デクシオとジーナに案内され、ミソラたちはミアレシティのサウスサイドストリートにそびえ立つ、近代的な「プラターヌ研究所」へとやってきていた。
大理石の床がピカピカに磨かれたロビーを抜け、エレベーターで上の階へと向かう。扉が開いた先には、無数の書類や研究機材が並ぶ広い部屋があり、その中央で、青いシャツに白衣を無造作に羽織った長身の男性が熱心に資料を眺めていた。
「おや、よく来たね! 君がミソラちゃんだね」
彼こそが、カロス地方のポケモン研究の第一人者――プラターヌ博士だった。博士はミソラを見ると、モデルのような端正な顔立ちに極上の微笑みを浮かべ、気さくに歩み寄ってきた。
「はじめまして、プラターヌ博士。アサメタウンのミソラです。無事にハクダンジムのバッジをいただいて参りました」
ミソラがスカートの裾をつまんで淑やかに一礼すると、博士は「素晴らしい!」とパチンと指を鳴らした。
「ビオラを破るとはね。……おや、それにしても驚いたな。君の後ろにいる子たちは……」
博士の鋭い視線が、ミソラの足元に綺麗に並ぶ五匹の我が子たちへと向けられる。
フォッコ、ヤヤコマ、ピカチュウ、ルリリ、引越しを終えたばかりのエネコ。どの子もミソラの側を片時も離れたくないと言わんばかりに、信頼に満ちた瞳で彼女を見上げていた。
「タイプやバトルの効率にとらわれず、自分が『愛おしい』と感じた命を全力で育てる……デクシオたちから聞いた通り、君は実に興味深い、そして素晴らしいトレーナーだ。ポケモンたちを見れば、君がどれほど誠実に彼らと向き合ってきたか、一目で分かるよ」
「ありがとうございます。なついてくれる命には、最後まで全力で応えるのが私の筋ですから」
ミソラが誇らしげに微笑むと、プラターヌ博士は深く頷き、部屋の奥にある最新のメカへと歩み寄った。そこには、赤、緑、青の三つのモンスターボールが恭しく並べられている。
「カロス以外の世界にも、魅力的なポケモンはたくさんいる。これはカントー地方という遠い国から私の研究所にやってきた三匹のポケモンたちさ。ミソラちゃん、君のその温かい『大家族』に、もう一匹、新しい家族を迎え入れてはくれないかい?」
博士に促され、ミソラは静かに歩み寄った。
博士が中央のボールのボタンを押すると、白い光と共に、一匹の小さなトカゲの姿をしたポケモンが現れた。――ヒトカゲだ。
男の子であるそのヒトカゲは、突然の慣れない環境に少し緊張しているのか、尻尾の先の小さな炎をパチパチと揺らしながら、きょろきょろと辺りを見回していた。
「……こんにちは。貴方、とても格好いい炎を持っているのね」
ミソラが目線を合わせて優しく語りかける。
ヒトカゲはビクッと肩を揺らしたが、ミソラの澄んだ瞳と、その背後から自分を優しく見守るフォッコたちの温かい空気を感じ取り、じっと動きを止めた。
世間の効率主義のトレーナーなら、「最初にフォッコを選んだんだから、同じ炎タイプのヒトカゲなんてタイプが被って無駄だ」と言うかもしれない。けれど、ミソラにとってはそんな計算は一片の価値もなかった。
この子が今、ここで不安そうに、けれど懸命に尻尾の炎を灯して自分を見つめている。その健気な姿に、ミソラの胸は熱い愛おしさで満たされた。
ミソラがそっと手を差し伸べると、ヒトカゲは少し躊躇った後、小さな前足でミソラの掌をぎゅっと握りしめてきた。小柄な体から伝わってくる、確かな命の熱さ。
「決めたわ。博士、この子を私の家族にさせてください。タイプが被っていようと関係ありません。この子が私を選んでくれたなら、私はこの子を世界一幸せな男の子にしてみせます」
「素晴らしい決断だ、ミソラちゃん! ポケモンと生きるというのは、そういうことさ!」
プラターヌ博士は満面の笑みでヒトカゲのモンスターボールをミソラへと手渡した。
「よろしくね、ヒトカゲ。貴方は今日から、私たちの特別な男の子よ」
ミソラの言葉に、ヒトカゲは「カゲッ!」と嬉しそうに短く吼え、尻尾の先の炎を大きく、誇らしげに燃え上がらせた。フォッコが歓迎の炎を小さく吹き、ピカチュウやルリリ、ヤヤコマ、エネコもみんなで新しい弟を囲んで喜びを表現する。
フォッコ、ヤヤコマ、ピカチュウ、ルリリ、エネコ、そしてヒトカゲ。
ついに揃った、ミソラの「最初の六匹」の大家族。タイプの偏りも、戦術の不利も、彼女たちの前にはただの飾りに過ぎない。
光溢れるプラターヌ研究所の窓辺で、ミソラと六匹の愛おしい家族たちの、本当の冒険の幕が静かに上がろうとしていた。