IS インフィニット・ストラトス ~胡蝶の夢~ 作:おおがみしょーい
時系列は2巻と3巻の間。
ただ更織姉妹は既に一夏と交流してます(一夏くん強化のために)。
そんな感じでお願いします。
コツッ、コツッ、コツッと規則正しい足音を響かせながら、ひと組の男女がIS学園の廊下を歩いていた。
一人はIS学園の教師である山田真耶。
身体のサイズにあまりあっていないようなだぼっ、とした服に、こちらもサイズがあっていないのか若干ずれている黒縁眼鏡が本人を実際以上に小さく見せている。
その後ろから真耶に歩幅を合わせるように一人の“少年”がついてきていた。
いや、年齢的には”少年”なのだろうが、佇まいというか、雰囲気が大人びて見える。”青年”と言われてもあまり違和感がない。
「検査の方は大丈夫でしたか? ごめんなさいね、もともと男性装者に関してはいろいろと複雑な手続きがあるんですけど、更に最近はちょっと前に男性装者の関係でトラブルがあったから……」
山田は“少年”の方を振り向きながら、すまなそうに眉を下げる。
「いえ、まぁ、自分の立場はわかっているつもりですので……イレギュラーが重なって山田先生も大変ですね」
声をかけられた少年は真耶の言葉に落ち着いた声で返答する。
そんな“少年”の返答に真耶はその通りだと言わんばかりに頬を膨らませた。
「そう! そうなんですよ! 男性装者である織斑くんがいるのはいいことだと思うんですけど、それに対して上の方からいろいろいろいろ下りてきて、ほんとに……」
と、そこまで言って愚痴になりそうだと気づいたのであろう、真耶は、
「あ、ごほん……ごめんなさいね、変なこと言っちゃって。でも正真正銘の“2人目の男性装者”が現れたんです。織斑くんも喜ぶと思いますよ」
そう言ってニッコリと“少年”に向かって笑いかけた。
織斑くん――その名前を聞いた少年の口が小さくほころぶ。
「えぇ、俺も楽しみにしてます……織斑一夏君に会えるのを」
笑みを浮かべた“少年”の口からそんな言葉が紡がれる
真耶はその言葉の中に、何かいろいろな感情が紛れ込んでいるように感じたが、一夏は人類史上初めての、そして目の前の“少年”は2番目の存在だ。本人の中でも思う所はあるのだろう、そんなふうに考え、真耶はその事については深く考えるのをやめた。
「きっと仲良くできますよ。織斑くんはとっても優しい子ですから」
そんな会話をしていると、目的の教室までたどり着いたのであろう、真耶の足が止まる。“少年”もそれに習って足を止める。
「じゃあいきますね。“式部地”くん。ようこそIS学園へ!」
そう言って真耶は教室の扉を開く。
“少年”――
―――――
最近毎朝早朝に行っている生徒会長――更織楯無のトレーニングの心地良い疲れに身を任せながら、一夏は教室の喧騒を聞くと話に聞いていた。
原因はもちろんわかっている、先だって見つかった“二人目のIS男性装者”が今日、このクラスにやってくるからだろう。
実を言えば一夏自身、少し……というか、かなり落ち着かない。
この女の園で黒一点という肩身の狭い状況から仲間ができるというのは嬉しいことだが……仲良くできるのだろうか、というか根本的に今から来る人間は男なのだろうか……
そんなことを思いながらチラリと隣の席の金髪の少女――シャルロット・デュノアに視線をむける。
「ん? 何? 一夏?」
その視線に気づいたのかシャルが一夏に話しかけてきた。
「え? あ、いや……今日来るヤツ、どんなヤツかなぁって思ってさ……」
「ふふ、僕みたいに偽物なんじゃないかって?」
そんなシャルの答えに、
「い、いや! そういうわけじゃなくて――」
一夏は慌てて首を振る。
「あはは、ごめんごめん、自虐ネタってわけじゃないんだけどさ。でも、まぁ、疑っちゃうよね、実際」
そんなシャルの言葉に、
「ふん、まぁ、確かにあんなことがあったばかりだしな」
近くにいた眼帯に銀髪の少女――ラウラ・ボーデヴィッヒが空気を読まずに真剣な顔で頷いた。
「ちょっ、おい、ラウラ……」
一夏が慌ててラウラを止めようするのを、
「一夏、いいって、本当のことだし」
シャルが笑って制する。その顔にかつての暗さがないのを見て取ると一夏は、
「まぁ、なら、いいんだけどさ……」
そう言って動きを止める。
「えへへ、心配してくれてありがとう」
当のシャルはそんな一夏を見て嬉しそうに礼をいった。
「
そんな二人の会話に、逆の隣にいる鮮やかなブロンドの少女――セシリア・オルコットが割り込んできた。
「私は逆に、本日来る方は本当に男性なのだと確信しておりますわ」
「へぇ、なんで?」
そんなセシリアの言葉に一夏が聞き返すと、セシリアは待ってましたと言わんばかりに、自らの推論を披露する。
「それはもちろん、シャルロットさんの一件があったすぐあとだから、ということですわ」
「ほう……」
セシリアの言葉にラウラも反応する。
「最近は何かと事件が多いですが、このIS学園はもともと超重要施設です。生半可なコネや経歴でねじ込めるところではありません。そこに来てこの前の事件。流石に同じ過ちを二度連続で繰り返すほど学園側も馬鹿ではないでしょう。ですから、本日来る方は正真正銘の“二人目”なのではないか、と私は考えております」
そう言ってセシリアは胸の前で手を組むと、美しく通った顎をツンっと上に向かせて、どうだ、と言わんばかりに得意げな表情をする。生まれもあるからだろうか、その姿がなんとも様になっている。
「なるほどね……」
セシリアの推論に一夏が頷く。
筋は通っているし、実際その通りなのだろうと思う部分が多い。しかし、逆にIS学園より更にでかい権力や力、または技術みたいなものを持っている人間ならばねじ込むことも可能ということにもなる。
そんな人間は世界でも数える程しかいないのであろうが……
そんなことを思いながら一夏はチラリとポニーテールの幼馴染――篠ノ之箒を見る。
「……なんだ?」
視線に気づいた箒がギロリと一夏を睨みつける。
「な、なんでもねぇよ」
「ふんっ!」
そう言って箒はそっぽを向く。
すこぶる機嫌が悪そうだ。
おそらく自分と同じようなことを考えていたのだろう。
箒の姉である篠ノ之束ならあるいは――と。
そんな時――
「は~い、皆さんお待たせしました~、ホームルームを始めますよ~」
そう言いながら副担任の山田真耶が扉を開けながら入っていた。
「皆さんももう知っているとは思いますが、今日はこのクラスに新しい仲間が増えます。皆さん仲良くしてくださいね~」
そう言って真耶は満面の笑みを浮かべると、
「じゃあ、はいってきてくださ~い」
扉に向かってにこやかに声をかけた。
「はい」
そんな簡潔な返事と共に、一人の“少年”が扉を開けて入ってきた。
「――!」
その“少年”を見た瞬間、一夏の中に何か痺れるものが疾った。
―――――
扉を開けて“少年”がクラスへと入ってきた。
なんの気負いもないかのように進んで真耶の隣に来ると、席に座っている生徒たちの方を向く。
上背は180cm近くはありそうで、肩幅もしっかりと広い。胸も厚く一見して鍛えているであろうことが見て取れる。
それでも圧迫感ではなくてしなやかな印象を相手に与えるは、動きの軽やかさと、口元に浮かんでいる優しげな笑みによるものが大きいのではないだろうか。
面影は確かに自分たちと同じ年という印象もあるが、醸し出す雰囲気と落ち着きが歳上なのではないかという印象も抱かせた。そう言う意味では生徒会長・更織楯無に近い印象なのかもしれないが、彼女のような無邪気さがない分、楯無よりもさらに大人びた印象が強い。
そんな“少年”が口を開いた。
「初めまして。俺の名前は
簡潔かつ、無駄のない自己紹介のあと明次は小さく頭を下げる。
一瞬の静寂――その後。
きゃああああああああああああああああああああっ!!!!!
少女たちの歓声が轟いた。
そのソニックウェーブのような衝撃波に、明次が驚いたようにたじろぐ。
「きた! お兄さん系、きた!!」
「この受け答えに醸し出す大人っぽさ!!」
「趣味は!! 趣味は!!」
「この佇まい! これは間違いなく“タチ”!! 次の作品は明次×一夏、待ったなしね!!」
「壁ドン、一回2000円でオナシャス!!」
うら若き少女たちのパトスが迸る。
あーあ……
流石に3回目ということで学習したのだろう、歓声の瞬間、一夏はしっかりと両耳を手で押さえていた。
ま、そりゃ驚くよなぁ。
そんなことを思いながら明次に同情の視線を向ける。
向こうもこちらを見ていたのであろう、一夏と明次の視線が合った。
どくん――と、一夏のなかに何か得体の知れない感情が持ち上がってきた。
得体の知れない――というのも文字通り湧き上がってきた感情の正体がいまいちわからない。
敢えて言うなら――なつかしさ――なのだろうか。
箒や鈴と再会したときに感じたものと同じようなものを感じたような気がした。
かつて会ったことがある? だが顔も名前も覚えがない。
それに、なつかしさだけではなく、何かもっと根源的な何かが混ざっている気がしていた。
そんな、なにか説明のできない思いを抱えながら一夏は明次を見つめていた。
「あぁ……」
明次は一夏と視線が合った瞬間、目を伏せ片手で顔を隠し視線を塞いでいた。
このままだと我慢できなくなってしまう。
そう思ったからだ。
しかし――
「ダメだ……我慢できそうにないや……」
明次はそう小さく呟くと、トンッとおもむろに目の前の机に飛び乗った。
なんの勢いや助走もつけずに、ただ家の扉から一歩外に出るような自然さで、目の前の机の上に乗る。
その行動があまりに自然だったためか、自らの机に乗られた生徒も一瞬何が起きているのかわからないようにポカンと、明次を見上げていた。
教室のざわめきも明次の思わぬ行動に一斉に静まった。
「ちょ、ちょっと式部地くん!」
担任である真耶が我に返り明次に声をかける。
好奇や懐疑といった様々な視線が明次に集まる。
しかしそんな周りからの視線をものともせずに、明次はただ一夏を見つめていた。
「ねぇ、やろうよ」
明次の口からそんな言葉が不意に飛び出した。
大きな声ではない。しかし、その通る声はしっかりと教室中の人間の耳に届いていた。
友人を遊びに誘うかのようなそんな調子だ。
何を、とも、どう、とも言わない、簡潔な言葉。だが、その一言が誰に向けたものかは、周りの誰もがわかっていた。
そんな明次の視線の先――織斑一夏も明次を見つめていた。
明次が自分を見た時から――否、教室に入った時から一夏は何か目の前の少年に特別なものを感じている自分に気づいていた。
「いきなりで悪いとは思ってるんだけどさ……我慢できなかったんだ。やろうよ……一夏君」
机の上に立ったまま両手を広げて、更に明次が言葉を続ける。
名前を呼ばれた瞬間、一夏の中に溢れていた感情が一気に大きくなる。一つ一つがどんな理由で湧き上がってきたのかはわからない。ただ少なくても、
ざわり――と、興味が湧き上がり。
ぶるり――と、身体が反応した。
「いいよ」
気がついたときには、答えていた。
「一夏!」
「一夏さん!」
声をかけてきたのは箒とセシリアであろうか。だが、一夏はそんな彼女たちの言葉など一切耳に入っていないかのように、自らも机の上に飛び乗った。
「ありがとう。嬉しいよ」
明次は心底嬉しそうな笑みを浮かべて一夏に礼を言う。
何がはじめるのか、何をはじめるのか、明次は何も言っていない。
だが、一夏は何をするか感覚が理解していた。
そう認識した瞬間、心臓から今までよりも熱い血が全身に駆け巡った気がした。
二人は互いに机に乗って対峙した。
二人のあいだには一つだれもいない机がある。その机を挟むように一夏と明次は対峙している。
間合いは遠い。まだ互のいかなる箇所も相手には届かない。
だが、どちらかが目の前の机に飛び乗った瞬間に、間合いに入る。
足の間合い。机の端までくれば拳も届くだろう。
ざわついていた教室がいつの間にかしん、と、静まり返っていた。
他の生徒達は壁や窓の方へと移動している。
黒板の前には真耶がいるが、どう対処していいか分からずに立ちすくんでいる。
しかし、一夏はそんなことなど見向きもしないで目の前の明次に集中する。
明次はまだいかなる構えもとっていない。
ただ自然体で立っている。
踏み込めば簡単に懐に踏み込めそうで、それでいて、いとも簡単に逃しそうなそんな感覚が一夏を取り巻いている。
「ひゅうぅぅ……」
一夏は敢えて大きく息をして吐きながら心を整える。
頭に揺れないロウソクの火を思い浮かべて集中する。
左手を掌の形で前に出す。
すぅ、と、自然と腰が落ちた。
「いいねえ、一夏君。さっきまでと、全然違うよ……」
明次はそんな一夏の様子を見て唇を釣り上げる。
先程の柔和な笑とは違い、鋭い笑みが浮かんでいた。
「一夏」
「一夏さん」
「一夏」
「一夏」
箒、セシリア、シャル、ラウラがそれぞれ心配そうに一夏を見ている。
教室全体の空気が、ぴりっぴりっ、と張り詰めていく。
一夏も明次も動かない。
先に動いたほうが不利なのは両者ともわかっていた。
故に相手を睨みつけたまま、動かない。
そんな時、
「そうだよなぁ、一夏君からは仕掛けてこないよなぁ……」
そう言って、明次が頭をかいた。
「まぁ、俺から誘ったことだし……俺から行くのが筋だよね……」
声がだんだんと、細くなっていった。
「じゃあ――いくよ」
そして、つぅ、と明次が前に出た瞬間、
「くっ!」
一夏は自分の顔面めがけて飛んでくる何かの気配を察して首を振る。
一夏の頬の横を明次の机の上に置いてあったであろう筆箱が、ものすごい勢いで通り抜けていった。
「さぁ、はじめよう」
明次の声が先ほどより近いところから聞こえた。
明次は足元の筆箱を一夏に蹴り上げると同時に、目の前の机に飛び乗っていた。
間合いがかち合った。
「しゃっ!!」
「つぁっ!!」
明次の拳と一夏の掌が交わされる。
二人の邂逅がここに始まった。
一応、一夏もこの作品では頑張っていただこうかなと思ってます。
あと、一夏の席が最前列だってのも分かってましたが、この時はど真ん中の席になってます。
お付き合い頂きまして、ありがとうございます。