あれから、長い時間が過ぎた。
気付けば俺は大学生になっていた。
講義、アルバイト、卒業論文、就職活動。
子供の頃には想像もしなかったような言葉に囲まれて、毎日を慌ただしく生きている。
今年も夏が来ていた。
耳が痛くなるほど鳴いていたセミの声も、八月の終わりが近づくにつれて少しずつ弱くなっていく。
夏休みも後半。
昼間の熱気はまだ残っているのに、夕方になると時折涼しい風が吹くようになっていた。
軒先に吊るされた風鈴が、ちりん、と小さく鳴る。
その音を聞くたび、俺は思い出してしまう。
ユウヤ。
ある日突然、この世界から消えてしまった少年。
親友だったはずの存在。
あの後、俺は何度もユウヤを探した。
昔遊んだ場所。
学校。
近所。
記憶に残っているものを片っ端から辿った。
でも、何も見つからなかった。
影も。
形も。
存在していた痕跡すら。
誰もユウヤのことを覚えていない。
先生も。
友達も。
近所の人も。
両親でさえも。
最初の頃は必死に説明していた。
「本当にいたんだ」
「一緒に遊んでたんだ」
「ギアフォースが好きで――」
でも、話せば話すほど、周囲の反応は困惑に変わっていった。
存在しない友達の話をし続ける、頭のおかしい人間。
いつしか俺は、人前でユウヤの名前を口にしなくなった。
風鈴がまた鳴る。
窓の外では、夕焼けがゆっくり街を赤く染めていた。
「……そういえば」
スマホを眺めながら、ふと思い出す。
今年の夏から、『遊戯機装ギアフォース』のリメイク版が放送されているらしい。
昔の人気アニメを、現代向けに作り直した作品。
ネットニュースでも少し話題になっていた。
卒業論文。
就職。
社会人。
目の前には、受け入れがたい現実ばかりが並んでいる。
俺はいよいよ、大人になる。
……いや。
なりたくてなったわけじゃない。
気付いたら、勝手に大人になってしまっていたんだ。
子供の頃みたいに、何も考えず遊んでいた時間はもう遠い。
遊んでばかりもいられない。
時計の針は先にしか進まない。
振り返ることは出来ても立ち止まることは出来ない。
夏休みが終われば、また現実が始まる。
そんなことばかり考えてしまう。
「帰ったら……見てみるか」
ぽつりと呟く。
リメイクされたギアフォース。
今見たら、何を思うんだろう。
大人になった今の自分が見ても当時の自分のように楽しむことが出来るだろうか。
俺はペダルを強く踏み込んだ。
襲いかかってくる現実から逃げるみたいに、自転車を走らせる。
生ぬるい夏の風が、頬を掠めていった。