IS インフィニット・ストラトス ~胡蝶の夢~   作:おおがみしょーい

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第七話 初演

「てぇいっ!!!」

 

 開始と同時に鈴の『甲龍』は、手に持った青龍刀――というにはあまりに禍々しい形状の《双天牙月》を振り回し、明次に襲い掛かる。

 

「っとっ!」

 

 明次は『藤袴』を滑らせるように旋回しながら、鈴の刃を躱す。

 

「まだまだっ!!」

 

 鈴は初撃を躱されたことなど気に求めずに畳み掛けるように明次へと斬りかかる。

 疾く。

 鋭く。

 なによりも、恐ろしく躍動的な動きだ。

 一太刀、一太刀に力を込めて、一瞬の隙という間隙に刃をすべり込ませる日本の剣道とは違い、体全体を躍動させて常に全方向から攻撃を繰り出し押し切る中国式の剣撃。まさに剣舞というやつだ。

 日本の剣術を『静』とするならば、鈴の使う中華式はまさしく『動』。

 どちらが上という事はもちろんないが――もし、明次が先の箒との試合のように回避を中心とした試合運びをするのであれば、鈴の相手の方が厳しいであろう。

 何故なら、手数が圧倒的に違うからだ。

 箒に比べれば、荒く、雑な剣筋だが、それを補って余りある突進力と手数だ。

 明次も箒の時とは違い、紙一重の回避とはいかずにそれなりの距離を取りながら回避を続けている。

 

「ほらほら! まだまだいくわよ!」

 

 鈴は明次を追いかけながら剣撃を繰り出し続ける。

 休まない。

 連続した攻撃だ。

 鈴の専用機『甲龍』はピーキーな実験機の多い第三世代機体の中で珍しく燃費と安定性に重きが置かれた機体だ。

 故に一撃の爆発力は他の機体に譲るが、このように連続した攻撃においては相手に隙を与えずに押し切ることもできる。

 

「どうしたの! 逃げてばっかじゃ勝てないわよ!」

 

 鈴の攻撃は、なお一層勢いを増して、明次の『藤袴』へと襲いかかってきた。

 

 

―――――

 

 

『どうしたの! 逃げてばっかじゃ勝てないわよ!』

 

 オープンチャンネルでかけられて鈴の言葉が明次の耳に届く。

 

「――おっしゃるとおり」

 

 明次はそれを聞きながら小さく苦笑する。

 最初はこの『藤袴』の機体性能を見るために受けに回るのは予定通りではあったのだが――まさかここまで連続して責め立てられるとは思わなかった。

 ただ、先ほど『打鉄』にくらべて、反応速度のレスポンスは圧倒的に『藤袴』の方が上だ。故に鈴の嵐のような剣擊も現在、躱し続けることができている。

 

「まぁ、このままずっとって訳にはいかないよね――そろそろ、動かないと、あちらさんも仕掛けてきそうだし……」

 

 そう言いながら、明次は装備一覧を開く。

 回避運動をしながら明次が装備を見る余裕があるのは、明次の回避能力が鈴の攻撃よりも圧倒的に上にある――訳ではない。

 鈴の攻撃には隙があった。

 そして、明次はその隙をつくように回避運動を展開している為に比較的まだ余裕があるのだ。

 

 ――だけど、たぶんこれは作られた隙。

 

 そう、明次は考えている。

 あからさまではない、微妙な隙だ。

 剣撃がそのタイミングだけ半拍遅れる。

 鈴の回り込みが、その角度だけ一瞬、死角を作る。

 気づかぬものは気づかぬだろうし、気づくものは気づくだろう。

 もしかしたら、鈴はコレを相手のレベルを図る試金石にしているのかもしれない。

 向こうにとってこちらは未対戦の専用機。

 その可能性は十分なくらいにある。

 

 そして、そこに気づいたものに次に待ち受けるのは――

 

「まぁ、罠だよねぇ」

 

 故に、この辺りで流れを戻さなければならないと感じ、明次は『藤袴』の装備を展開しようと考えたのだ。

 

「さて……なにがあるかな……」

 

 と、言いながらその一覧を見た明次の目が驚愕に見開かれる。

 

「……って……え?」

 

 出てきた装備一覧には、一番上に一つ、名前があるだけだった。

 

「え? ちょ? マジで?」

 

 明次は『藤袴』に語りかけるが、

 

 ――……。

 

 返ってきたのは肯定と思わしき沈黙だけ。

 

「いやぁ、これ、一夏のこといえないなぁ――まぁ、でも、あんなこと言った手前、ここで諦めるわけにもいかないか……」

 

 そう言うと、明次は装備一覧の唯一の装備を選択する。

 次の瞬間、腰についていた複数のビットの留め金が外れた。

 

「それじゃ、行こうか『藤袴』!」

 

 ――はい。

 

 明次の声に、『藤袴』が静かに答えた。

 

 

―――――

 

 

「――むっ!」

 

 鈴が視界の端に『藤袴』のビットが外れるのを捉える。

 

(ビットを展開しようとしている……どういう機能なのかはわからないけど、こんだけ接近してるから死角に配置されるのはおもしろくない)

 

 鈴は攻撃の合間に思考する。

 

(ビットは通常なら中距離以上の攻撃手段だけど……あいつの機体の機動力を見ると遠距離型っぽくないのよねぇ。だからあのビットもセシリアみたいな使い方はしない……ような気がするっ!!)

 

 鈴は本来、思考より本能のファイターだ。

 試合開始から感じたことを思考にのせて、結論を導き出す。

 

(なら、とにかくここで一旦仕掛けて様子を見る!)

 

 そう結論を出した鈴は《双天牙月》を振りかぶり、

 

「まぁ、ここで仕留めちゃうかもしれないけどね!!」

 

 力いっぱい『藤袴』めがけて投げつけた。

 

「おっと!」

 

 それを明次はビットを展開しながら避ける。

 

「まだまだ!」

 

 しかし、避けたはずの《双天牙月》はブーメランのように明次の後方で旋回すると、再び明次を襲う。

 

「っと!」

 

 それも、明次は避ける――鈴の思い描いていた通りに。

 

「ふん! もらったわよ! 喰らいなさい!!」

 

 《双天牙月》を避けた先が狙い通りに『甲龍』の直線上に調整することに成功した鈴は『甲龍』の肩アーマーをスライドさせて『甲龍』の主力武器を『藤袴』へと放つ。

 

「《龍砲》!!」

 

 見えない砲弾が『藤袴』めがけて穿たれた。

 

 

―――――

 

 

『藤袴』のハイパーセンサーが大気の歪みを感知する。

 瞬間、明次は『藤袴』の手を挙げて叫んだ。

 

「来い! 柴神楽(しばかぐら)!!」

 

 その声に応えるように、周りに展開された三つのビットが上げた手の前方に三角形を描くように展開すると、紫色のフィールドを発生させた。

 

 フィールド周辺の景色がぐにゃりと歪む。

 

 そして、そのフィールドに《龍砲》の砲撃が触れた瞬間――直線にしか進まないはずの砲撃はいきなり直角に向きを変えると、『藤袴』の真横の壁にぶち当たった。

 

「なっ! あんた、それってまさか!」

 

 鈴が紫色のフィールドに映る歪んだ風景を見ながら、信じられぬものを見たというふうに目を見開いた。

 

 

―――――

 

 

「なにっ!? 特定空間の歪曲だと!!」

「あの歪み……もしかして」

「まさか、G・C・D・F……?」

 

 一連のやりとりを見たラウラ、セシリア、シャルロットが驚愕したように『藤袴』の展開したフィールドを見つめている。

 

「え? なに……そのG……なんだっけ?」

 

 完全に置いてけぼりにされた一夏が頭に?マークをつけて三人に問いかける。

 そんな一夏の質問にシャルロットが答えた。

 

「G・C・D・Fっていうのはね、『Gravity Control Distortion Field』の頭文字。日本語で言うと『重力制御歪曲力場』だね」

「『重力制御歪曲力場』?」

「そうですわ。ものすごーく簡単に言うと、ISのエネルギーを使って特定空間に重力を発生させることで人工的に空間に歪みを作りだす、という理論ですわね」

「ふ~ん……でもそれってラウラのAIC(慣性停止結界)と何が違うんだ?」

「ふん、ISのエネルギーを使用して特定空間に強制的に影響を与えるという方向性は同じだが、理論としての格が違う。私の『シュバルツェル・レーゲン』のAICがエネルギー兵器などには効果が薄いのに対して、理論上《G・C・D・F》の歪みは光さえも捻じ曲げることができる……なんせ、この理論を突き詰めていけば擬似的なブラックホールの生成にまでたどり着くぐらいだからな」

「ちょ!? ブラックホールって……ん? じゃあ、それって……」

 

 ラウラの説明に一夏は初めてその効果の大きさを感じ取り、目を見開く。

 

「そう、理論上『無敵の盾』なんだよね」

 

 そんな一夏の驚愕を肯定するようにシャルロットは言葉を続けた。

 

「すげぇ……って、そういや、どうして三人ともあのバリアの事知ってんだ? よくわかんねぇけど、ああいう技術って隠されてるもんじゃないの?」

 

 と、一夏は疑問を口にする。

 一夏の疑問はもっともだろう。現在、この世界の国力はイコール「ISの技術力」と言っても過言ではない。その意味で新技術理論の秘匿性は大げさではなく国家の行く末にさえ影響をする。

 故にIS学園の様な特殊な場所が必要になっているわけなのだが……

 その話は別にしても、各国の代表候補生である三人がその理論を口にするということ自体なんとも奇妙だ。

 そんなにも有名な理論ならば何故出回っていないのだろうか、有用でない、と言うならばわかるが、三人の説明を聞けばそんなことはないというのがわかる。

 

「それは、お前が不勉強すぎるからだ、馬鹿者め」

 

 そんな一夏の疑問に答えたのは、問いかけられた三人ではなく箒だった。

 

「な、なんだよいきなり。じゃあ、箒は知ってたのか?」

「あれを見ただけではわからなかったが、シャルロット達の話を聞いて思い出した」

「マジか……」

 

 ここで知らなかったのは本当に自分一人だということを認識し、肩を落とす一夏。

 

「まぁ、お前はISに関係してまだ数ヶ月しか経っていないから、しょうがないのかもしれんが……」

 

 そんな一夏の頭上から千冬の声が降ってきた。

 

「織斑。ISの本来の使用用途はなんであるか、さすがに知っているよな」

「え? あ? えーと、たしか宇宙開発のための専用スーツ、だったような……」

「そうだ。ISの出現によって宇宙空間での活動範囲飛躍的に向上した。そうなると、次に出てくるのは何だと思う?」

「え? う~ん、宇宙旅行!! ……みたいな?」

 

 一夏は勢いよく答えたものの、あまりに安直かと思い自信なさげに語尾をすぼめる。

 そんな一夏を苦笑しながら見ると千冬は続けた。

 

「まぁ、悪くはない、似たようなもんだ。つまり他の星への調査の有人化が目指された――が、しかし、ここで一つ大きな問題が発生する。一々質問するのも面倒だから、答えを言うが、それは“距離”だ」

「距離?」

「宇宙での距離は“光年”とあらわされるように、“光の速さで移動したとして”、何年。という途方もない距離だ。そうなってくると、次はお決まりの“アレ”が出てくるわけだな。小説でも映画でもとにかく使い古された言葉だが……」

「それって……“ワープ”?」

「そうだ。そしてその“ワープ”を行う上で一番実現の可能性が高いといわれていたのが、先ほどから話題になっている『重力制御歪曲力場』理論だ」

「え? じゃあ、もともとあれってワープするための技術なわけ?」

「そういう事だな、故にISにかかわっている人間なら、一度は聞いたことのある名称だという事だ」

 

 一夏は千冬の説明を聞くと、大きく目を見開いて驚く。

 

「厳密にはワープってわけじゃないんだ。入り口と出口で同時に同じ周波で重力をゆがめることで、その間の空間をとばして出口につける。簡単に言うとそんな感じなんだけど……」

「お決まりの、莫大なエネルギーコストと途方もない演算処理の関係で、実現は当分無理だろうといわれている技術だったのですが……」

 

 千冬の説明をシャルロットとセシリアが引き継ぐ。

 

「ふん……下手したら戦争が起きるぞ」

 

 ラウラが腕組をしたまま呟いた。

 

「まぁ、見たところまだその段階ではなく、ごく小さい特定空間にフィールドを張れるだけの様だが……本来の用途としては副産物でしかない『無敵の盾』もISの試合の中では効果絶大というところだろう」

 

 ラウラの言葉をうけた千冬が《柴神楽》から出ているフィールドを見つめながら答える。

 

「うお……すげぇ……じゃあ、これってもう……明次の……」

 

 ――勝利確定じゃないか。

 と、続けようとしたところに、

 

「でもこれって……式部地くん……勝てませんよね?」

 

 シャルロットが真逆の結論を口にした。

 

「へ? え? なんで? だって攻撃通じないんだろ? 明次の勝ちじゃねぇの?」

 

 一夏は再び「?」マークを大量に頭に浮かべてシャルロットに聞き返す。

 

「いいですか、一夏さん。確かに攻撃は通じないかもしれません。でも、それだけです。それは“勝っている”のではなくて“負けていない”だけです」

「あ」

 

 その疑問に答えたのは隣にいたセシリアだった、そして更に、

 

「それにエネルギーコストも半端じゃない。ISの内臓エネルギーなど使い続けていたらすぐに底をつく。そしてなにより、技術として相当の『拡張領域(バススロット)』を使っているだろう。おそらくあの『藤袴』というISは、あのフィールド展開用のビットしか積まれていないのだろうし、積めぬはずだ」

 

 ラウラが続けた。

 

「えっとそれってつまり……」

「お前の『白式』と同じ――という事だ」

 

 最後に箒が静かに告げる。

 

「あー」

 

 一夏が頭の中で『白式』を思い浮かべる。

 

 一夏の専用ISである『白式』は《雪片弐型》の影響で他の装備がまるで使えない。そして明次の『藤袴』の唯一の装備は武器ではなく盾。

 つまり――

 

「――攻撃手段がない?」

「ってなるよね、やっぱり」

 

 ようやく結論にたどり着いた一夏の回答にシャルロットが頷いた。

 

「じゃあ、明次のやつ、あのISに乗って単機で試合とか出ても意味ないって事か……」

「織斑……お前、本当にそう思っているのか?」

 

 思わず出てきた一夏の言葉に、千冬が鋭い視線を向ける。

 

「い、いやだってタッグとかなら役目があるけど。1対1じゃ……」

 

 その視線にたじろぎながら一夏は答える。

 声は出さずとも、セシリア達もそう思っているようだ。

 

「お前の刀だって、使いようによっては攻撃を防ぐ盾にもなる。勿論、状況は制限されるかもしれないが“何もできない”なんてことはない。要は操者次第だ」

 

 千冬はアリーナに視線を戻しながら一夏に語り掛ける。

 

「織斑……この試合、よく見ておけ。もし、お前が今の『白式』に壁を感じているとしたら……式部地の存在が何かの切っ掛けになるかもしれんぞ」

「千冬姉……」

 

 思わぬ千冬の言葉に一夏は思わず千冬の名前を呼びなれた呼称で呼んでしまう。

 

 しかし、千冬からそのことを咎める言葉は、出てこなかった。

 

 

―――――

 

 

「そらそらそらーっ! いつまで逃げられるかしら!」

 

 鈴は絶え間なく動きながら『甲龍』から《龍砲》をばら撒き続ける。

 

「はん! いくら鉄壁の《G・C・D・F》だって。こうやってやってればスグにエネルギー切れよ!」

 

「――なぁんて、思われてるんだろうなぁ」

 

 明次は絶え間ない衝撃砲の嵐をいなしながら小さく苦笑する。

 鈴は砲身の見えない《龍砲》の特徴を最大限に生かしながら砲撃をつづけている。しかもそれだけではなく、合間、合間に《双天牙月》の攻撃も交えているため、全てを躱すという芸当が極めて難しい。

 

「おっと!」

 

 誘い込まれるように動いた先に狙いすました《龍砲》の一撃。

 明次はフィールド展開用ビット《柴神楽》を操り、フィールドを展開して防ぐ。

 ――が、その後、エネルギー数値を見てため息をついた。

 

「この範囲の狭さで、この消費量……もしかして、ワザと喰らってシールドで防いだ方が効率いいんじゃない?」

 

 そんな明次の問いかけに、

 

 ――ツーン。

 

 沈黙を貫く『藤袴』。なかなかに()()()()なのかもしれない。

 

「でもまぁ。いろいろ試して大体わかった。時間もエネルギー残量もあんまり残ってないし――フィールド使用は概算であと三回ってとこかな――」

 

 ――はい。

 

『藤袴』からの肯定の言葉。

 

「よし、じゃあ、反撃開始!!」

 

 明次は鋭く言葉を発すると、『藤袴』を『甲龍』へ向かって突撃させる。

 

「まぁ、それしかないでしょうけど! 甘いわね!!」

 

 鈴はその突撃を読んでいたようで、いきなり距離を詰めてきた『藤袴』に対して《龍砲》を浴びせかける。

 

「《柴神楽》!!」

 

 その衝撃砲が当たる寸前、明次はフィールドを展開する。

 すると、衝撃砲はフィールドに当たった瞬間、今までとは異なり、鈴に向かって跳ね返っていった。

 これまでの使用によって、フィールドの強弱で当たった対象をそらさせる角度が違うことを理解した明次の反撃の一手。

 

「なっ!!」

 

 思わぬ反撃に、鈴の顔が驚愕にそまる――と、思われた瞬間。

 

「なんてね――」

 

 鈴はニヤリと笑うと、『甲龍』をまるで最初から弾が来ることをわかっていたかのように横にずらし、跳ね返ってきた衝撃砲を躱す。

 

「あんたが、こそこそ対象の反射角を試してたことなんて、お見通しなのよ! 分かっていればこれくらい!!」

 

 そう言いながら鈴が、体勢を立て直し無防備な『藤袴』に向かい合おうとした瞬間――

 

 ――ドン。

 

 と、『甲龍』が何か壁のようなものにぶつかり、跳ね返された。

 

「え?」

 

 自分はアリーナの中央付近にいたはずだ、壁に当たることなどない。

 鈴がそちらに視線をむけると、そこには別の《柴神楽》で展開された小さい三関係のフィールドが見えた。

 

 明次は鈴が跳ね返した砲撃を躱すところまで予測して、そこにビットを配置していたのだ。故に、跳ね返した弾も鈴が避ける方向を誘導するために、若干横にずらしてある。

 

「しまっ!」

 

 体勢が崩れた『甲龍』の懐に『藤袴』が飛び込んだ。

 

「でも!! あんたに武器なんか――」

 

 鈴の声に、

 

「――あるんだよね」

 

 明次が答える。

 

 次の瞬間、

 

「《柴神楽》!!」

 

 明次の声に反応して、ビットが『藤袴』の腕に張り付くと、『藤袴』の右拳を紫色のフィールドで覆う。

 

(せあ)っ!!」

 

 明次は『藤袴』の足を強く地面に叩きつけると、フィールドに覆われた右拳を『甲龍』めがけて放つ。

 

「――っ!!」

 

 鈴の目が大きく開かれる。

 

 特定空間内のあらゆるものを歪ませるフィールドをまとった拳。

 そこにあるものは装甲、バリア、盾。なんであっても無力。

 

「――っ、冗談じゃないわよっ!!」

 

 鈴はPICを全開にして体勢を立て直すと《双天牙月》で『藤袴』の拳を迎え撃つ。

 

「はあっ!!」

(せあ)っ!!」

 

 ――金属同士のぶつかる激しい音がアリーナに鳴り響た。

 

 そこには、拳を振り抜いた『藤袴』と、その拳によって、《双天牙月》と右のスパイク・アーマーを粉砕された『甲龍』が交差したまま佇んでいた。

 

 試合終了のブザーがなる。

 

『きゃああああああああああああああああっ!!!!!!』

 

 アリーナの各所から黄色い歓声が響き渡る。

 

「ふー……」

 

 そんな歓声の中、明次が大きく息を吐き出したとき、

 

「あんた……セシリアみたいなことしてんじゃないわよ」

 

 後ろから鈴が声をかけてきた。

 

「はは、バレてました?」

 

 それを聞いた明次が小さく苦笑する。

 

「いやぁ、一応計算して出力調整してたんですけど……うまいこと左にずれて跳ね返すことができました」

 

 反撃の初手である《龍砲》の反射。たしかに明次は鈴の行動を誘導するために横にずらすことを意識して、フィールドの出力を調整していたが……実際のところ本当に狙ったところに跳ね返せるかは出たとこ勝負だった。

 その辺を見抜いた鈴は、先ほど一夏を倒したセシリアの苦し紛れの一撃に例えてそんなことを言ってきたのだ。

 

「でも、博打を打ったのはこれだけじゃなかったですしねぇ」

「は?」

 

 て飛び出してきた明次の言葉に、鈴は口をぽかんと、開ける。

 

「跳ね返ってきた弾を凰さんが本当に避けてくれるのか……体勢を崩したあとこの拳が届くのか……そしてなによりこの最後の一撃でちゃんと凰さんのバリアを規定値まで削れるのか……この一連、一つでも失敗してたら負けたのは俺ですから」

 

 そう言って、明次は小さく肩をすくめる。

 

「……」

 

 そんな明次の言葉を聞いた鈴は、

 

「前言撤回するわ……流石にセシリアはそんなバカな戦い方しないもん。だから言い直し……あんた、一夏みたいなことしてんじゃないわよ!」

 

 と、明次に向かってビシッ! と人差し指を指す。

 

「ははっ、そいつは、問題かもなぁ」

 

 それを聞いた明次は、思わずといったふうに笑い出した。

 

「まぁ、見てなさい。今日は油断しちゃったけど、こんどこそコテンパンにしてやるんだから」

「肝に銘じておきます」

 

 そう言うと、二人はIS越しに握手をする。

 

「行こう『甲龍』。今からと整備室でみてもらおう」

 

 そう言うと、鈴は『甲龍』に語りかけながら出口に向かっていく。

 

「俺たちも、行こうか。お疲れ様、『藤袴』」

 

 それを見て踵を返そうとした明次のねぎらいの言葉に、

 

 ――ツーン。

 

『藤袴』から返ってきたのは、沈黙……というよりも、何かヤキモチの様な、拗ねている感情だった。

 

「え? ちょ? なんで??」

 

 わけのわからない明次が狼狽していると、

 

 ――女性と楽しそうに、おしゃべりしてた……ツーン。

 

 続けてその様な意識が流れ込んできたかと思うと、次の瞬間、『藤袴』は粒子になって、指輪へと姿を変えてしまった。

 

「……なんで?」

 

 明次はいきなりの展開に、指輪を見つめながら語りかげるが、『藤袴』はもう応えてはくれない。

 

 明次は試合の終わったアリーナで一人、困惑した表情で、立ち尽くしていた。

 

 

―――――

 

 

 一夏は、試合の終わったアリーナを見つめていた。

 

 身体が熱かった。

 心の中のなにかが灯った。

 握りこんだ拳が小さく震えているのがわかる。

 

 明次の鈴を仕留めた一連の流れ。

 

 もちろん、運もあっただろう。

 

 だが、それ以上に、思考し、布石をうち、可能な手の内の中で最善手を選んで挑んでいっていたのだとわかる。

 

 ――これか。

 ――こういうことか。

 

 力が欲しかった。

 守られてばかりだった自分――それを変えるために力が欲しかった。

 守られてばかりじゃない、守るための力が欲しかった。

 その力が、今、自分の手の中にある。

 あるが――使いこなせていない。

 自らの未熟さゆえに、その力を扱いきれていない自分に悔しさがあった。

 

 ――やはり、自分は昔の、ただ守られるだけの男なのか。

 

 そんな思考に陥りそうになったとき――目の前にあの男が現れた。

 姉である千冬のいう通りだった。

 あの式部地明次という男の出現で、自分の中の何かが動き出している。

 

 裡から、裡から、ふつふつと何かが湧き上がってきている。

 何であるかは――わからない。

 わからないが――悪くない。

 

「ははっ……」

 

 一夏はその裡から湧き出るものに突き動かされるように、小さく笑った。

 

 





 8千字……
 というかそろそろ9千字。

 おかしい……5、6千字で収めるつもりだったのに……

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