「俺の名前は歯車廻! お前は?」
眩しいほど真っ直ぐな声だった。
「……常磐城キョウヤだ」
そう返すと、廻は太陽みたいな笑顔を浮かべた。
「改めてよろしくな、キョウヤ!」
――歯車廻が、俺の名前を覚えてくれた。
信じられるか?
テレビの向こう側にしか存在しなかったはずのキャラクターに認知されている。
大好きなアイドルに顔と名前を覚えられて舞い上がるアイドルオタクの気持ちが少し分かった気がした。
いや、今の俺はそれ以上かもしれない。
だってコイツは。
俺が何度も見返したアニメ『ギアフォース』の主人公――その本人なのだから。
「キョウヤも日本代表予選に出るんだよな?」
「……え? 俺が?」
日本代表予選。
ギアフォースにおける序盤最大のイベント。
原作第一話で、歯車廻と天童リョウガは激闘の末に互いを認め合い、それぞれのギアフォース――サンライザーとドラゴナイトブレイバーの名を冠したチーム『ライズブレイバーズ』を結成する。
そして日本代表予選へ出場。
歌って踊れるミュージシャンコマンダー・ネジキをはじめとした強敵達と戦いながら、やがて世界の命運を懸けた戦いへ巻き込まれていく。
――確か、そんなストーリーだった。
どうする?
今から俺は、その物語の中心へ飛び込もうとしている。
「参加しようぜ!」
廻は屈託なく笑った。
「俺さ、もう一回キョウヤとギアバトルがしたいんだよ!」
曇りのない瞳だった。
太陽みたいな笑顔だった。
歯車廻に嘘はない。
そもそもコイツは嘘をつけない人間だ。
そんなことは、俺が一番よく知っている。
「やめろ廻」
隣で腕を組んでいた天童リョウガが冷たく言い放つ。
「こんな得体の知れない奴とこれ以上関わるな」
「リョウガもキョウヤとギアバトルすれば分かるって! 熱いギアソウルを持ってるコマンダーだってさ!」
「……くだらん。俺は先に行く」
「あっ、おいリョウガ待てよ!」
廻は慌てて振り返り、そして再び俺を見る。
「キョウヤ! 俺とソウルアカウント交換しないか?」
「ソウルアカウント?」
確か、ギアシューターに刻まれているコマンダー固有の識別情報だったはずだ。
ソウルアカウントを交換した者同士は、離れていても通信が可能になる。
要するに、現実世界で言う連絡先交換みたいなものだ。
「あぁ! 大会に出なくてもいい! でもまたお前と戦いたいんだ! 頼む!」
そこまで真っ直ぐに言われると、断れる気がしなかった。
「……分かった」
俺達は互いのギアシューターを近づける。
ソウルギア同士が触れ合った瞬間、電子音声が響いた。
『……歯車廻のソウルアカウント登録が完了しました』
『……常磐城キョウヤのソウルアカウント登録が完了しました』
「よし! 登録完了っと!」
廻は満足そうに笑う。
「ありがとな、歯車廻」
「礼を言うのはこっちだって! じゃあまたなキョウヤ! おーいリョウガ待てって!」
そう言い残し、廻はリョウガを追いかけて走り去っていった。
……この世界に来て最初に接点を持ったのが、よりにもよって歯車廻とはな。
現実味がない。
けれど、ギアシューターに表示されているソウルアカウント情報は、紛れもなく本人のものだった。
「日本代表予選、か……」
ギアバトル日本代表を決める大会。
原作の運命が動き出す場所。
そんな舞台で。
俺はどこまで戦える?
試してみたい。
――いや。
もう俺の魂は、とっくに決まっていた。
「……やってみるか」
キョウヤがグランドアリーナに向かうのを見届ける男が一人。
黒いローブに身を包み、頭にはシルクハットを深々と被っている。
「おやおや...歯車廻のソウルギアの痕跡を追っていたら思わぬ収穫を得たな。サンライザーの同等の能力を持つ新たなギアフォース...そして」
男は自身のギアシューターに何かを打ち込み。
その結果を見て薄ら笑いを浮かべていた。
『常磐城《ときわぎ》キョウヤ...検索結果に該当無し』
「正体及び出自不明のコマンダーの出現...ククク...」
男はローブの中から一体のギアフォースを取り出し、ギアシューターにセットする。
ギアシューターが装備されている右腕には4つひび割れた時計の刺青が施されていた。
『ホログライド...SET......ON!』
ノイズが混じった異質な電子音がギアシューターから鳴る。
まともな代物ではないことは明らかだった。
男はギアフォースの力を行使し、身体が眩い光に包まれた。
「常磐城《ときわぎ》キョウヤか...一応名前は覚えておこう」
やがて男は光の中に消えていく。
そして去り際に一言いい残した。
「ギアデウスの導きあれ...」