不快な感触となって漂っている。

 

リョウガは眉をひそめた。

 

その時だった。

 

「さぁ日本代表戦一日目もいよいよ大詰め! Gブロックでは常磐城キョウヤ選手とリナ・キングリート選手の決勝戦が始まろうとしているぞ!」

 

実況の声が会場に響き渡る。

 

「あっ、いたいた! またそんな美味しくなさそうなの食ってる!」

 

聞き慣れた声に振り返る。

 

「……廻か」

 

 歯車廻だった。

 

 太陽の力を宿す陽気なコマンダー。

 

 リョウガとは正反対の性格をした少年だ。

 

「リョウガも決勝トーナメント進出決めたんだってな!」

 

「当然だ。貴様もオレと当たるまで負けるなよ」

 

「おう!」

 

廻は満面の笑みを浮かべた。

 

「キョウヤの試合も始まるしさ。一緒に観に行こうぜ!」

 

「オレはいい」

 

リョウガは短く答える。

 

「それより貴様、感じなかったか?」

 

「感じたぜ!」

 

廻は力強く頷いた。

 

「ワクワクする気持ちがビンビンとな!」

 

「違うわドアホ」

 

思わず頭を抱えた。

 

こいつには緊張感というものが欠けている。

 

リョウガは乱暴に髪をかき上げながら言った。

 

「一瞬だが、オレのギアシューターが歴史改変エネルギーの余波を検知した」

 

廻の表情が固まる。

 

「それって……」

 

「クロノギアスの人間が大会に潜伏している可能性がある」

 

「キョウヤじゃなくて?」

 

「奴じゃない」

 

リョウガは即座に否定した。

 

「もっと醜悪で、もっとドス黒い感情だ。今まで戦った連中とは比べものにならない」

 

脳裏によぎる異様な気配。

 

あれは人間の感情というより、底なし沼のような何かだった。

 

「怪物だ」

 

その一言に廻は息を呑む。

 

「またクロノギアスが歴史改変を起こそうとしてるってことか……?」

 

廻の顔から笑みが消えた。

 

「分からん」

 

リョウガは短く答える。

 

「だが、この感情エネルギーは異常だ。放置していいものじゃない」

 

「じゃあどうするんだよ?」

 

「オレが調べる」

 

迷いなく言い切る。

 

「お前は懐古堂へ戻れ」

 

「えっ?」

 

「アカーシャに伝えろ。歴史改変の兆候を検知したとな」

 

廻は一瞬戸惑ったが、やがて力強く頷いた。

 

「わかった!」

 

「単独で突っ走るなよ」

 

「それお前が言う!?」

 

 

 

その頃。

 

Gブロック最終戦が始まろうとしていた。

 

バトルフィールドは巨大都市を模したバトルシティ。

 

無数の高層ビルが林立し、その中心には巨大なフィールドタワーがそびえ立っている。

 

遮蔽物が多く、奇襲や立体機動が重要になる戦略型フィールドだ。

 

「レディー……ファイト!」

 

開始の合図と同時に二人はギアフォースを射出した。

 

「行け、ユーヤカスタム!」

 

「おいで、フォーティス!」

 

ドリームメイカーの手に現れたのは時計の長針を思わせる白銀の聖槍ーフォーティス。

 

高い貫通力を誇る専用武装だ。

 

着地した瞬間、ドリームメイカーはフィールドタワーを蹴り、一気に加速した。

 

「うおっ!?」

 

キョウヤは思わず声を上げる。

 

速い。

 

ユーヤカスタムが完全に着地する前に攻撃を仕掛けてきた。

 

この戦術はシュートキルと呼ばれ、着地前の相手を狙う超高難度の奇襲戦術だ。

 

しかし。

 

「胸部解放! サンライザー!」

 

ユーヤカスタムの胸部装甲が展開する。

 

瞬間、能力値が一気に上昇した。

 

迫るフォーティスを両手で受け止め、そのまま拳を叩き込む。

 

響き渡る轟音。

 

ドリームメイカーは吹き飛び、周囲の高層ビルを次々となぎ倒しながら後退した。

 

 

だが、リナは怯まない。

 

再び跳躍し、フィールドタワーの頂上へ着地する。

 

「かなり練習したんだな」

 

 キョウヤは感心したように言った。

 

「シュートキルは成功すれば強い。でも失敗した時のリスクも大きい。当て損じたら自分がフィールドアウトしかねない戦術だ」

 

だからこそ高い精度が必要になる。

 

「なんでそんなこと分かるの?」

 

リナが低く問う。

 

「見れば分かる」

 

「分かった気にならないで」

 

その声には明確な怒りが混じっていた。

 

「私がどれだけの絶望を抱えてきたか……どれだけの時間をギアバトルに捧げてきたかも知らないくせに」

 

その瞬間。

 

『ドリームメイカー……モードチェンジ』

 

電子音声が響く。

 

『サテライトグローブ』

 

会場がざわついた。

 

ヒデが立ち上がる。

 

「サテライトグローブだって!?」

 

G5端末を起動し、即座に情報を検索する。

 

表示されたデータを見て、ヒデは目を見開いた。

 

世界大会常連のトップコマンダー、スターマンのギアフォース。

 

高度な探知能力と追尾能力。

 

そして専用武器である光線銃レイピアを用いた超高精度射撃を得意とする遠距離特化型。

 

「どういうことだ……?」

 

ヒデは困惑する。

 

本来なら別個のギアフォースであるはずだ。

 

だが目の前のドリームメイカーは、確かにサテライトグローブの力を使っている。

 

『FINISH BREAK!』

 

リナのギアシューターから必殺技発動の電子音声が鳴り、必殺技を宣言した。

 

「シューティングレイン!」

 

無数のレーザーが空へ放たれた。

 

次の瞬間。

 

光の雨となってユーヤカスタムへ襲いかかる。

 

「やっぱ避けきれないか!」

 

キョウヤは舌打ちした。

 

一度捕捉された以上、逃げても追尾される。

 

なら逃げなければいい。

 

ユーヤカスタムは周囲の高層ビルを次々と破壊した。

 

崩れ落ちた瓦礫が壁となり、光の雨を遮る。

 

爆発とその衝撃による土煙により視界が白く染まる。

 

 

 

「立っている!」

 

実況が叫んだ。

 

土煙の向こうから現れたユーヤカスタムは傷だらけだったが、確かに生存していた。

 

リナは小さく笑う。

 

「へぇ……瓦礫を盾にするなんて」

 

だが次の言葉に表情が凍りついた。

 

「コピー能力」

 

キョウヤが静かに言う。

 

「それがお前のギアフォースの能力だろ?」

 

リナの瞳が大きく揺れた。

 

まさか見破られるとは思っていなかった。

 

「……随分と察しが良いのね」

 

「ごあいにく様予習済みでね」

キョウヤは肩をすくめる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。