ついに、『遊戯機装ギアフォース』のアニメが終わってしまった。
歯車廻とラスボスとの最終決戦。
熱かった。
人々の希望を力へ変えて放たれた、サンライザー最後の一撃。
画面いっぱいに広がった黄金の光は、今でも目の奥に焼き付いている。
カッコよかった。
本当に感動した。
だからこそ、この気持ちを今すぐ誰かに話したかった。
――ユウヤに。
俺はいつもより少し早く家を飛び出した。
学校へ向かうまでの短い時間でもいい。
あの最終回について、思いっきり語り合おう。
そう決めていた。
ユウヤの家のインターホンを押す。
いつもなら、少し待てば『おー、開いてるぞー!』と気の抜けた声が返ってくる。
だけど。
『はい、どちら様ですか?』
「……え?」
聞いたことのない声だった。
ユウヤの母親の声じゃない。
もっと年配の、老婆の声。
一瞬、家を間違えたのかと思った。
でもそんなはずはない。
何度も遊びに来た家だ。
見間違えるわけがない。
「あの……ユウヤ君いますか?」
インターホンの向こうで少し沈黙が流れる。
『ユウヤ?』
不思議そうな声。
『そんな子知らないよ。ちょっと待ってて』
ガチャリ、と扉が開く。
出てきたのは、見たこともない老婆だった。
「え……あれ?」
混乱する俺をよそに、老婆は穏やかに目を細めた。
「隣の常磐城さん家のキョウヤ君かい? 今日は学校じゃないのかい?」
「おばあちゃん……誰?」
「秋田よ、秋田。冗談でしょ? 忘れちゃったの?」
玄関横の表札へ視線を向ける。
そこには、知らない名前が刻まれていた。
ただそれだけのこと。
なのに、胸の奥が妙にざわついた。
「よかったら家に上がっていくかい?」
訳が分からないまま、俺は頷いていた。
靴を脱ぎ、家へ入る。
内装は何も変わっていなかった。
見慣れた居間。
テレビの位置。
廊下の傷。
全部そのままだ。
なのに。
何かだけが、決定的に違っていた。
「良かったらその柿食べてって。庭の木が実ってきたんだよ」
差し出された柿を受け取り、俺はぼんやりと眺める。
季節はもう、夏の終わりだった。
「おばあちゃん、ありがとう」
俺は柿を机に置き、小さく尋ねる。
「……もっと家の中、見ていってもいい?」
「いいよぉ。キョウヤ君の気の済むまで見ていきな」
間違いない。
ここはユウヤの家だ。
一緒にテレビを見た居間。
ゲームで笑い転げた部屋。
背中を洗い合った風呂場。
梅の木が植えられた、日当たりのいい庭。
全部覚えている。
全部、本物だ。
……違うのは。
表札と。
そこに住んでいる人間だけ。
ユウヤの物だけが、どこにもなかった。
服も。
おもちゃも。
ゲームも。
まるで最初から存在しなかったみたいに、綺麗に消えている。
「ねぇ、ばあちゃん」
自分でも驚くほど掠れた声だった。
「ここに、ユウヤって男の子が住んでたはずなんだ」
老婆は困ったように首を傾げる。
「知らないねぇ。私はそんな子、聞いたこともないよ」
学校へ行っても同じだった。
先生も。
クラスメイトも。
誰一人として、ユウヤのことを覚えていない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
気付けば、『ギアフォース』のブームは終わっていた。
学校では今、新しく始まった『バトル鉛筆』が流行っていた。
鉛筆を転がして戦う単純な遊び。
教室ではその話題でもちきりだ。
俺も第一話を見た。
かなり面白かったと思う。
きっと玩具も流行るんだろう。
流行りは、いつだって変わっていく。
遊びも。
アニメも。
人との出会いも、別れも。
全部。
……でも。
出来ることなら。
バトル鉛筆も、あいつと一緒にやりたかった。
俺は、この突然の別れを受け入れなきゃいけないのか。
「ユウヤ……」
誰にも届かない声が漏れる。
「お前、一体どこに行っちまったんだよ」