『ONE PIECE:黒雷の流儀』   作:トート

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第10話:『ニカと黒雷、男たちの反撃』

「……おのれ、不遜な羽虫どもが……っ!」

 すさまじい地響きと共に、研究所の瓦礫が弾け飛んだ。

 シルバの『黒拳』によって肉体の半分以上を消し炭にされたはずのサターン聖が、禍々しい黒い炎を全身から噴き上げながら、再び姿を現したのだ。驚くべきことに、失われたはずの蜘蛛の脚や頭部が、不気味な速度でドロドロと再生していく。五老星が持つ、悪魔の実の枠を超えた異様な不死の呪いだった。

「ひっ……! 嘘だろ、あいつ、シルバのあんな一撃を喰らって、なんで無傷で立ち上がってこれるんだよ……!」

 背後でボニーが息を呑み、絶望の表情を浮かべる。シルバの圧倒的な強さを間近で見たからこそ、それを何事もなかったかのように無効化する世界の最高権力の不気味さに、彼女の身体は再び恐怖で震えていた。

「フン……。なるほどな、ただのジジイじゃねぇってわけか」

 だが、シルバは前髪の奥で、ただ冷酷に口元を釣り上げただけだった。

 悪魔の実を持たない彼にとって、敵の異能など日常茶飯事だ。再生するなら、その再生が追いつかなくなるまで何度でも、その傲慢な顔面を叩き割るだけのこと。シルバの右拳が再び漆黒に染まり、バリバリと空間を焦がす黒い稲妻が弾けようとした、その時だった。

「アヒャヒャヒャヒャ! 面白ぇ国だなー! ドンドンパフパフ!」

 割れた地面の奥から、心臓を『解放のドラム』の幸福なリズムで鳴らしながら、全身を純白の炎のようなオーラで包んだ少年が飛び出してきた。――ギア5(ファイブ)、太陽の神『ニカ』の姿となったルフィだ。

「あ! ルフィ! お前、そのヘンテコな姿は……っ!」

「シシシ! ボニー、お前まだ泣いてんのか! 泣くのはやめろ、面白いもの見せてやるからよ!」

 ルフィは宙をゴムのように跳ね回りながら、シルバのすぐ隣へと着地した。その白い瞳が、フードを深く被ったシルバの顔を真っ直ぐに見つめる。

「おい、前髪のシルバ! あいつ、なんだか面白ぇ力使ってんな! お前のその黒いバリバリ(覇王色)と、俺のこれ、どっちが強ぇか試してみようぜ!」

「……フン、乗っかってやるよ、麦わら。ただし、俺のスピードに置いていかれんじゃねぇぞ」

 無能力にして最強の覇気を誇る男と、世界の闇を照らす伝説の太陽の神。

 二人の怪物が並び立った瞬間、エッグヘッド島全体の空気が、物理的な圧力を伴ってゴォンと鳴動した。サターン聖の醜悪な顔が、初めて明確な『焦燥』によって歪んでいく。

「神への叛逆を企てる不届き者どもが……! パシフィスタ全機に告ぐ! ターゲットを絞り、跡形もなく消去せよ!」

 サターン聖の狂乱した号令に呼応し、周囲を囲む数十体の鋼鉄の人間兵器が、一斉にレーザーの照準をシルバとルフィへと向けた。その銃口の先には、ボニーの父親であるくまの容姿をした個体も含まれている。

「――ルフィ、鉄クズ(ロボット)はお前に任せる。俺はあのジジイの面を完全に粉砕する」

「おう! 安心して任せとけ!」

 ルフィが地面をトランポリンのように蹴って、パシフィスタの群れへと笑いながら突撃していく。

 シルバはのっしのっしと重い足取りで一歩前へ出ると、ボロボロのコートのポケットから両手を引き抜き、再び完全に両目を開いた。

「さて、五老星。テメェのその薄汚ぇ再生能力が、俺の『流桜』を纏った拳にどこまで耐えられるか――徹底的に試してやるよ」

 シルバの全身から、島を丸ごと包み込むほどの『絶大すぎる覇王色の黒雷』が、最大出力で吹き荒れた。ボニーを泣かせ、その未来を踏みにじろうとした男の悪党への、容赦を一切捨てた男の反撃が、ここに始まる。

「神に仇なす羽虫どもが……! 跡形もなく消え失せるがいい!」

 サターン聖の咆哮とともに、再生を終えた無数の蜘蛛の脚が、大気を引き裂くような速度でシルバへと殺到した。その一本一編が、触れるものすべてを腐食させる禍々しいオーラを放っている。

 だが、シルバは一歩も引かない。それどころか、隣で真っ白な炎のように跳ね回るルフィの動きに、自らの呼吸を完璧に同調させていた。

「アヒャヒャヒャヒャ! 行くぞ前髪のシルバ! 世界で一番面白い攻撃だ!」

 ルフィが地面をゴムのように引っ張ると、サターン聖の突き出した巨大な脚が、まるでギャグ漫画のようによじれ、弾け飛んだ。その完璧な隙を、シルバの『王の眼』が見逃すはずがない。

「――仕留めるぞ、麦わら」

 シルバの巨体が爆音とともに地を蹴り、宙を滑るようにサターン聖の正面へと肉薄した。

 彼の右腕は、すでに光を一切反射しない完全なる漆黒の金属へと変貌し、周囲の空間を物理的に歪めるほどの『覇王色の覇気』を極限まで吸い込んで、バリバリと狂暴な黒い稲妻を狂い咲かせている。

「そこをどけ、ジジイ。テメェの座る席は、もうこの海のどこにもねぇよ」

 シルバの黒拳が、サターン聖の醜悪な顔面に向けて、光速を超えた速度で突き出された。

 実際には、シルバの拳はサターン聖の肉体に触れてすらいない。だが、その数センチ手前の空間で、極限まで圧縮された「流桜」の衝撃波と、怒りに滾る覇王色のエネルギーが激突し、五老星の頭部を文字通り跡形もなく消し飛ばすほどの超重量の爆発が解き放たれた。

 ズガァァァァァァァァン!!!!!

 島全体が完全にひっくり返るかのような、凄絶な大爆発音がエッグヘッドの空を支配する。

 サターン聖の巨大な肉体は、シルバの一撃によって今度こそ上半身のすべてを分子レベルで粉砕され、遥か彼方の防衛壁へと激しく叩きつけられた。黒い炎が吹き荒れ、パシフィスタの群れもルフィの自由すぎる一撃によって次々とガラクタのように破壊されていく。

「はぁ……はぁ……」

 激しい爆風が吹き抜ける中、シルバは何事もなかったかのように地面に着地した。あまりにも膨大な覇気を一瞬で放出したため、肺から熱い吐息が白く漏れ出る。だが、男は息を整えるとすぐに前髪を下ろし、世界を震わせたその両眼を深く隠した。

「……すご……。ニカの光と、シルバの黒い雷……。本当に、世界最高権力を圧倒しちまった……」

 動けるようになったボニーが、床に膝をついたまま、その不敵な瞳をこれまでにないほど激しく輝かせてシルバを見上げていた。彼女の胸の奥にあった絶望の霧が、二人の男の圧倒的な背中によって、綺麗に払拭されていく。

「……いつまで座り込んでる。早く立たねぇと、置いていくぞ」

 シルバはボニーに手を貸そうと大きな手を差し出しかけたが、彼女の熱い視線と真っ正面からぶつかりそうになった瞬間、やはり顔を真っ赤にしてフイッと視線を逸らし、差し出した手を気まずそうに頭の後ろへと回した。

 だが、世界の最高権力の底は、これほどまでに浅くはない。

 瓦礫の奥から、再び不気味な黒い炎が立ち上り、サターン聖の肉体がドロドロと再生を始める。それと同時に、島の通信機から、海軍本部による絶望の布告が鳴り響いた。

『エッグヘッド島内の全海兵に告ぐ。これより、この島に歴史上最大規模の「バスターコール(無差別殲滅砲撃)」を発令する。軍艦百隻、ただちに砲撃を開始せよ!』

 島を包囲する水平線の彼方から、一斉に放たれる無数の砲弾の嵐。未来の島を火の海に変えようとする海軍の総攻撃。

 だが、シルバは再び深くフードを跳ね上げると、その「王の眼」を海へと向け、獰猛に笑った。

「ルフィ、ボニー。脱出の準備をしておけ。……あの包囲網(男ども)の視線は、俺のこの『眼』で、すべて叩き割ってやる」

 バスターコールの嵐を真っ正面から迎え撃つシルバ。彼が流儀を貫き通し、最愛の少女を世界の絶望から完全に救い出すための真の決戦は、ここからさらに激しさを増していく。

 

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