パルファム宮殿へと続く6番道路は、美しく整えられた並木道が真っ直ぐに伸びていた。だが、その美しい景観とは裏腹に、ここには宮殿を目指す観光客を狙ってバトルを仕掛けてくる、血気盛んなトレーナーたちが大勢待ち構えていた。
「おい、そこのお嬢ちゃん! 宮殿に行くなら、僕と勝負していきなよ!」
道端から突然、派手な服を着た観光客の少年がモンスターボールを構えて飛び出してきた。
「急いでいるのだけど……。なついてくる相手ならともかく、そちらがその気なら、受けて立つのが私の『筋』ね」
ミソラは冷徹に言い放つと、足元でトコトコと歩いていたピンク色の小さな体を優しく見つめた。
「エネコ、貴方の力を見せてあげなさい」
「みゃうっ!」
フィールドに躍り出たのはエネコだった。ハクダンシティの生け垣の奥で、泥にまみれて震えていたあの弱々しい姿はもうどこにもない。ミソラの温かい大家族に迎え入れられ、深い愛情を注がれた彼女の瞳には、今や確かな自信と輝きが宿っていた。
「ハッ、そんな可愛い観賞用みたいなポケモンで僕の相棒に勝てるわけ――いけっ、ホルビー!」
少年が繰り出したホルビーが、自慢の大きな耳を地面に叩きつけて突撃してくる。
世間の効率重視のトレーナーなら、「エネコなんてバトルの数値が低いから、テールナーやヒノヤコマで力押しした方が早い」と言うだろう。だが、ミソラにとって「我が子の可能性」に限界を設けることほど愚かな行為はなかった。
「エネコ、慌てなくていいわ。可愛く、しなやかに――『ねこのて』よ」
ミソラの凛とした声が響く。
エネコがその場で愛らしくくるりと一回転すると、その小さな肉球から、驚くべき技が発動した。――それは、ボックスでお留守番をしているお兄ちゃん、プラスルが持つ強力な電気の技『スパーク』だった。
バチバチと激しい電撃を全身に纏ったエネコが、目にも留まらぬスピードでホルビーの懐へと滑り込む。
「ええっ!? 何だその技!」
「みゃうっ!」
体当たりの衝撃と共に強烈な電撃が炸裂し、ホルビーは一撃でその場に目を回して倒れ込んだ。
「そんな……僕のホルビーが一瞬で……!?」
「なめてもらっては困るわ。この子は私の自慢の家族よ」
ミソラがフッと微笑むと、エネコは嬉しそうに自分のハート型の尻尾を追いかけてくるくると回り、ミソラの足元へ飛び込んできた。ミソラはその小さな頭を優しく撫でてやる。
その後も、宮殿へ向かう一本道で、次から次へと邪魔なトレーナーたちが勝負を挑んできた。
ヤンチャムを繰り出す塾帰り、ナゾノクサを出すお嬢様。しかし、誰一人としてミソラとエネコの敵ではなかった。
ある時はテールナーの技を、またある時はヒノヤコマの俊足を受け継ぐように、エネコは『ねこのて』を完璧に使いこなし、迫りくる対戦相手を次々と、まさに「蹴散らして」いく。可憐で、それでいて圧倒的な無双ぶりに、周囲のトレーナーたちは次第に戦意を喪失し、道をあけていった。
「ふふ、さすがね、エネコ。貴方の強さ、みんなに見せつけられたわ」
「みゃーお!」
エネコは誇らしげに胸を張り、後ろで見守るテールナーやヒトカゲたちからも「やるじゃないか」と称賛の鳴き声が上がる。
道を塞ぐ不届き者たちをすべて退け、視界が開けたその先――ついにカロスの贅を尽くした大建造物、パルファム宮殿の巨大な門がミソラたちの目の前に姿を現した。