IS インフィニット・ストラトス ~胡蝶の夢~   作:おおがみしょーい

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 もう完全に息抜きで書きました。
 このネタわかる人いるかなぁ。
 ほっとんどIS関係ないです、ごめんなさい。


幕 間 休日(ラーメン編)

 とある初夏の休日、まだ正午にもなってない時間だが、俺は足早に歩いていた。

 何故か――それは戦場に向かっているからだ。

 

 名乗るのが遅れたが、俺の名前は“本郷”、下の名前は……まぁ、いい、別にそこまで名乗る程のものじゃあない。

 

 ところでいきなりで申し訳ないのだが、ひとつ質問だ。皆は何をしているとき一番幸せを感じられる?

 

 暖かい布団でゆっくりと眠る? ああ、それはいい、気持ちよさそうだ。

 静かな部屋で時間を忘れて読書? ふんふん、なんとも優雅な時間だ。

 家族と一緒に団欒? いいね、素晴らしい、家族は大事だ。

 仲間と一緒にパーリナイ? ふふん、俺の趣味じゃあないが、わからなくもない

 恋人との甘いひと時? まぁ、俺は“今は”独り身だが(かつてはいたのかとか聞くんじゃないぞ!?)そういう人間も多いだろう。

 

 だが、俺の幸せはこの中には――ない!

 

 俺の一番の幸せは“メシを食っている”時だ。

 しかし、ただ食べるだけじゃあない。

 美味いものじゃなければダメだ。

 そして基本は外食。

 店も重要、前段でも言ったが、美味い店じゃないとダメなのは勿論だ。そして、美味しさと同じくらい重要なのが佇まい。別に高かったり、オシャレだったりする必要はない(というか、むしろそんな店はノーサンキュウだ)。何て言か――そう、“歴史”。“歩み”といってもいいかもしれない。とにかくその店の“生きざま”が見える店がいい。

 その上で、安くて旨ければ最高だ。

 安くて旨い店で、独り気ままにメシを食う。この瞬間に俺は無償の幸せを感じる――俺はそんな男だ。

 

 そして、そこに付け加えて最高に重要な要素がある。

 それは――如何に“粋”であるか――だ。

 

 食事には流れがある。リズム――と言ってもいいかもしれない。

 例えば(俺は行かないが)フランス料理のフルコース。前菜から始まり、サラダ、スープ、魚料理、肉料理、デザート――といった流れで出てくる。

 それは、普通の食堂とて同じこと。むしろ、店が流れを明確に示さない定食屋などの方が自ら流れを作り出さなければいけない分、高級店よりも客としての真価が問われるといっていい。

 

 店にはいり、自らの食べたいものの中から綿密な戦略を練り、バランスよく注文し、サッと平らげ、颯爽と会計を済まし、出る。その時に、主人に「ごちそうさま」の一言を忘れない。

 店にとって理想の客。

 それを成したとき、俺は最高の幸せを感じられるのだ。

 俺はそんな食事に対してのこだわりを持つ人間として、数多の戦場を掛け目ぐり攻略していった歴史的軍師に例え、「食(蜀)の軍師 諸葛亮」を自称している。

 

 そんな食の軍師 諸葛亮本郷が本日目指すのは――ラーメン!!

 

 もちろんただのラーメン屋ではない。

 激盛り系の元祖として名高い“五郎本店”である。

 この五郎、通常のラーメン屋の2倍はゆうにあるであろう量がありながら、味もいいということでラーメン界では伝説的な名店として名を馳せている。

 しかし、前段で言ったように量が多いこと、そして、コアなファンと注文時の呪文のようなトッピングコールのために一見様や女性には非常に来にくい修羅の園となっていた。

 だが、それを乗り越えて食した“ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ 肉入りラーメン大”の美味さは筆舌に尽くし難く、一部では『麻薬』とすら呼ばれているのだ。

 

 俺はその“ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ 肉入りラーメン大”を最高のコンディションで食べるために、今、足早に戦場――五郎本店――へと歩いているのだ。

 最高のコンディションを得るために抜かりはない。

 昨日はお腹を空かせるためにプールに行きしっかり泳いだあとに、かけ蕎麦のみ夕食にしている。さらに、朝は7時に起床、ワカメスープとトーストという軽い朝食にし、昼前だというのに空腹の絶頂だ。

 そして、更なる最高を目指して開店前に並ぶ。

 鍋の水が濁っていない一発目の麺を食べてこそ、生粋のゴロリアン(ラーメン五郎に魅了された者たちの総称)を名乗れるというものだろう。

 

「むっ!」

 

 五郎本店についた俺は思わず声を漏らしてしまった。

 もうそれなりの人数が並んでいたからだ。

 

「くっ、今日が休日なのを失念していた……20分前じゃなく、40分前に来るべきだったか」

 

 が、そんなことを言っても始まらない。俺は慌てて最後尾の背の高い男の後ろに並んだ。

 ひい、ふう、みい……並んでいる人間を数えてみた。

 

「ふう……セーフ」

 

 安堵の声が漏れた。

 なぜかって?

 俺が並んだのが9番目だったからだ。

 五郎本店の席数は10席。

 故に一度に入れる人数は10人までだ。

 そこに間に合っていれば、「1ロット目の五郎」を食べることが出来るのだ。

 

「やれやれ……一安心だぜ」

 

 俺がようやく一息ついたとき、

 

「マスター、マスター。ラーメン楽しみですね!」

 

 この修羅の園にあまりに似つかわしくない、可愛らしく、愛らしい、少女の声がした。

 

 何! 馬鹿な!? 幻聴?

 ここに女連れ、更に少女を連れてくるような人間がいるわけがない!

 

「ああ、そうだね。なんか有名みたいだよ、ここ」

 

 そんな俺の思考を否定するかのように、俺の前にいた背の高い男が答えていた。

 次の瞬間、俺は、その男の前に紫色の髪を左右に結わえた美少女(ロリ)がいることを認識した。

 

「ギ、ギ、ギ……ギルティーーーっ!!!」

「へ?」

「え?」

 

 俺は目の前の男と美少女が俺の方を振り返ったことで、自分が思わず言葉を声に出してしまっていたことに気がついた。

 

「あ、いえ、すみません。なんでもないです……」

 

 俺はとりあえず、謝罪の言葉を口にして頭を小さく下げる。

 

「はぁ?」

「ん??」

 

 不思議そうな顔をする男と小首をかしげる美少女(ロリ)。

 

 そして俺は初めてその美少女(ロリ)を正面から見て、衝撃を受けた。

 

 その少女の愛らしさたるやなんと表現したらいいだろうか。パーツの一つ一つが全てにおいて美しく整っていて、それでいて人形のような冷たさがないのは、表情がとても豊かだからだろう。映るもの全てを美しく見せるかのような大きな瞳がくりくりとよく動いている。

 これは、至宝だ。

 人類が皆、利害を度外視して守り、慈しまなければならない究極の存在、そんな美少女(ロリ)だった。

 

 が! しかし!

 だからこそ、だからこそ、こんな少女はこんなところにはいけない。

 即刻、ネズミが牛耳る夢の国あたりにでも行って、フレンチトーストやら、パンケーキやらを頬張るべきだ。

 その食べてしまいたいくらいにプニプニと柔らかそうなほほの中に、男たちの食欲が具現化したかのような“ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ 肉入りラーメン大”など入れてはいけない! 断じて否だ!!

 

 この男か! この男のなのか!?

 

 人類の至宝たる美少女(ロリ)をこんなところに連れてきている罪人はっ!!??

 こんな美少女(ロリ)と知り合いというだけで罪なのに、更にこの二人は明らかに仲がいい! 年の離れた兄弟、もしくは男の兄弟の娘、つまり叔父と姪の関係あたりだろうか、近所のお兄ちゃんというにはあまりに馴れ馴れしいし、まさか恋人同士などという関係であったら俺はこの男をこの場で(ほふ)らねばならなくなってしまう。

 とにかく重罪人と言って相違ないだろう。

 しかも、この店も初めて来たようだ。

 まったくもって度し難い。

 五郎ラーメンの予想外の多さに、途中でリタイアする未来しか見えない。

 五郎本店の様な人気店は常に人が流れてくる。

 こんなふうに店のリズムや流れを狂わす人間がいると、その時だけでなく、その店のその日の流れが一気に狂ってくるのだ。

 この美少女を入れてギリギリ10人。なんとかファーストロットに間に合ったものの、暗雲が立ち込めているようでならない……

 

 俺が未来に暗澹たる思いを抱き始めた時、またもや許されざる出来事が起こったのだ。

 

「あー、式部地くん。あ、撫子ちゃんもいる。おはようー」

「む、式部地か、なんだこの行列は? 新たな猫さんグッヅ販売現場か?」

 

 再びこの修羅の園に相応しくない女の声。

 振り返るとそこには、4、5人の女子高生と思わしき一団がいた。

 そんなかでもとびきり目立つ美少女二人がまたもや目の前の男に声をかけてきたのだ。

 

「ああ、おはようございます。デュノアさん、ボーデヴィッヒさん」

「おはようございます」

 

 罪人と美少女(ロリ)がなんの気負いもなく挨拶を返す。

 

「何並んでいるの? ってラーメン屋さん?」

「む、猫さんグッヅではないのか……」

 

 美少女(金髪)と美少女(銀髪)の言葉に周りの少女たちも口を開く。

 

「ここ知らない? 結構有名なのよ」

「まぁ、有名だけど量が多くて重いから、女の子はあんまり行かないのよね」

「そうみたいですね。昨日撫子とどこ行くかいろいろ調べてたらココ見つけたんです、そうしたら撫子がどうしてもって言うので」

「はいです! ラーメン楽しみです!!」

「ん~、二人だったら大丈夫かもね。私も食べたことないけど」

 

 少女の団体と楽しそうに会話を交わす罪人。

 こんな少女たちに囲まれて会話なんぞ、俺の人生一度もない!!

 というか、ここ一ヶ月プライベートで女性と話したのは、コンビニのバイトの店員と定食屋のおばちゃんくらいな俺は、この目の前の現状に目の前が怒りで赤くなりそうだった。

 

「デュノアさんたちはどこ行くの? 買い物かな?」

「それもあるけど、あとはゲームセンター」

「等身大黒猫さん抱き枕のクレーンゲーム。今日こそ陥落()としてみせる……」

「ラウラ……IS展開しちゃダメだからね……」

「む……わかっている……」

「はは、頑張ってください」

「ファイトです! 撫子は応援してます!」

「ふふ、式部地くんも良ければ合流してよ、駅前あたりブラブラしてるからさ」

「まぁ、私の戦果の邪魔さえしなければ問題ない」

「おおー、おいでおいでー」

「撫子ちゃんもまってるぞー」

 

 少女たちは言葉を交わすと手を振りながら去っていった。

 

 ギ……

 ギ――

 ギッ……

 ギルティィィィーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!

 

 俺は理性を総動員して口を抑え、口から言葉となって溢れ出しそうなパッションを封じ込めた。

 今この男は何をした?

 美少女(ロリ)を連れているだけでは飽き足らず、この修羅の園“五郎本店”で食事をしたあとに女子高生グループと遊ぶだと?

 

 ざっけんじゃねええええええよ!!

 ねーよ!!

 ねーーーーだろ、そんなの!!

 ニンニクくせえよ!!

 なに? イケメンならそんな程度も許されるの?

 不公平だろ!!

 おかしいだろ!!

 

 おおおーーーーい、かみさまーーーー、あんた間違ってる、ぞーーーーーーーーっ!!!

 

「お待たせしましたー! いらっしゃいませーー! 順番に食券をお買い求めになってお席の方へどうぞ!!」

 

 俺が怒りの情念に囚われ我を忘れそうになったとき、神(五郎本店店員)の声が聞こえた。

 はっ、と我に返る。

 そうだ、俺は何をやっているんだ……

 俺は今、ラーメンを食べに来ているんだ。その為に、昨日から綿密な準備をしてきてる。その努力を無にするのか?

 

 いかんいかん、落ち着け、深呼吸だ……

 

 すうーー、はーーー、すうーー、はーー、

 

 うん、大丈夫、だいぶ落ち着いた。よし、いいぞ、お腹がやはりすいている。もしかしたら、それで少々気が立っていたのかもしれない……目の前の青年、見れば確かにイケメンだ。躰つきもがっしり逞しいし、しゃべっている物腰の柔らかさも考慮に入れると、モテても不思議ではないだろう。すまんな、俺の虫の居所が悪かっただけなんだ。

 そうだ、確かに今日、彼ら――イケメンと美少女(ロリ)は失敗するだろう。五郎本店のラーメンに膝を屈することになる。

 しかし、誰しも初めてがあり失敗がある。そんな時、俺のような熟練者がすることは黙って手を差し伸べることなのだろう。

 予習はしててもトッピングコールでつまづくかもしれない、そんな時そっと初心者のおすすめが“ヤサイマシ ニンニクカラメヌキ アブラスクナメ”であることを教えてあげればいいのだ。それが粋なラーメン者、食の軍師たる諸葛亮本郷の俺の役割だろう。

 

 そんな凪いだ海のような穏やかな心で俺は食券を買いカウンターの一番奥へと座った。

 

「はい、いらっしゃい! お好み何にしましょう?」

「ヤサイマシマシニンニクマシ カラメアブラスクナメ」

 

 店主がトッピングを聞いてくる。

 客が自らの好みを返す。

 

 ああ、いい。このテンポだ。

 この軽快なリズム、小粋なジャズを聞いているようじゃあないか。

 さあ、つまづくなよ、ここは重要だぞ、青年。

 

「はい! お次のお客様! お好み何にしましょう?」

「えっと、ヤサイマシニンニクカラメヌキ でお願いします。あ、となりのこの子も同じので」

「はい、かしこまりましたー!」

 

 ふんふん、まぁ、はじめてにしちゃあ、上出来じゃないか。

 流石に流れるようなジャズとまではいかなかったが、流れを止めなかったことは評価できる。

 

「お客様! お好み何にしましょう?」

 

 まぁ、あのトッピングコールを立て板に水で言えるようになるまでには、かなりの年季が必要だ。この俺だってコールをワンブレスで言えるようになるまでにふた桁の来店経験を必要としたもんだ、そもそも……

 

「お客様! お客様!!」

「へ? え? 俺!?」

「大丈夫ですか? お好み何にしましょう?」

「え、あ、えーーと、その……」

「ヤサイ、ニンニク、カラメダレ、アブラがそれぞれ増加できますから、お好きな量を“マシ”の回数でおっしゃてください」

「え? あ、えっと ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ ……で、お願いいします……」

「はい、かしこまりました! ありがとうございまーす!!」

 

 くううう!! 何をやっているんだ俺!!

 他に気を取られていて、一番大事な自分のコールをミスってしまったじゃないか!! あれじゃあ予習も何もせずに来た一見さんまんまじゃないか!!

 なんたる屈辱!!

 俺の馬鹿!! 馬鹿!!

 落ち着け……落ち着いて周りを見るんだ……注文は終わってる……あとはラーメンが来るまで心を落ち着けて待てばいい……

 ああ、今、麺が投入されている、あの中に俺の麺も……

 

 って――なにーーーーーーーーっ!!!!!

 

 何たることだ……何たることだ!!!!

 俺は今、重大なことに気づいてしまった……

 

 この五郎本店の麺用の鍋は2つ、それぞれ5人前。つまり計10人前の麺を一気に茹でることができる。つまりカウンターの席数分のラーメンを一気に作り上げることができるのだ。

 しかし、大盛りが入ると話が違ってくる。

 もちろん、鍋にもゆとりがあるから6人前くらいまでなら一気に茹でれるようだが、それ以上は次の鍋に移される。

 いま食券の色を見ると、現在大盛りを頼んでいるのは三人、一番先頭に並んでいた小太りのメガネと隣の美少女(ロリ)連れのイケメン、そして俺――の3人だ。

 こうなると二つの鍋で一気に茹でる許容範囲を超えてしまっている、そうなるとどうなるのか。一番最後に注文した俺の“ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ 肉入りラーメン大”が9人のラーメンが出し終わったところで新たに作られることになる。

 

 まずい、

 まずいぞ――非常にまずい……

 

 ただでさえ量の大い“肉入りラーメン大”。これがワンテンポ遅い形で出るとなると、普通に食べたら明らかに俺ひとり取り残されてしまう。

 まだ開店したばかり、一巡目のロットでロット乱しをして客の往来を乱すようなことをラーメン者として、食の軍師として、この俺が出来るはずがない!

 ただでさえトッピングで出遅れてしまったのだ、ここに来て恥の上塗りなど出来るわけがない!! この食の軍師 諸葛亮本郷の名にかけて五郎最大の(ギルティ)『初回ロット乱し』を犯すわけには断じていかない!!

 

「はい、おまたせしましたー。ヤサイマシニンニクカラメヌキ 肉入り大でーす」

「あ、ありがとうございます」

「はい、こちらヤサイマシニンニクカラメヌキ 肉入りです。熱いから気をつけてね、お嬢ちゃん」

「はいです!!」

「お次のお客様、少々お待ちください、すぐできますので」

「は、はい……」

 

 俺は身を固くして返事をする。

 

「撫子? 大丈夫? 髪後ろで結いてあげる」

「ん? あ、えへへ、ありがとうございます。マスター」

「じゃあ、いただきます」

「いただきまーす!」

 

 となりがイチャついているが――もう俺はそれどころではない。

 

 とにかく出てきたラーメンを一気呵成に平らげて、このロットの乱れを調和する、マイストロの役目を担ってみせる!!

 

「はーい、お待たせしましたー ヤサイマシマシニンニクカラメアブラマシ 肉入り大です」

 

 きた。

 戦闘開始だ――。大丈夫だ、俺は何年もこの五郎を攻略してきた猛者だ。この程度の修羅場乗り切れなくてどうする。

 落ち着け、まずは割り箸を――

 

「あ――!」

 

 俺は思わず声を上げた。

 俺の目の前には割ろうと思い、勢いよく左右に開いたがうまくいかず、上のほうの割り箸がくっついたままになってしまったいびつな割り箸。

 

 で、出鼻をくじかれた――

 

 しかし、もう一本割っている時間はない!

 いいだろう、これは運命が俺に挑戦しているのだ!

 たとえ折れた剣(うまく割れなかった割り箸)でも、この小山のように盛り上がった肉入り大、片付けてみせる!!

 

「ガツッ――グッフ――フガ――ガアアア!!!」

 

 俺は丼に手を添えると、ラーメンという名の野菜とニンニクの山に踊りかかった。

 麺が見えない。

 くそ、久しぶりだから、ヤサイはマシで止めておけばよかったか。

 く、肉入りの肉が大きい! というか大きすぎる!

 そうかわかったぞ、これ先っちょだな! 先っちょ切るの面倒だから一気に入れたな!

 く、食いにくい……

 そ、そうだ、レンゲ、レンゲは……あった! 一本げっ……

 

 ガチャーーン!!

 

 な、なにーーーーーー! 慌てたからか、俺の手が当たりレンゲの入ってるカゴを床に落としてしまった。

 

「ああ、お客さん、大丈夫?」

「は、はいほうぶれふ。ふみまへん(は、はい大丈夫です、すみません)」

 

 店の人が出てきてレンゲを拾ってくれる姿を俺は黙って見ていることしかできない。

 

 しかし、他のことに一切捨て置いてラーメンとがぷり四つに組み合った結果、ようやく麺が発掘できるところまでたどり着いた。

 

「グッフ――デュフ……ぬおっ!」

 

 くっ! あ、熱い!!

 しかも、急いでいたからニンニクをダイレクトに喰ってしまった。

 辛い! み……水、水を……

 

 俺は手をテーブルに行き来してグラスを探すが……ない!!

 何故だ……ここは、確かにセルフサービスだが、俺は水を忘れるなんていうヘマは……

 

 あーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

 

 そうだ、忘れてる! 俺、水持ってきてない!! なんかごちゃごちゃ考えてて普通に座っちゃってた!!

 

「く、水……みず……」

 

 俺は視線を走らせグラスと水のピッチャーを探す。

 

 ――みつけた!! って、遠いっ!!!!

 

 水のグラスとピッチャーは俺の手の届く範囲にはなく、例の青年の目の前に置いてあった。

 

 くっ、どうする? どうする?? 立つか? でもこの混雑の中立つってどうよ?

 

 そんなことを考えていたら、

 

「撫子、これ隣の人に渡してあげて」

「はいです! はい、お水どうぞ」

 

 青年が何かを察してくれたのか、俺の隣の少女に水を入れたグラスを渡し、俺の前においてくれた。

 

「は、はりがほうございます(あ、ありがとうございます)」

「いえいえ」

「どういたしまして」

 

 青年と美少女(ロリ)に礼を言うと俺は再びラーメン(強敵)へと向き直る。

 

 (援軍)もきた! 流れも悪くない、これなら行ける! イける!! この高難易度のミッション、踏破できるぞ!!

 

「ガツ――デュフ――グフッ――ヌアアアア!!」

 

 俺は最後の力を振り絞りラーメンを掻き込んだ。

 

「ハグ!! ――はっは(勝った)……」

 

 麺を食べ終わった丼をカウンターに置き箸を置く。

 胃から口の中までラーメンが詰め込まれている。

 一気に食べたためか、通常よりも量が多く感じられた。

 だが、勝った。

 ロットを乱すことはなかったのだ。

 

「ごちそうさまー」

「ごちそうさまでしたー、美味しかったです!」

「おー、お嬢ちゃん凄いねー、残すかと思ったけど綺麗に食べられたかー、やるねー」

「えへへ、美味しかったです。また来ます!」

「おう、いつでもお出て。ありがとうございましたー」

 

 そうか、となりも勝ったか。

 初陣での勝利、大したものじゃあないか。

 さあ、俺も帰ろう、親父さんへの挨拶を忘れないように……

 

 そう思いながら、何気なく丼を見たとき、俺はそこに何か残っていることに気づく。

 

「は、はんだ?(な、なんだ?)」

 

 箸でそれを掬い上げてみると――

 

 そこには今までで一番大きなチャーシューが堂々たる姿でそこに存在していた。

 

 な、何故だ……

 なぜここにチャーシューが……

 

 ――っ!! そうか、ドンブリを抱えて掻き込んだせいで、上にあったチャーシューがしたに張り付いてしまったのか……

 

 く、食わなければ……

 食わなければ……

 お残しは、食の軍師としての沽券にかかわる!

 さあ、食うぞ……食うのだ!! 俺は自らを鼓舞しながら、なんとか箸でつまんだチャーシューを口元に持ってきたが……

 

「――ブホッ!」

 

 口を開けた瞬間、身体がもう食べ物を受け付けるなと全力で拒否したかのように、ラーメンが逆流した。

 その瞬間、視界がぐらりとゆらいだと思ったら、いつの間にか天井が見えていた。

 おそらく椅子から滑り落ちたのだろう。

 

「お客さん! 大丈夫!? お客さん!!」

 

 店員さんの声だけが、遠くからかすかに聞こえた……気がした。

 

 

 食の軍師 諸葛亮本郷 ラーメン五郎本店 敗走

 

 




 孤独の~のゴローさんがモデルではありません。
 別の漫画がネタモトです。

 わかるひと……いるかなぁ、厳しいだろうなぁw

 4月からドラマ開始とにことなので、個人的にとても楽しみですw
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