アサメタウンの重いゲートをくぐり、ミソラとフォッコは2番道路へと足を踏み入れた。
通称「アバンセ通り」と呼ばれるその道は、美しく整えられた並木道で、葉の隙間から差し込む木漏れ日が、緑の絨毯に斑模様の光を落としている。
「ふふ、気持ちがいいわね、フォッコ」
ミソラの足元で、フォッコが嬉しそうに尻尾を振った。まだ旅に出てから数時間。バトルらしいバトルもしていないけれど、二人で歩くそれだけで、世界が特別に思えた。
そんな穏やかな空気を、小気味よい羽音が揺らした。
パタパタ、と短い間隔で空を打つ音。ミソラが顔を上げると、低い枝の先に、一羽の小さな小鳥ポケモンが止まっていた。
お腹の淡いグレーと、頭部の鮮やかな橙色。ヤヤコマだ。
ヤヤコマは、ミソラたちを警戒する風でもなく、くりくりとした黒い瞳でじっとこちらを見つめていた。その小さな胸をぴんと張って、まるでこの道を通る者を品定めしているかのような、どこか健気で勇敢な佇まいをしている。
「……可愛い。小さな騎士様みたい」
ミソラはその姿に、一瞬で心を奪われた。
世間には、ヤヤコマを「序盤に捕まえられる、ただの飛行要員」として扱うトレーナーも多い。けれど、ミソラにとっては違う。その小さな翼で懸命に風を捉え、自分の縄張りを守ろうとするひたむきな姿に、言葉にできない愛おしさを感じたのだ。
ミソラがそっと近づくと、ヤヤコマは逃げるどころか、羽をパタつかせて小さな鳴き声を上げた。まるで「僕と勝負してよ!」と挑んでいるかのようだった。
「戦いたいのね? いいわ、お相手するわ。フォッコ、お願い」
フォッコが前に躍り出る。最初の本格的な野生ポケモンとの対峙。
ヤヤコマが鋭く滑空し、体当たりを仕掛けてくる。フォッコはミソラの指示を待つまでもなく、身軽にそれをかわし、小さな口から火の粉を放った。パチパチと爆ぜる炎がヤヤコマの目の前をかすめる。
しかし、ヤヤコマは怯まなかった。多少の火の粉など恐れず、何度も何度も、真っ直ぐにフォッコへと向かっていく。その不屈の瞳を見た時、ミソラの心に強い感情が湧き上がった。
(この子は、ただ戦いたいだけじゃない。自分を磨いてくれる、信じられる誰かを探しているんだわ)
野生のポケモンは、時にトレーナーの器を測る。なついてくるなら応えるのが筋。ならば、このひたむきな挑戦に、全力の愛で応えるのがミソラの矜持だった。
「フォッコ、もう大丈夫よ。……ヤヤコマ、貴方のその強さ、私に預けてみない?」
ミソラはバッグからモンスターボールを一つ取り出し、優しく、祈りを込めて投げた。
コロン、と草むらに落ちたボールが、赤く光ってヤヤコマを吸い込む。
小さく、三回揺れる。
ミソラとフォッコは息を呑んでそれを見守った。
――カチリ。
静かな電子音が、2番道路に響く。
ミソラは駆け寄り、草むらからボールを拾い上げると、すぐに胸の前に掲げてボタンを押した。
白い光の中から現れたヤヤコマは、少し疲れた様子だったが、ミソラの手のひらにふわりと飛び乗ると、その小さな頭をミソラの指にすり寄せた。
「ふふ、よく頑張ったわね。よろしくね、ヤヤコマ。貴方は今日から、私たちの家族よ」
フォッコも近寄り、ヤヤコマの羽を優しく鼻先でつつく。ヤヤコマは嬉しそうに胸を張り、高く澄んだ声で鳴いた。
これで、家族は二匹。
ミソラの「大家族」の輪が、またひとつ、温かく広がった瞬間だった。小さな騎士を仲間に加えた一行は、さらにその先の、緑豊かな旅路へと歩みを進めていく。