IS インフィニット・ストラトス ~胡蝶の夢~   作:おおがみしょーい

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 気がついたら一ヶ月経っていた……
 すんませんです。


第五話 勝負

「でりゃぁっ!!」

 

 箒は『葵』を休むことなく振り続ける。

 力の限り、技の限りを刃に込めて明次の打鉄へと『葵』を振るう。

 

 この男は姉である束の息がかかっている人間ではないのか――

 で、あるなら、何が目的でこの学園に来たのか――

 時折みせる、一夏へのなにか含んだような視線の意味はなにか――

 姉と関係があるならば、それも束の指示なのか――

 それとも、この男と一夏の間には自分の知らない“何か”があるのだろうか――

 また、“自分の知らない一夏”が増えていってしまうのだろうか――

 

 この試合が始まる前には数々の想いが箒の中に渦巻いていた。

 それが今は、綺麗に頭の中から消えている。

 否――正確には、消えている、というわけではない。

 頭の中には確実に様々な感情がひしめいている。

 考えようと思えばすぐさま、先程のような疑念や疑惑、嫌疑や嫉妬のようなものまで箒の頭は支配されてしまうだろう。

 しかし、今は、それ以上に目の前のこの男に一泡吹かせてやりたいという思いが全身を支配している。

 

 一太刀、一太刀に力を込める、意志を込める、技を込める、気魂を込める。

 様々な、しがらみや雑念や環境によって、ついぞ出来ていなかった『純粋に闘う事にのめり込む』ということが今、出来ている。

 

 ――なるほど。

 

 と、箒は一人納得していた。

 

 一夏もこんな気持ちで、朝、この男との試合を受けたのかもしれない。

 なんとも不思議な男だ。

 この男を前にすると、なぜだか心が熱くなる。

 心の中に火が(とも)る。

 試してみたい、挑んでみたいと、思わせる。

 口元に浮かんでいる、あるかなしかの笑みがそうさせているのだろうか……

 しかし、そんな瑣末な事はどうでもいい。

 今、こうして動いている自身の身体が喜びえを訴えかけている。

 

 ふふん――なるほど、そういうふうに動くのか。

 

 箒は冷めつつある頭で、明次の動きを見極めていく。

 

 明次は回避行動をする際に、小さな円をいくつも描くようにその身を回転させながら動く事で、ISを動かすには手狭なこのアリーナを無限の荒野さながらの空間に変えているのだ。

 軸をブラさずに、左右の足に等分の体重を預けながら、常に右にも左にも動けるように、スライサーの出力も極めて抑え気味に調整しているのだろう。

 同じクラスのメンバーの中では、シャルロットがこの手の距離の取り方は抜群にうまいのだが、この男も恐らく引けは取るまい。この手の相手は箒が非常に不得手としているタイプだ。

 ただ、シャルロットの場合上下の距離の取り方で、今の明次の場合は横の空間の使い方だ。どちらが上という訳ではないが、自らの射程距離に目標があるという意味では、箒にとっては明次の方がまだ組みしやすい。

 そんな事を考えられるのも、現在、戦いの中だというのに頭が冷えているからであろう。

 箒自身、自らが熱しやすい性格である事を認識している。

 それもこれも、自身の未熟さ故だという事は分かっているが、なかなか修正する事が出来ない。

 故に忍耐力を必要とするシャルロットのような相手だと、機体相性以上に相手として相性が悪い。

 しかし、今、思考をしながらの戦闘が出来ている。

 それは、目の前の男が“箒の心の支え”である、『武』の土俵に上がってきたからなのだろう。

 ここで負けるはずがない、負けるわけにはいかない、という自信と想いが箒の頭と身体を十全以上に鋭くしている。

 

 ――それに、ここまでのやり取りで解った事もある。

 

「でりゃぁっ!!」

「おっと」

 

 先ほどよりも、半歩、そして半拍はやく振るった箒の一撃を、遂に明次は自らの『葵』を持ち上げて受け止めた。

 

「――捕えたぞ」

 

 そう言って、箒がギラリと瞳を光らせる。

 

「――怖いなぁ」

 

 明次がその視線を受け止めながら、小さく呟く。

 

「ぬかせっ!!」

 

 箒はそこから連続して斬撃を叩き込む。

 明次はそれらの斬撃を今度は『葵』で受け止めながら、動こうとするが、箒がそれを許さない。

 

「もう逃がさん!! 喰らいつくっ!!」

 

 箒は先ほどより一段と鋭く打鉄を前に踏み出しながら、斬撃を打ちすえる。

 

 明次の動きを見ていて解った事は、動き方以外にもあった。

 

 一つは間合い。

 明次は接近して、『葵』の間合いにいると見せかけて、実はぎりぎり『葵』の届かない位置をとり続けていたのだ。もちろん常にそこにいてはバレてしまう。それを、明次は最小限の動きで間合いを出入りする事で、常に箒に『葵』が届くと見せかけていたのだ。

 

 そしてもう一つ。

 それは、剣の技量。

 見事な体捌きに隠れているが、明次は剣に関してはそこまで精通していない。と、思われる。

 もちろん、体術に関しては練達の域なのだろうが、剣の動かし方がまるでそこについていってない。

 戦う事においての基本中の基本である、“相手を見切り、身体を動かす”という部分を見事にISでこなしていた為になかなか見抜けなかったが、事、剣を使う事においては自らに分があることを箒は見抜いていた。

 

「この――タヌキが……」

 

 鍔迫り合いを演じながら、箒が明次を睨みつける。

 

「ふふ――なんのことかなぁ……」

 

 自らの間合いから離れ、箒の間合いに持ち込まれてなお、迫り来る箒の刃を受け止めながらも、明次の口元には薄い微笑が浮かんでいた。

 余裕なのか、それとも痩せ我慢なのか……

 

 しかし、そんなことは箒にとってどうでもよかった。

 

 何か奥の手があるならば、見せればいい。

 余力を残しているのならば、出せばいい。

 自分のやることは変わらない。

 ただひたすらに、今あるありったけを目の前の男に叩きつける。

 勝つとか、負けるとか、これまであれほど執着していた結果にさえも、今は興味がない。

“目的のために過程を問わない”のではない“過程の為に結果を問わない”勝負ができている今が楽しくて仕方がない。

 

「その薄笑い――かき消してくれるっ!!」

 

 鍔迫り合いの中、拮抗している状態で箒は裂帛を轟かせながら、『葵』を打ち払い、距離をとったと思うと、すぐさま打鉄のPICと補助動力を全開にして一気に明次の打鉄に襲い掛かる。

 

「ちょっ!」

 

 予想以上の踏み込みに、この試合の中で初めて明次の顔色が変わる。

 

「もらったぁっ!!」

 

 箒が気合を響かせ『葵』を振りかぶる。

 

 篠ノ之流古武術の裏奥義――『零拍子』。

 相手の一拍目の前に強引に自らの拍子重ねることで出鼻をくじく力技。

 それを箒は打鉄で使ってみせた。

 

「くぅっ――」

 

 明次はかろうじて『葵』を持ち上げ箒の刀を受け止めるが、相手の斬撃は渾身の一擊。受け止めただけの明次の『葵』は弾かれるか、押し込まれるか、どちらにしてもこのままならば、箒の刃は明次に届く。

 

「もらうっ!!」

 

 箒がさらに、踏み出そうとしたとき、

 

 ――ふっ、

 

 と、箒の刃に抵抗していた力が消失した。

 

「なっ!」

 

 箒が目を見開く。

 明次は箒の一撃が受け止められないと悟ると、機体をずらし、受け止めた『葵』ごと外に打ち捨てることで、箒の渾身の一撃を受け流していた。

 

 最初のやり取りの時のように、力の行き場を外されて体勢が崩れる箒。

 

 しかし――

 

 ――奴は『葵』を投げ捨てた。この距離で使える武器はない!!

 

 そう考え、箒が機体の体勢を立て直そうとしたとき、

 

「武器――ありますよ、ここに」

 

 明次の声が、すぐ近くで聞こえた。

 

「なにっ?」

 

 箒がそちらに視線を向けると、そこには、一瞬の隙を逃さず箒の懐に飛び込んできた明次の打鉄が見える。

 武器は――もっていない。

 しかし、その打鉄の右手は、きつく拳に握られていた。

 

 ――だんっ!

 

 と、力強く地面を叩く音がした。

 

(せあ)っ!!」

 

 この試合で初めて、明次が裂帛を轟かせた。

 

 打鉄の鉄の拳が、箒の打鉄を穿とうとした瞬間、

 

 ――ビーーーーーーーッ!!

 

『そこまでだっ!! 二人ともっ!!』

 

 試合終了のブザーとともに、千冬の声が大音量でアリーナに響き渡った。

 

 明次の拳は、箒の打鉄にぶつかる直前で、ピタリと止まっていた。

 

 ――双方ともに決定打なし、シールド残量はほぼMAX。

 

 結果――引き分け。

 

 上記が試合結果となった。

 

 明次と箒は互いに開始位置に戻りISを降りる。

 

「――っつ」

 

 地面に降りた瞬間は、箒は目眩を感じて、ぐらりと体勢を崩してしまう。

 なんとか踏みとどまったが、意識してみるとだいぶ息が荒い。心臓もかなりの速さで鼓動しているのがわかる。

 ふらつく頭を抑えながらなんとか顔を上げると、向こうにはしっかりと2本足で立っている明次の姿が見える。

 

 結果は引き分け。

 

 しかし、この試合は完全に自分の負けだ。

 

 最後の拳がどの程度、打鉄にダメージを与えられたのかはともかくとして、試合終了時の今の状態を比べても引き分けたなど、恥ずかしくて自分からは言えるはずもない。

 

 そんな時――

 

「よお、すごかったじゃん」

 

 タオルと一緒に一夏の声がふってきた。

 タオルを目元からどかしながら声の方を向くと、一夏が片手にミネラルウォーターのペットボトルを持って立っていた。

 

「最近全然見なかったけど、やっぱすげぇな、箒の剣捌き」

 

 一夏はそんな賞賛の言葉とともに箒にペットボトルを差し出す。

 

「ふんっ――それは嫌味か? 相手に当たらなければ意味がない……まだまだだ……」

 

 差し出されたペットボトルを怒ったようにひったくると、一夏から顔を背けながらペットボトルの口を開ける。

 

「んなことねぇよ、最後のやつとか『零拍子』だろ? 瞬間(イグニッション)加速(ブースト)じゃなくても、あんな感じでIS動かせば色々出来るんだな」

「そ、そうか……ふ、ふん、それはお前の精進が足りんからだ……本気を出せばお前だって……」

 

 一夏に素直に褒められて、頬を染めながらもごもごと口ごもる箒。その為、最後の方の言葉などは、呟きにすらなっていない。

 

「ん? なんだって?」

「な、なんでもない! お前は精進が足りんといったのだっ!!」

 

 箒は聞き変えされて、恥ずかしさのあまり声を荒らげる。

 

「いや、そりゃ、まぁ、そうだけどさ――じゃあ、今度また稽古つけてくれよ。更織会長とのトレーニングで剣道の方はあんまりやんないからさ」

「なに?! そ、そうか、一夏がそういうなら仕方がないなぁ……ならば、放課後、と、特別に稽古をするか……そ、その……ふ、二人で……」

「おお、頼むぜ。放課後、道場でいいか?」

「う、うむ――」

 

 顔を真っ赤に染めた箒とは対照的に、満面の笑みで一夏は箒に礼を言う。

 純粋に箒と稽古をすることが嬉しいようだ。そこに(よこしま)な思考などない。

 しかし、ないことが一夏の周りにいる女性陣たちをやきもきさせている原因なのだが……そこが、一夏の魅力といえばそうなのかもしれない。

 

『篠ノ之! いつまでつっ立っている、次がつかえているんだ打鉄をさっさとどかせ! 織斑! 貴様はさっさと位置につけ! オルコットは既に位置に付いているぞ!』

 

 そんな中で、千冬の怒声が響いた。

 

「おっと、やべぇ。じゃあな、箒。放課後に」

「あ、ああ――」

 

 一夏は軽く片手を上げると、アリーナの中央に向かって小走りに向かっていった。

 対面には蒼く美しいIS・ブルー・ティアーズをまとったセシリアが佇んでいる。次の対戦はセシリアと一夏なのだろう。

 箒もISに再び乗り込み、打鉄をアリーナの出入り口の方へと移動させる。

 顔を上げると、反対側の出入り口に打鉄をおいた明次を目が合う。

 明次は顔に笑みを浮かべると、箒に向かってヒラヒラと片手を小さく振ってきた。

 

「――ふんっ!」

 

 そんな明次の挨拶に箒はそっぽを向くことで答える。

 

 勝てなかった――と、箒自身は思っているし。見る人間が見れば先ほどの試合が引き分けではないことなど一目瞭然だろう。

 しかし、なぜだろうか、不思議と悔しくない。

 否、悔しくないということはない。負けたのだ、悔しいに決まっている。

 しかし、いつもならば相手に向うはずの怒りが、今回は自らの不甲斐なさへと向かっている。

 

 おそらくそれは真正面から叩き潰されたからなのだろう。

 

 ISは単に力のぶつかり合いではない。

 各ISの特性も違えば、性能も違う。パイロットの得意分野も違えば、武器も違う。

 その中で、戦略、戦術、駆け引きを幾重にも張り巡らせて戦うのがISにおける試合だ。

 従って、ただ単純に性能がいい、強い、というだけでは勝てない事も往々にしてある。

 

 故に、負けた言い訳も探そうと思えば星の数ほど見つけることができる。

 

 相手のISの世代が上だから……

 武器の相性が悪い……

 あんな卑怯なトラップをしかけていたなんて……

 接近戦に持込さえすれば勝てたのに……

 等等……

 

 しかし、今回に関してはそんな言い訳の余地がないくらいにあしらわれた。

 同じISで、自らの得意な距離で、自らの得意な武器で、相手を捕らえられなかった。

 無意識のうちに逃げていた逃げ道が完全に塞がれてしまった。

 しかし、だからこそ、自分を見つめ直すことができた。

 鍛えなおそうと本気で思うことができた。

 

 もしかしたらあの男、それを気づかせるために自分と……

 

「まさかな……」

 

 箒は自らの頭に浮かんだ考えを振り払う。

 そんなことをして、あの男になんのメリットがあるというのだ。

 しかし、もしあの男が束を関係があるならば……

 

 そこまで考えて、箒は頭を振って思考を打ち切る。

 その事については、またの機会に問い詰めればいい。

 その前に自分にはやることができた。

 自らを見つめ直し、鍛えなして、あの男――式部地明次を倒す。

 その時、何かあるのならば男の口から洗いざらい喋ってもらえばいい。

 

「首を洗って待っていろ……」

 

 箒は一人、決意を新たにしながらアリーナの通路を歩いて行った。

 

 不思議と悪い気分では、なかった。

 

 

―――――

 

 

 ヒラヒラと手を振って挨拶をしたが、盛大にそっぽを向かれた明次は小さく苦笑いを浮かべる。

 

「いやー、嫌われちゃったかなぁ」

 

 そんなことを呟きながら、振っていた手をバツが悪そうに下げる。

 

「でも、まぁ、束さんの頼まれごと、一つはクリア出来てるといいんだけど……」

 

 再び、小さく、小さく呟きながら明次は箒が消えていったアリーナの出入口を見つめる。そして、自らをここに送り込んだ束のことを思い出す。

 

 

―――――

 

 

『ねぇねぇ、あっちゃん、あっちゃん』

『なんですか? 束さん』

『契約内容の中の一つとしてやってもらいたい事なんだけどさ、一つ具体的なミッション頼んでいいかな?』

『いいも、悪いも、契約の中なら俺はやらなきゃいけないじゃないですか』

 

 そう言って苦笑する明次に、ニハハを明るく笑って束は答える。

 

『まぁ、そうなんだけどさ。動きを見ている君ならできるかなと思ってね』

『それで、そのミッションというのは?』

『うんうん、それはね……箒ちゃんの目を覚まさせて欲しいのさ』

『……妹さんの?』

『箒ちゃん、昔は凄かったんだよ~。何でもかんでも、がーーってやって、ばーーって倒しちゃったんだから!』

『はぁ……』

『でもね~、なんか、最近いろいろ考えちゃってるみたいで、伸び悩んでるんだよねぇ。むしろ昔の方が強かったんじゃないかなぁ。そんな箒ちゃんを私は姉としてほうってはおけないのだ!!』

 

 そう言って束は豊かすぎる胸をググッとそらす。

 

『でもねぇ、『紅椿』完成前に私が出向くわけにもいかないし、てか、ちーちゃんいるからうかつに近づけないし。何回も無人機使うわけにもいかないしねぇ。そんなわけであっちゃんに、箒ちゃんの覚醒イベントを演出してもらいたいんだよ』

『えーっと、妹さんが壁にぶつかってるんでそれを越えさせろって事ですか?』

『そそ、ざっくりいうとそんな感じ。でも指導とかしちゃダメだよ? あくまで自然にアー、ユー、オーライ?』

『なるほど……俺が一夏にしようとしていることを、箒さんへも何気なくしろって感じですかね?』

『まぁ、そんなとこかな……でもさ……潰しちゃ、ダメだよ』

 

 束はそう言いながら明次の目を覗き込む。口元は笑っているが、覗き込んだ瞳の奥はまるで笑ってはいない。なにかとてつもないものが、その瞳の中から這い出してきそうな、そんな束の瞳だった。

 

『箒ちゃんは大事な大事な私のたったひとりの妹。箒ちゃんを潰したりなんかしたら……私、怒っちゃうからね?』

 

 そろり、そろり、と何かを確認するように束が明次に語りかける。

 

『心得ておきます……』

 

 束の威圧感のために、カラカラに乾いてしまっている喉に生唾を飲み込ませ、かろうじて明次は答える。

 

『よし! じゃあ、たのんだよ~~!!』

 

 明次の返答を聞くと、束はニパッ! と顔を崩して、明次の背中をバンバンと叩く。

 そこに先ほどのゾクリとするような怖いものは、潜んでいない。

 

 しかし、明次はその時感じた束の威圧感を、忘れることは出来そうになかった。

 

 

―――――

 

 

「ふぅ……」

 かつてのやりとりを思い出し、明次が安堵のため息を漏らす。

 

 箒のあの様子なら、潰れているということはないだろう。一夏が直ぐに声をかけたのも、よかったのかもしれない。

 箒がどんな思惑で自分を対戦相手に指名したかはわからないが、降って湧いたチャンスをなんとか活かすことができたようだ。

 

「ふーー……」

 

 再度、明次は大きく息を吐き出すと続く試合を観戦せする為上に上がろうとする。

 そこに、

 

「あんた、結構いい動きしてたじゃない」

 

 やや挑戦的な声がかけられた。

 

「ん? 君は……」

 

 そこには綺麗な茶色い髪をツインテールに結んだ小柄な少女が腕を組んで立っている。

 

「私は二組の凰鈴音。もちろん知ってるわよね?」

「もちろん、同じ学年の専用機持ちの顔と名前くらいは頭に入ってるさ。中国代表の凰さん」

「ふふん――まぁ、当然よね」

 

 鈴は明次の答えに満足したのか、得意げに顔を上げて薄い胸をそらす。

 

「で? 中国代表さんが転校生になんの用だい?」

「別に――ただ目に入ったから声かけてあげただけ。挨拶よ、挨拶。まぁ、なかなかいい動きしてたしね」

「代表候補生にそう言ってもらえるなんて光栄だね」

 

 明次は鈴の言葉に、おどけた様に肩をすくめる。

 

「でも! 勘違いしないことね。あんな試合、箒くらいにしか通じないんだから!」

 

 鈴はそう言うと、ビシッ、という音が聞こえてきそうな勢いで、明次に人差し指を向ける。

 

「噂じゃ、あんたも専用機持ち出そうじゃない。どんな機体かしらないけど、せいぜい頑張んなさい。気が向いたら相手してあげるわ。じゃあね!」

 

 鈴は言うだけ言うと、軽やかに身を翻してアリーナの方へとかけて行った。

 もしかしたら、次は彼女の出番なのかもしれない。

 あとには、明次一人が残された。

 

「あれは……宣戦布告なのかな? 警告、かな? それとも挑発、かな?」

 

 通路に取り残された明次は小さく首をひねる。

 どの可能性もあるだろう。

 ここにいる生徒たちは言ってしまえば全員がライバルであるし、その中でも専用機持ちは特別な存在だ。専用機関連の情報は各国が喉から手が出るほどに欲しがっている。

 不意に出てきた専用機持ちを警戒して、今のうちから釘を刺したり、いち早く情報を得るために対戦相手として名乗りを上げる布石をうつなど、あって当たり前だろう。

 

「ふふ……いいね、とてもいい……」

 

 明次はそんな現状を再確認して、笑を浮かべる。

 自分の最大の目的は“織斑一夏”だ。そして、“篠ノ之箒”である。

 しかし、この学園はそれ以上に、楽しそうだ。

 

 だから、

 

「なぁ、早く俺と一緒に“舞おう”よ――」

 

 明次は未だ休眠している、ともにここに来た相棒――ISに思いを馳せる。

 

「なぁ――“藤袴(ふじばかま)”」

 

 そして、自らの愛機の名前を語りかけるように小さく、呟いた。

 

 




 忙しかったです。
 でも、前作でも一ヶ月はなかったなぁ……

 次はもうちょっと早く更新できるようにします。

 お付き合い頂きまして、ありがとうございます。
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