「気を付けろ廻……! やっぱりただのコマンダーじゃない……!」
リョウガが鋭く目を細める。
「それは戦えば分かることだぜ! 構えろ!」
「こ、こうか……!」
俺は慌ててギアシューターを構えた。
向かい合う二人のコマンダー。
巨大なギアフィールド。
観客たちの歓声。
懐かしい。
――だけど、全然違う。
初めてだ。
こんな大勢の観客に囲まれてギアバトルをするのは。
初めてだ。
玩具の小さなフィールドじゃなく、こんな馬鹿みたいに巨大なギアフィールドで戦うのは。
でも。
胸の奥で膨らむこの高揚感だけは、昔と何も変わっていなかった。
やっぱり間違いない。
この世界は――『遊戯機装ギアフォース』の世界なんだ。
『ギアバトル……SET……READY……GO!』
スタジアムに重低音のガイダンスが響き渡る。
「いけぇーッ! サンライザー! 先手必勝だ!」
廻の叫びと同時に、サンライザーが射出された。
太陽を模した黄金のギアフォースは、フィールドへ着地した瞬間、爆発的な加速でこちらへ突っ込んでくる。
速い――!
アニメで見ていた時とは比較にならない。
金属同士が擦れる音、地面を蹴る衝撃、空気を裂く速度。
全部が本物だ。
「あぶなっ……! 右だ! 一旦右に避けるんだ!」
だが。
俺のギアフォースは動かなかった。
「どうした! なんで動かないんだ!?」
「……ん?」
廻が不思議そうに眉をひそめる。
回避行動を取らない。
反撃もしない。
作戦には見えなかったのだろう。
次の瞬間。
サンライザーの突進が真正面から炸裂した。
「うわぁぁぁっ!?」
激しい衝撃音。
俺のギアフォースは大きく吹き飛ばされ、フィールド端まで転がっていく。
重い。
身体までダメージが伝わってくるようだった。
「な、なんで動かないんだよ……!」
ギアフォースが思ったように動いてくれない。
ギアフォースとギアシューターには“ソウルギア”と呼ばれる機関が搭載されている。
感情が力になる。
それがギアバトル。
なのに。
俺の感情は、まるで上手く伝わっていなかった。
力が足りないのか?
それとも――。
「あいつ、ギアバトルの腕前はそこまでじゃないのか?」
リョウガが冷静に呟く。
「見た所、コマンダーの感情を受け取ってギアフォースを動かすという基本操作すらまともに出来ていない。明らかに初心者だ」
『ギアフォースのダウンを確認……カウントを開始します……1……』
無機質なガイダンスボイスがスタジアムから流れた。
ギアバトルの勝敗条件は二つ。
一つは、相手をフィールド外へ弾き飛ばすこと。
もう一つは、ダウンしたギアフォースが五カウント以内に立ち上がれなかった場合。
今、俺のギアフォースは完全にダウンしていた。
このまま立てなければ負ける。
「ギアフォースの力の源は人間の感情エネルギーだ!」
廻が真っ直ぐこちらを見る。
「心に迷いがあれば、思うように動かないぜ!」
『2……』
カウントが進む。
「心に……迷い?」
「ああ! その迷いがある限り、ギアフォースはコマンダーに応えてくれない!」
迷い。
確かに俺は混乱していた。
突然ギアフォースの世界に飛ばされて。
身体まで子供になって。
目の前には、アニメのキャラクターたちが本当に存在している。
でも。
今、俺の心を一番支配しているのは――。
ユウヤだ。
あの夏の日を境に、世界から消えてしまった親友。
誰の記憶にも残っていなかった少年。
その手がかりが、今まさに目の前にある。
何故だ、ユウヤ。
何故今になって俺の前に現れた?
お前は俺の妄想じゃなかったのか?
このギアフォースを見るたび。
サンライザーと向き合うたび。
嫌でも思い出してしまう。
あの頃の夏を。
ユウヤと一緒にギアフォースで遊んでいた、あの日々を。