ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

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第26話:潮風のセンターと、戦慄の電気ネズミ

 

地つなぎの洞窟を抜け、潮の香りが色濃く漂う海岸沿いの街、コウジンタウンへと到着したミソラ一行。長旅の疲れを癒やすべく、彼女たちがまず向かったのは、お馴染みの赤い屋根が目印のポケモンセンターだった。

ミソラにとって、ポケセンは単に回復を待つ場所ではない。無事に次の目的地へ着いたことを全員で祝い、絆を確かめ合う「スキンシップの聖地」である。

個室の休憩スペースを貸し切った瞬間、ミソラはいつもの凛とした旅人の表情を完全にオフにした。美しい金髪をふわりと揺らし、色白の顔いっぱいに至福の笑みを浮かべて両手を広げる。

「さあみんな、本当にお疲れ様! お待ちかねのモフモフタイムよぉ!」

ポン、ポン、と一斉に開くモンスターボール。

リザード、テールナー、ヒノヤコマ、エネコ、ルリリ、ピカチュウ。いつもは控えにいるプラスルとマイナンの兄妹、ニャスパーの兄妹に、丸々としたオタチ。そして新入りのアブソルまでが室内に一堂に会した。まさに壮観な大家族だ。

 

アブソルは、オスの気高さとクールなプライドを保ち、少し離れた壁際に端然と座り直した。まずはこの大所帯の動向を静かに観察しよう――そう思ったのも束の間、ミソラの怒涛の愛撫が始まった。

「リザード、今日も本当に頼もしかったわ! テールナーもヒノヤコマも偉かったわねぇ。ほら、エネコにルリリ、ニャスパーたちにオタチも、可愛い天使たちはみんなこっちにおいで!」

子どもたちを次々に抱きしめ、頬ずりしていくミソラの姿は、もはやデレデレの極みだ。集まる子どもたちの性別など関係なく、全員を等しく溺愛していく。そして当然、その矛先は新入りの白い影へと向く。

「アブソル! 貴方のあの『つじぎり』、本当に痺れるほど格好よかったわ! ほら、緊張しなくていいのよ、貴方も私の大切な子どもなんだから!」

「シ、シィッ……!?」

がっしりとミソラの腕に抱き込まれ、色白の頬を白い毛並みにすり寄せられる。金髪から漂う甘い香りと容赦のないモフモフに、アブソルは困惑の声を漏らした。

だが、本当の恐怖はここからだった。

 

「ピカァーッ!」

昨日、自分を物理的に機能停止に追い込んだピカチュウが、またしても歓迎の笑顔を浮かべて突撃してきたのだ。ミソラの腕の中にいるアブソルに、退路は無い。

ジジジ……!

案の定、ピカチュウのふっくらとした頬がアブソルの前足にすりつけられ、微弱な電撃が全身を駆け巡る。ピキィン、と再び身体が硬直するアブソル。

(くっ、またこの痺れ……動けん……!)

アブソルが内心で歯噛みした瞬間、目の前へさらに高い声が響いた。

「プラァッ!」「マイマイッ!」

そこにいたのは、今しがたボールから飛び出してきたばかりの、プラスルとマイナンの兄妹だった。新入りのお兄ちゃんがピカチュウに歓迎されているのを見て、この電気ネズミ兄妹も放っておくはずがなかった。

「あ、プラスルにマイナンも、アブソルを歓迎してくれるのね?」

ミソラが嬉しそうに見守る中、赤と青の小さな影が弾丸のようにアブソルの左右へと飛び込んできた。

「プラァ〜〜〜ッ!」「マイィ〜〜〜ッ!」

妹のマイナンがピカチュウに負けない愛らしさで反対側の頬へスリスリ。女の子たちからの怒涛の歓迎にアブソルが完全にキャパシティをオーバーしたその瞬間、トドメとばかりに、兄のプラスルが男の子らしい全力の勢いでアブソルの後ろ足へ飛びつき、ほっぺを激しく寄せつけた。

ジジジジジバチバチバチッ!!!

「シィィィィーッ!?」

ピカチュウとマイナンの女の子たちに挟まれ、さらに同性であるはずのお兄ちゃんプラスルからも容赦ない電撃の祝福を受ける。アブソルの全身の白い毛が見事に逆立ち、群青の瞳は完全に点になった。

背後ではニャスパー兄妹が不思議そうにそれを見つめ、オタチがその光景にトコトコと近づいてくる。

抵抗する術を完全に失い、文字通りピキピキと震えながら固まるしかない新入り男子。そんなアブソルが、痺れる意識の中で必死に叫んだ心の声は、悲痛そのものだった。

(おい……待て……ここにはほっぺスリスリする奴しかいねえのか……!? っていうか、男の子のお前までスリスリしてくるのかよ……!?)

大家族の歓迎の洗礼という名の、あまりにも過剰でカオスな電気ショック。

 

だが、そんなアブソルの心境など露知らず、ミソラは「まぁ! みんなにこんなに歓迎されて、アブソルったら嬉しくて固まっちゃったのね! 可愛いんだからぁ!」と、さらに愛おしそうにその体をぎゅーっと抱きしめ、心底幸せそうに笑うのだった。

コウジンタウンの海の風が窓から優しく吹き込む中、アブソルは「この家族で生き残るには、まず電気耐性をつけねばならない」と、固まった身体の奥で静かに、そして涙ぐましく誓うのだった。

 

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