「骨がないのに生きてる、本当に不思議な話だな。」
治療方法は無い、この肉塊にはちゃんとした骨が通っているのに機能しないから。
...私がその辺の境界を弄ったが、これ以上は苦しめるだけだろう。
「肉塊に変えられてからの寿命は恐らくどんなに頑張っても5日から3日、完全に抽出された骨を元に治す事は誰でもできない。
君の努力は無駄じゃないし間違ってもない、勘違いするな今のこの子はこの形が正しい姿なんだ。」
「疲れ様でした羽恩さん、この案件は特級術師の九十九由基に引き継がれます。」
やはり私は偵察要員だった、九十九由基があの悪趣味な場所を諸共吹き飛ばしてくれる事を祈るばかりだ。
「私から言える事は何もないので、どうかこれ以上の被害を出さない様にお願いします。」
「承知いたしました、では失礼致します。」
「さて次は君だ、少なくとも術式の影響を受けているだろう。」
「応急処置はしてますが、骨と肉の剥離の症状はありました。」
「見せてくれるか?」
「はい」
「よく頑張った、誰も君を責めない。そう思い詰めるな。」
「まあそうですね、ただ昔に遭遇した呪霊の事を思い出してですね。
ああ、呪霊って意味もなくこんな悪趣味な奴らだったな。
って...」
私は今心配されたのか、そうだった私はまだ年齢的には高校生で人に庇護される立場か。
年と経験に不相応な無茶振りをされる事はない、そして私がちゃんと撤退できる事を見込んで割り振られた任務だった。
...あの時あの呪霊の
考えるだけで寒気が、嫌になるあの呪霊の悪趣味さは。
できるなら、二度と見たくない。
「昔か、似たような境遇に遭ったのか?すまない思い出させてしまった。」
何度も言うが改めて呪霊は悪趣味な存在なんだって思わされただけ、別に私は大切な誰かが死んだとかそういう悲惨な経験をした訳じゃない。
ただ
「呪術師なんて、なるもんじゃないですね。」
「そうかもしれないな、だけどオマエには向いてる。」
私が目指すべき呪術のカタチを理解した
これまで嫌な思いして戦ってきた呪霊が手本になるとは、嫌になるな。
「予算の申請が許可された、よかったな。」
「よっしゃー!!」
貰った特別休暇の時間を使って真空管及びジャンクCPUのゲート調整をしていた時、我等が宇佐美先生が学生に使わせられないような膨大な現金を扱う権限を手に様子を見に来た。
「俺からしてみれば何が何だか分からんがな、しかし興味はある。」
「包括的な呪術運用を可能にする、そういう取り組みです。」
モデルはC4ISRのため演算能力はいくらあっても損しない、計算速度が最重要だ。
それもただ境界を弄るだけ、物を裂いたりスキマの底に沈めるだけなんてのは味気ない。
術式の核心はそれだが、ただの1と0を出力するだけの情報媒体がVRにまで進化するからある程度法則を無視できるこの術式の活用手段は幾らでもある。
通常の呪力操作の範囲で、有効な攻撃の連続性を高める...効率の差と飽和攻撃を敵に強いる。
「肉体強化と直接戦闘能力の追及もいいですけど、やはり領域の方を私は重視するべきだと考えました。」
地力を鍛えるのも限界がある、勿論蔑ろにする訳ではないし
だとしても、領域に作用する環境要因の強化は最優先事項。
これまで経験してきた任務では一度もフィジカル面で苦労した事はなかった、だが反する様に領域の扱いは悪辣で苦労した奴らばっかだったから。
使い勝手のいい領域術、画一性より汎用性を追求する。
情報処理と出力媒体の強化は必須、その基準を満たす現物をようやく必要なだけ手に入れられる。
その為には電子機器を模倣するのが最適だと判断した、今はその基礎たるCPUで土台を作る期間だ。
ゆくゆくは深層学習で色々と悪さもする予定だし...
「きっとそれは良い事だ、期待しているぞ。」
その発展性は教師のお墨付き、ただの模倣でも対象の能力が上振れしてるなら上等だ。
領域術の既存のルールを無視する方法、それの解決を成功させてみせる。
必中効果の無効化
必中対象の偽装
領域効果の同時多重作用
領域の多重展開
その各種任務の同時遂行に、絶対欠かせないのが情報出力ユニットの再現がしたい。
領域術は人間みたいな多機能型よりも、機械みたいな一芸特化型の方が有効に用いる事ができる筈だ。
あの準一級が精々だったメカ丸が、外付け式の簡易領域で特級に通用する技を用意できるんだからこの辺の小手先の技術の有用性は折り紙付き。
一秒につき36億回の基本演算が行える、五条悟の無量空処は処理できなくても組み合わせ次第で何かしらの飽和攻撃ぐらいなら対処できる様になる筈だ。
標的の認識は確実になるだろうし、その辺の従来の呪術師にはできない領域の多重展開も容易になる。
即応性は私の呪力を込められたM249軽機関銃の連続射撃その全弾を撃墜可能とする、そして陸自の105mm徹甲弾に成形炸薬弾からの直射からの防備も成功させた。
実際の兵器と違って即応弾とかみたいな凝った事だったり、誘爆みたいな分かり易い脆弱性も無い。
現代戦にて裏打ちされた効率と効果、領域をレーダーとすれば解釈も損ないにくい。
パッシブで発動する簡易領域とアクティブな支援領域、対抗手段は通常の必中効果の無効化と斬撃と呪力弾と呪力砲の3種類とする。
...一応呪力の性質変化も試しているが、そこら辺得意ではないらしく出力の問題で実戦運用はできなさそう。
領域効果は敵にはデバフを体調不良と環境改変と呪力の変質を基軸とした呪いによる妨害、味方にはその逆で反転術式での回復を軸に出力の強化と肉壁としての役割を担わせる。
オマケに実体としての認識阻害と標的誤認工作、基本は強敵に対する時間稼ぎを軸に据える。
...何分私が生き残れるならそれで勝ち、何度でも挑戦し直せばいい。
基礎は完成したから、追々最適化と発展を目指していく。
最後は式神に私の魂の情報を入力して、私のドッペルゲンガーとして偽装すれば完璧だろう。
そんなこんなで簡易領域の達人たる我等が宇佐美先生に実験台になってもらった、バギャバギャと鳴りながら剥がされていた簡易領域は1分も保たなかった。
「妙な感覚だな、複数の領域持ちの呪霊に襲われているみたいだった。」
「どうでしたか現代軍事演習の成果は、研究価値の高い代物だったでしょう。」
「私の様な標準的な術師でも同じ事ができるなら、革命だな。」
「反転術式と領域の両方が使える式神ですが、そうですねありきたりな式神術ですから習熟さえできれば誰でも使えます。」
「「...」」
結局は才能依存、それでも習熟難易度はかなり低下したと思う。
そしてコッチは報告しない別の実験、式神の境界を弄り私の肉体の情報を入力する。
私の魂と肉体と記憶を模倣した式神、自己が曖昧になる人も居るだろうけど私の場合はそういう問題はなかった。
ただ目に見えて身長が低いし妙に体が軽い、色々と欠陥だらけの模造品になってしまった。
一応本体を入れ替える事もできる、言葉にするなら受肉と霊魂化だろう。
骸骨によって肉を剥がされるという経験から再現したが、逆に弱点にもなる諸刃の剣だ。
自分と全く同じ分身以上の同体を生み出せる、つまり式神にバフを積ませて私本体にそれをフィードバックさせられる。
事実私は憑依した人間だ、正確には小泉羽恩という人間に入り込んだのだからこそ魂の知覚もできるし超常的な現象の再現にも向いていた。
私の肉体は乗り移ると魂と記憶の無い入れ物になるから、勝手に動いたりしなかったのは安心。
術式がバグってドッペルゲンガーみたいなのが生まれて存在が消えたり、或いはそれと鬼ごっこするみたいなホラー展開が発生しなかったのは良かった。
ただ本体入れ替えの欠点として白目を剥きながらながら涎を垂らして失禁脱糞するから尊厳が...
乙女の純潔を守る為に文字通り最後の手段、或いは決定的な死を回避する為の保険として使うだろうか。
まあ目の前の人がいきなり白目ヒン剥いて涎垂らしながら小便大便漏らしたら誰でもビビるから時間稼ぎには使えると思うけど、文字通り戦闘どころじゃない。
普通の手段では殺されないこれが特級の嫌疑をかけられる理由か、心当たりしかなかった。