IS インフィニット・ストラトス ~胡蝶の夢~   作:おおがみしょーい

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第六話 藤袴

 授業は終盤、現在は一般の生徒達が『打鉄』、『リヴァイヴ』を使って模擬戦に挑んでいる。

 

「あーー、もう少しだったと思うんだけどなぁ」

 

 そんな授業の行われているアリーナを上から見下ろせる観客席で、一夏の声が響く。

 

 一夏とセシリアとの模擬戦はビットと《スターライトmkⅢ》を使い終始一夏の白式を翻弄していたセシリアだったが、一瞬の隙を突かれ《雪片弐型》の一擊を喰らってしまう。

 しかし、そこから体勢を立て直したセシリアの《スターライトmkⅢ》の一撃を、トドメを指すべく瞬間(イグニッション)加速(ブースト)で距離を詰めていた一夏は至近距離でくらってしまい、一夏の逆転負けとなってしまったのだ。

 

「何をおっしゃっているのかしら、一夏さん。このセシリア・オルコット、そう簡単に遅れは取りませんわ」

 

 そんな一夏の言葉に形の良い顎をツンと、そらして隣にいたセシリアが得意げに答える。

 

「な~にいってんだか。最後の苦し紛れの弾が当たんなきゃ、一夏の勝ちだったじゃない」

 

 それを見ていた鈴が意地悪そうに、セシリアに視線を向ける。

 

「な! 何をおっしゃっているのかしら?! 鈴さん!!」

「まぁ、苦し紛れの一撃だったのは確かだが……あの場合、あれに当った嫁が悪い」

「ちょっ、ちょっと……ラウラ……」

「ラ、ラウラさんまで……いいですわ! そこまで言われて引き下がるわけにはいきません! お二人共、私の『ブルーティアーズ』で御相手いたしますわ!」

 

 セシリアが怒りに任せて立ち上がったとき、

 

「おい! オルコット、うるさいぞ! ちゃんと座って観ていろ! 観戦もちゃんとした授業の一環だ!!」

 

 千冬の声が響き、セシリアはすごすごと座る。

 

「セシリア落ち着いて、ね」

 

 頬を膨らましながら座るセシリアをシャルロットが宥める。

 

「まぁ、あの一撃が苦し紛れかどうかはともかく……弾自体を喰らったのはラウラの言うとおり一夏が悪い。瞬間(イグニッション)加速(ブースト)に頼りすぎだ」

「んー、やっぱそうなのかぁー。シャルもそう思う?」

 

 箒の言葉に一夏が再び頭を抱えて、まだ意見を言っていないシャルロットに意見を求める。

 

「え? あ? う~ん……まぁ、ああいうのは“ここぞ”って時に使わないとね……」

「うーん、そうかぁ……でも俺の『白式』は距離詰めないと話になんないからなぁ、明次はどう思う?」

 

 シャルロットの言葉に、腕を組んで考え込んだ一夏は、最後にアリーナで行われているIS同士の模擬戦を見つめている明次に聞いてきた。

 

「ん? んー、そうだなぁ」

 

 一夏の言葉に振り返った明次は少し考えるような仕草を見せると、

 

「距離を征するのは戦いの基本。そう言う意味では射程距離が短いってだけで不利なのは確かなんだろうけど……逆に言えば、それ自体は昔から言われていることだから打開策はそれこそ山のようにあるはずだよ」

「おお、たとえば?」

「それは篠ノ之さんの道場や、更織さんに教えてもらってるんじゃないのかな? ISの戦いだって、最終的には人対人なわけだから一夏の持っている“武”の心得の中に答えはあると思うけどね」

「ふんふん……」

「例えば、相手の虚を突く。緩急をつける。肉を切らせて骨を断つ。手法は違うかもしれないけど、本質は変わらない。強引にでもこちらの土俵に持ち込むために、常に考えながら動かなきゃいけないと思うよ、特に出来ることが限られている『白式』のようなピーキーな機体はさ」

「んー……なるほどなぁ」

 

 明次の言葉に、一夏が頷いていると、

 

「安心しろ、その辺は放課後、私が教えてやる。その……まぁ……ふ、二人の時に……」

 

 箒が一夏から目をそらしながら言ってきた。後半部は小さく聞き取りづらかったが、一夏以外はその言葉をはっきりと聞いていた。

 

「ちょ、ちょっと! 箒さん、それはどういうことかしら?!」

「そうよ! 聞き捨てならないわね!」

「貴様――私の嫁と放課後逢引など……いい度胸だな……」

「……それ、ほんと?」

 

 セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットがそれぞれ箒に詰め寄る。

 

「ふ、ふん! これは一夏から言われたことだ! 私が一夏から求められて行うのだ」

 

 そんな友人たちの言葉に“求められて”を強調しながら、箒が答える。

 

「「「「 なっ!! 」」」」

「ふっ……」

 

 その言葉に愕然とする、四人。

 勝ち誇る箒。

 次の瞬間、矛先は当事者である一夏に向かう、

 

「一体、これはどういうことですか?! 一夏さん!!」

「こんの……裏切り者!!」

「貴様……貴様は私の嫁であるという自覚があるのか!!」

「……一夏のえっち……」

 

 四人にいきなり詰め寄られ、たじろぐ一夏。

 

「い、いや、久しぶりに箒に剣の稽古をつけてもらおうかなと思っただけで……あ、そうだ、良ければ明次も一緒にやろうぜ。あの体捌き、もっかい見せてくれよ」

「え? 俺?」

「ちょ! おっ、おい!! ふ、ふたりっきりと言ったじゃないか! 話が違うぞ、一夏!!」

 

 一夏の一言に蚊帳の外にいたはずの明次も喧騒に巻き込まれてしまう。箒も加わって、もはや収拾がつかなくなりそうになったその時、

 

「式部地く~~ん」

 

 明次を呼ぶ、優しげな声が響く。

 

「は、はい!!」

 

 渡りに船と、明次がその声に勢いよく答えて立ち上がると、

 

「ああ、そこにいらっしゃいましたか。終わりましたよ~」

 

 そこには山田真耶が大きく手を振りながら、明次を呼んでいた。

 真耶は明次の存在を確認すると、明次たちの元へとやって来る。

 

「えっと、終わったって……なんでしたっけ?」

「何言ってるんですか~、『最適化(フィッティング)』ですよ『最適化(フィッティング)』。式部地くんの専用ISの『最適化(フィッティング)』が終わったんですよ」

「ああ! 終わったんですね」

 

 ――専用IS。

 その言葉にやいのやいのと言い合っていた一夏を含めた六人もピタリと騒ぎを止める。

 

「で、俺の『藤袴(ふじばかま)』は何処に……」

「あ、今お渡しいたしますね。はいどうぞ」

 

 そう言って、真耶は紫色の小さく、しかし美しく輝く宝石がついた綺麗な指輪を明次に手渡してきた。

 

「え? あ? これ?」

 

 なんの事か分からず明次が指輪を手のひらに乗せて「?」マークを頭の上に浮かべていると、

 

「ああ、ご説明が遅くなってごめんなさい。専用のISは『最適化(フィッティング)』が終わると、そのIS各々の形状に姿を変えて操縦者と常に共にいることができるようになるんです。例えば、一夏くんの白式はブレスレット、セシリアさんのブルーティアーズはイヤーカフスですね……そして明次くんの指輪って事です」

「なるほど……」

 

 真耶の説明を聞きながら、明次は指輪がどの指に合うか一つ一つ確かめていく、そして――

 

「ここが一番しっくりくるんだけど――う~ん……」

 

 明次は指輪の形状が一番合った指を見つけ、指輪をはめた手のひらを眺めてなんとも微妙な顔をする。

 それを見ながら真耶はおかしそうにクスクスと笑う。

 

「ふふふ――もしかしたらそのISは、式部地くんのパートナーを自称しているのかもしれませんね。だからそこに収まりたい形になったんですよ、きっと」

「う~ん……でも、結婚もしてないのにここに指輪って……」

「ふふふ」

 

 そう言ってなんとも困った顔をする明次を真耶はおかしそうに見つめている。

 左手の薬指。

 パートナーに永遠の誓いを約束するリングを付けるその指に、明次の専用IS『藤袴』はしっかりと収まっていた。

 そんな時、

 

「騒がしいと思ってきてみたが……式部地のISの『最適化(フィッティング)』が終わったか――山田先生、お疲れ様です」

 

 いつの間にか近づいてきていた千冬から、声がかけられた。

 

「……で、どうする? 式部地」

「え? どうする……とは?」

「そろそろ、授業は終わるが……まだ多少の時間はある。折角、山田先生が時間内に持ってきてくれたんだ。お前のIS、搭乗してみるか?」

 

 そんな千冬の言葉に、

 

「あ、そうですね――じゃあ……」

 

 明次が答えようとしたとき、

 

「ちょおっと、待ったーーっ!!」

 

 別の場所から元気な声が上がった。

 その声の方に明次と千冬が振り返ると、そこには椅子から立ち上がっている鈴がいた。

 

「千冬さ……織斑先生。折角、未知の専用ISの初御披露目が装着だけっていうのはもったいなくないですか?」

 

 そう言って、鈴は何かを伝えるように千冬の目を覗き込む。

 

「ほう……凰……では、何をすればいいと?」

 

 千冬はその言葉を受けて、胸の前で腕を組み鈴に聞き返す。

 その言葉を聞いた鈴は、待ってましたとばかりに、薄い胸をはり、

 

「あたしの『甲龍』と、模擬戦――なんてどうですか?」

 

 にやり、と笑った。

 

「くっ! 貴様っ! 抜けがけだ!」

「そうですわ! 専用機でしたら、私も、一夏さんも、ラウラさんも、シャルロットさんもいらっしゃいますわ! 鈴さんになる必然性が見当たりません!」

 

 鈴の提案に、ラウラとセシリアが喰ってかかる。

 それもそうだろう。

 いままで日の目を見たことのない、未知の専用機。その情報はどの国であっても喉から手が出るほどに欲しい。

 

 何世代の機体なのか。

 新技術が使われているのか。

 武装は?

 出力は?

 用途は?

 

 それこそ、山のように取得するべき情報がある。

 そして、外から見るだけよりも、実際に戦って得られる“生”の情報は何倍も価値があるというのは自明の理だろう。

 さらに言うなら、この学園にいる限り幾度となく試合をすることになる専用機持ちと、いち早く戦うというのは、それだけでもかなりのアドバンテージになる。

 故にラウラとセシリアは抗議の声を上げているのだが……上げているのはこの二人だけだ。

 専用機を持っておらず、先ほど明次と戦った箒と、その辺りの機微をまるで理解していない一夏はまだしも、シャルロットも声を上げていない。

 それに気づいたセシリアが、

 

「シャルロットさんも何かありませんの?」

 

 シャルロットに話をふるが、

 

「え? う~ん、ちょっとこの流れじゃ無理かなぁって……というか、してやられたなぁ、みたいな……」

 

 微妙な表情を浮かべて頬をポリポリとかく。

 

「ふっふ~ん、流石にシャルロットはわかってるみたいね」

「ぬ……どういうことだ」

 

 そんな鈴の言葉に、ラウラが眉をひそめる。

 

「一夏とセシリア、そしてラウラとシャルロットはお互いに対戦して全員ISにそれなりにダメージを受けている。その点、あたしの『甲龍』は一般生徒の『打鉄』と戦ったから、全くの無傷! なら、皆のISの状態を考慮してあたしがやるのが筋ってもんじゃない? まさか、折角の専用機の初戦闘を訓練用のISでってのも芸がないしね」

 

 そう言って鈴は得意げにふふん、と笑う。

 

「むう……」

「ぐぬぬ……そうか、だから貴様、私との戦いを逃げたのだな」

「戦略的撤退、と言って欲しいわね」

 

 セシリアとラウラは黙って鈴を睨みつけるが、これは完全に鈴の読みがちであろう。

 

「ふん、決まったな――あとは、式部地。貴様の返答しだいだが……どうする、凰の申し出、受けるか?」

 

 この一連をまとめるように、千冬が明次を見る。

 

「――喜んで」

 

 そんな千冬の視線を、明次が口元にあるかなしかの笑みを浮かべて受け止めた。

 

「よし! では、凰! 式部地! すぐにアリーナに降りて準備しろ! この試合が終わったらはじめるぞ!!」

「はい!」

「了解です」

 

 千冬の言葉に鈴と明次が直立不動で答え、互いにアリーナの出口へと向かっていった。

 

 

―――――

 

 

 アリーナの中央、明次と鈴が対峙をしている。

 明次は未だISスーツ、鈴は既に『甲龍』を装着している。

 

『式部地。まずは待機状態のISを装着してみろ、お前が装着することで最終的な『最適化(フィッティング)』が完了し、そのIS本来の姿である『一時移行(ファーストシフト)』後の機体が現れる。装着時のコツなどは特にない、他の操者もそれぞれのやり方をしている、とにかくISに『語りかけて』みろ』

「了解です」

 

 アリーナのスピーカーから聞こえてくる千冬の声に明次は小さく頷いて目を閉じる。

 すぅ――と、息をして心を落ち着け、頭の中で左の薬指にいる相棒に声をかける

 

(――じゃあ、いってみようか)

 

 そんな明次の心の声に、

 

 ――はい。

 

 ごく小さくだが、了解の意が流れ込んできた。

 刹那、左の手から光が溢れたかと思うとその光の粒子は一気に明次を包み込む。

 そしてその光は明次に引かれるようにとどまると、次の瞬間、ISの本体として形成された。

 

『展開時間、1.5秒。まぁ、初めてとしては上出来じゃないか』

「あれが、明次のIS……」

 

 千冬の言葉に一夏が呟く。

 二つのクラスの生徒全員の視線が集まる中、明次のISは顕現した。

 

 『藤袴』の名前のとおり、全体のカラーリングは淡い藤紫(ふじむらさき)

 両肩のスライサーは細く鋭利な形状をしていて、全体的にシャープな印象だ。

 特徴は腰から足を覆う袴のような部分に付けられている何個ものそれこそ藤袴の蕾のようなものの存在だろうか。

 

「あれは……もしかして、ビット?」

 

 その存在を目ざとく見つけたセシリアが小さく呟いた。

 

 装着が完了した明次はゆっくりと目を開く。

 視界が広い。

 体がかるい。

 視覚や聴覚だけではない全ての感覚が研ぎ澄まされたように感じる。

 空気中に存在する酸素の味や匂いすら感じられそうなだ。

 そんな感覚の拡大と同時に、全身を包み込まれるような、抱きしめられるような、そんな感覚を感じた。

 

 ――大丈夫?

 

 声というにはか細くて、しかし、確実な思いとして、『藤袴』の意思が流れ込んでくる。

 

「ああ、大丈夫」

 

 明次は小さく声に出して『藤袴』に対して語りかけた。

 

「それがあんたのISなのね」

 

 目の前から鈴の声が聞こえる。

 

「ええ、そうです。これが俺の相棒――『藤袴』、です」

 

 明次はそう言うと、

 トン、

 トン、

 と、その場で軽くジャンプをする。

 そして最後に、

 ターン、

 と、今までよりも大きく踏切り、跳ぶ。

 そして、音もなくふわり、と地面に着地した。

 ISの基本システムとしてのPICの存在を差し引いても、その三回の跳躍は、藤袴の周りの重力が喪失しているかのようなそんな跳躍だった。

 

『準備はいいか、二人とも!!』

 

 千冬の声がアリーナに響く。

 

「いつでも!!」

「はい」

 

 鈴と明次が頷く。

 

『よし、では――はじめぇっ!!!』

 

 千冬の声と共に、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

「いくよ!! 『甲龍』!!」

「さぁ、舞おう! 『藤袴』!」

 

 同時に二人はISに声をかける。

 

 ――はい。舞いましょう。共に。

 

 藤袴の意思が、明次に流れ込んできた。

 

 

 

 

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