函館の温泉の効能の怪しさを記した瓦版を読みつつ、美肌効果を示す天然温泉の多さに少しだけ苦笑を浮かべながら、温かな籠の中に入って、スヤスヤと眠るひとえのおでこを優しく撫でてあげる。
今日も北海道は平和です。
そう思いながら私も少仮眠を取ろうと火鉢に炭を足し、少し換気のために戸を開け、半纏を布団のように羽織りつつ、横になろうとした時でした。
また、玄関の扉をノックする音が聴こえました。
渋々と起き上がって、玄関の扉を開けると予想通りに斎藤一が風呂敷を片手に佇んでいました。ちょっとだけ、かなり怖いです。
「糸色、居るなら返事をしろ」
「斎藤さん?」
「新しい用件だ」
「え、あの?」
ズカズカと上がり込んできた斎藤一に何かを言う事も出来ず、渋々と彼を追いかけて居間に戻ると先に座っていました。もはや親戚のおじさんですね。
そう思いながら風呂敷を広げる斎藤一にイヤな予感を感じ、彼の手元にあるものに見る。
葡萄?と首を傾げながら「珍しい果物を持ってきたんですね」と言えば「コイツは警察署の裏手にいきなり生えてきた果実だ。知っているなら早い」と藪蛇をつついてしまった事を理解する。
いえ、葡萄は良いんですけど。
「(赤い葡萄なんてあるのでしょうか?)」
ふと違和感を感じてしまう。
葡萄にしては匂いが薄く、どこか変わった気配を感じるものばかりです。……なんとなく理解してしまいました。私は食べちゃダメなモノです。
「これは知恵の果実ですね。食べると頭が良くなりますけど、消化したら元に戻ります」
「なら食え」
「食べても私には意味ないですよ?(この世の出来事は『前世の記憶の保持』によって逐次更新していますし。食べたら知恵熱が出そうですし)」
「黙って食え」
「んむっ……皮ごとですか」
もきゅもきゅっと『轟轟戦隊ボウケンジャー』に登場するプレシャス『知恵の果実』を食べてみても、いつもと知識は変わらないですね。
斎藤一に知恵の果実を差し出すと「毒はないようだな」と呟きましたね。貴方、産後からそんなに日にちの経っていない私によく毒味させましたね。
まあ、単なる冗談なんでしょうけど。
「……ペッ」
「斎藤さん、お行儀が悪いです!!」
「不味い。あと気持ち悪い」
確かに戦闘メインに、いきなり科学者みたいな事を押し付けるのは宜しくないことです。ただ、あまり子供の前で食べ物を吐き捨てるのはやめてください。
ひとえが覚えていたらどうするつもりですか。
「ソイツは置いていく、好きにしろ」
いえ、持って帰って下さい。