パルファム宮殿を後にしたミソラたちの前に、夕暮れの赤い光が差し込む6番道路が広がっていた。しかし、一息つく間もなく、並木道の左右からは、行きにエネコに蹴散らされたはずのトレーナーたちが、性銅もなく手持ちのボールを構えて次々と飛び出してきた。
「おい! さっきの勝負はノーカウントだ! もう一回勝負しろ!」
「私の可愛いポケモンたちの仇よ! 行きなさい、ナゾノクサ!」
「本当に……往生際が悪いわね」
ミソラはため息混じりに髪をかき上げると、懐の手持ちのボールを見つめた。
「エネコ、ピカチュウ、まとめて相手をしてあげなさい。ただし、急いでいるから手短にね」
「みゃうっ!」
「ピカァッ!」
二匹が息の合ったステップでフィールドへと躍り出る。エネコが『ねこのて』で再びボックスのプラスルの『スパーク』を引き出し、縦横無尽に電撃を走らせれば、ピカチュウが鋭い『10まんボルト』でそれを補佐する。効率を重視するトレーナーが見れば「同じ電気タイプの技を重ねるなんて無駄だ」と笑うかもしれない。しかし、我が子たちの心が一つになった連係攻撃は、迫りくる対戦相手を瞬く間に圧倒し、再び並木道に静寂を取り戻していった。
「ふう……。さあ、先を急ぎましょう」
ミソラが歩き出そうとしたその時、バトルの喧騒が去った背の高い草むらの奥から、微かに「きゅ、きゅう……」という、震えるような鳴き声が聞こえてきた。
ミソラは足を止め、そっと生け垣の隙間をのぞき込んだ。
そこには、大きな耳を不安げにパタパタと揺らしている、薄紫色の小さなエスパーポケモン――ニャスパーが二匹、お互いに身を寄せ合うようにして丸まっていた。目の丸い方が男の子で、少し目つきがシャープな方が女の子だろうか。そのすぐ隣には、長い縞々の尻尾を自分の体にきゅっと巻き付けた、茶色いオタチが、ニャスパーたちの風除けになるようにして縮こまっている。
三匹とも体に細かな擦り傷があり、どうやら先ほどまで道路で大騒ぎしていたトレーナーたちの激しいバトルの巻き添えを食らい、逃げ惑ううちにここで迷子になってしまったようだった。
「まぁ……可哀想に。こんなに怯えて……」
サナがそっと口元を押さえる。
その時、ミソラの瞳にじわじわと、しかし爆発的な熱が灯った。
怯えて助けを求めているその姿もさることながら、寄り添い合うニャスパー兄妹の小動物のような愛らしさ、そして二人を庇うように丸まるオタチの、ぬいぐるみのような愛くるしいフォルム。その圧倒的な「可愛さ」が、ミソラの胸を容赦なく撃ち抜いたのだ。
世間の数字至上主義のトレーナーなら、「ニャスパーが二匹にオタチが一匹? バトルでの実力もそこそこだし、何より一度に三匹も捕まえたら手持ちの枠が完全に溢れて管理が面倒になるだけだ」と切り捨てるに違いない。
しかし、ミソラの胸にあるのは、そんな冷徹な計算ではない。
助けを求めている命には全力で応える。戦術の数字なんて関係ない。「こんなにも愛らしくて可愛いこの子たちを、私が愛さずして誰が愛するの!?」という、強烈な愛の美学が彼女を動かしていた。手持ちの枠がいくつだろうが、タイプが偏ろうが関係ない。なついてくる命、そして自分の心が「可愛い!」と叫んだ愛おしい存在は、すべて我が家へ迎え入れる。それこそがミソラの絶対的な筋であり、幸福だった。
ミソラは優しく目元を緩め、ゆっくりと草むらにしゃがみ込んで両手を広げた。
「もう大丈夫よ。痛いことも、怖いことも、ここでは何も起こらないわ。……なんて可愛いの、貴方たち。私のところへおいで」
ミソラの呼びかけに応じるように、足元からルリリがトコトコと進み出た。かつて自分も同じように怯えていたルリリは、ニャスパーたちにそっと寄り添い、大きな尻尾をぽんぽんと跳ねさせて「怖くないよ」と伝えている。ヒトカゲも尻尾の炎を穏やかに揺らし、冷えた草むらを優しく温めた。
ミソラの偽りのない温かい気配と、我が子たちの純粋な優しさに触れ、三匹の瞳から次第に恐怖が消えていった。
まず、オタチが長い尻尾を使って器用に立ち上がると、ミソラの指先にそっと鼻を寄せた。それに続くように、ニャスパーの兄妹も、お互いの手を繋いだまま、ミソラの足元へとトコトコと歩み寄ってきた。
「ふふ、よく頑張ったわね。私たちの『大家族』へようこそ。これからは寂しい思いなんて、絶対にさせないからね」
ミソラがそっと差し出した三つのモンスターボールに、オタチとニャスパーの兄妹が、それぞれの小さな前足を同時にぽんと乗せた。
カチ、カチ、カチ。
三つの小気味よい電子音がハモり、彼らはミソラの新しい家族となった。
現在の手持ちは上限の6匹のため、三匹のボールは自動的にポケモンセンターのボックスへと転送されていく。しかし、離れていてもミソラの「可愛い子たちへの愛」は常に無限大だ。これでミソラの大家族は、総勢11匹という、さらに賑やかで愛くるしい大所帯となった。
「ミソラちゃん、本当にすごいね。みんな、ミソラちゃんに会えて本当に救われたんだと思う」
サナが心からの笑顔で語りかける。
「いいえ、私の方がこの可愛い子たちに選んでもらえて幸せなのよ。さあ、ショボンヌ城へ戻りましょう。待っているカビゴンを、今度こそ起こしてあげるためにね」
夕暮れから夜へと移り変わる6番道路。
手に入れた『ポケモンのふえ』と、新しく増えた愛おしい家族たちの存在を胸に、ミソラたちの足取りは、どこまでも誇り高く、力強く、コボクタウンへと続いていくのだった。