数日後のお昼時。
ドクトル・バタフライの飛翔する背中に乗ってやって来た不破信二と土煙を起こさず、軽やかに着地してやって来たススハム、お祭りだと楽しげに畳に腰掛ける幻想虎徹と桐さん、左之助さんや斎藤一、アの三人組、永倉新八、阿部十郎、鷲塚慶一郎、剣客兵器、御庭番衆など。
あからさまに過剰戦力の集まった闘技場。*1
ゆっくりとリングの上に上がった不破信二は楽しそうに微笑みを浮かべ、私は反対側のリングの端に立ってショドウフォンを開き、彼の望んだ相手を立体的に描き、ヒーローマシンの効果を受け、完全再現を遂げる。
────“怪物を超えた怪物”宮沢鬼龍
顔に刻まれた横一文字の傷痕。黒いレザーパンツを履き、黒いシャツ、オーバーコートを羽織った彼の登場に観客席の熱気は高まります。
特に、凍座白也は鼻息を荒くしています。
大きく隆起した胸筋、私の腰よりも太い二の腕や太股のマッシブさに不破信二は兇気の笑みを浮かべ、黒い帯を力強く締め付け、小太刀をススハムに投げ渡す。
最強の男を迎え撃つ。
どちらも最強の格闘家ですけど。
不破信二と宮沢鬼龍では明確に違う。
不破信二の、神懸かった強さ。
宮沢鬼龍の、怪物じみた強さ。
どちらも絶対に敗けを許さない。
しかし、あくまで不破信二の前に立つ宮沢鬼龍はひみつ道具と私のモヂカラで描き、正確にイメージを詰め込んだ虚像の存在───。けれど。そのイメージは私の最強の存在と認識する宮沢鬼龍であり、
「殺ろうぜ、怪物さんよォ」
不破信二のその呟きを合図に彼の間合いに踏み込んだ宮沢鬼龍の鋭く疾い左鉤突きが彼の頭を捻り、続けざまに放たれた右の直拳突きが不破信二の胸部にめり込み、鈍く骨肉を砕き潰す音が派手に響き渡る。
───が、不破信二にダメージは無い。
不破と陸奥の両家に伝わり、不敗の九百年と四百年の歴史を築き上げる〝圓明流〟の守りの業「
超人的な動体視力と反射神経を有す不破一族の最高傑作たる不破信二の肉体を以てすれば容易く行える行為だが、一撃必殺の恐怖を纏う殴打に対し、あの神業に等しい高等技術の回避を行えるのは彼だけでしょう。
「───良いねえ、最高の気分だ。それに胴着を切られたのは左之助と以蔵以来だ」
そう言って黒い胴着を引き千切った不破信二は胴着を投げ捨て、兇気の滲んだ笑みを浮かべ、宮沢鬼龍は睨み、不破信二は見据え、間合いを計り始め───否、修羅と暴龍は同時に踏み込み、拳打の応酬を繰り広げる。
不破信二は右のストレートをスウェイバックで仰け反るように躱しつつ、引き足を返して、大きく前へと飛び跳ねると閃光めいた鋭さを持つ蹴りが宮沢鬼龍に向けて放たれ、オーバーコートを切り裂く。が、宮沢鬼龍は手刀受け(正確には上段蹴りに対しての迎撃)を放ち、仕合開始から三分にして───。
初めての流血は起きた。
不破信二の右足の甲は裂け、血を流す。
宮沢鬼龍も同様に右手は裂け、血を流した。
二人の打撃は受けても相手を壊す。
そういう類いの攻撃に属しています。
オーバーコートを脱ぎ捨て、分厚く隆起した胸筋を締め付ける半袖のシャツを顕にし、宮沢鬼龍は右手を顎先に、左手を胸の少し下に置き、左半身を前に差し出すように構えました。
オーソドックスな右利きの構え。
ボクシングやキックボクシングで言えば「アップライト・スタイル」という物。あるいは、フルコンタクト空手の基本の構えにも見えるファイティングポーズに宮沢鬼龍は構え、石畳のリングを踏み締め、足捌きを確かめ、ゆっくりとリズムを築き始める。
短く息を吐く音。
同時に、炸裂音と共に不破信二の頭が後ろに弾け、鼻血を流しながら、たたらを踏んで僅かに後ろに押された不破信二は自分の鼻を押さえ、嗤った。
「相楽、今の見えたか?」
「……いや、見えなかった」
「おそらく不破と戦っているあの男は外国の武術を取り込んだ流派を使っている。糸色の事だ、その手の情報は山のように抱えているだろう」
……否定はしませんけど。
そういうことは言わないでほしいです。
宮沢鬼龍の両腕は霞のように消える。しかし、同時に不破信二の顔や胸、肩に砲弾のごとき拳がめり込み、確実にダメージを蓄積させる。
「思い出したぜ、そいつは霞突きだ!」
そう言って嗤った不破信二は身体をねじり、パンチを受ける瞬間に躱し始める。やはり、不破信二の強さの秘訣は学習能力の高さ────。
おまけに、不可視の霞突きの軌道を肩の動きのみで予測し、推測して避ける事に成功した。刹那。不破信二の左腕は不自然に消える。
─────〝灘神影流〟霞突き
不破信二は霞突きを見て、覚えて逆に見舞った。
「まだまだ、遊ぼうぜ」
そう恐ろしくも神々しい修羅は嗤った。