コウジンタウンのポケモンセンターで、新入りのアブソルを交えた激しいスキンシップを終えた、その翌朝。
ミソラはいつものように凛とした佇まいで、海風が心地よいロビーのソファーに腰掛け、優雅に紅茶を嗜んでいた。その足元では、昨日の過充電からようやく復活したアブソルが、まだ少しピカチュウたちの気配に怯えながらも、クールを装って静かに控えている。
(今日も良い天気ね。子どもたちと次はどこへ行こうかしら……)
ミソラがそんなのどかな思索に耽っていると、ポケセンの入り口や受付のあたりから、何やらヒソヒソとした視線を感じることに気づいた。通りすがる若いトレーナーたちが、ミソラとアブソルの姿を見ては「あ、あの動画の……!」「本物だ、可愛い……」などと顔を見合わせている。
「……あら?」
ミソラが怪訝そうに首を傾げた、その時だった。
「お、おいミソラ! 大変だぞ、これを見ろ!」
慌てた様子で走ってきたのは、ホロキャスターを片手にしたカルムだった。その後ろからトロバとティエルノも、驚きを隠せない表情で追ってくる。
「どうしたの、カルム。朝からそんなに血相を変えて」
「これだよ! 今、カロスの『トレーナープロモ・ネットチャンネル』で、ものすごい再生数になってる動画があるんだ。……お前、いつの間にプロモの撮影なんかしたんだ?」
カルムが差し出してきたホロキャスターの画面を、ミソラは覗き込んだ。そこには、昨日ふれあいコーナーで繰り広げられたあの光景が、驚くほど高画質な映像で映し出されていた。
『【衝撃】美しすぎる金髪トレーナーの、手持ちへの愛が深すぎて尊い件【新入りの洗礼】』
そんな大層なタイトルがついた動画を再生すると、そこには、いつもの気高くクールな旅人の面影を完全に消し去り、色白の顔を極上の笑顔にして手持ちたちをデレデレに撫で回すミソラの姿と、電気ネズミたちに熱烈なスリスリを敢行され、全身の毛を逆立たせてピキピキに完全ノックアウトされているアブソルのドアップがバッチリ映っていた。
画面の下には、ものすごい勢いでコメントが流れていく。
『お姉さんのデレっぷり最高すぎる』
『アブソルの顔wwww完全におもちゃにされてるwww』
『電気ネズミたちのコンビネーション完璧だな、これぞ電気縛り』
『アブソルのプライドが死んだ瞬間』
「これ、昨日コウジンタウンに泊まってたミアレシティのプロモ制作会社のスタッフが、持ち込み機材のテストでふれあいコーナーの様子を記録してたらしいんだよ。あまりにも微笑ましかったから、おすすめの日常風景としてネットの公式チャンネルにアップしちゃったみたいで……」
トロバが眼鏡を指で押し上げながら、解説する。
「まさか一晩でここまでバズるなんてな! ミソラちゃん、今やカロス中のネットユーザーの間で『ギャップ萌えのカリスマ』って呼ばれてるよ!」
ティエルノが楽しそうに手拍子を打つ。
カルムはというと、動画の中のデレデレなミソラと、自分の前で見せる「お友達」としての完璧な一線のギャップに、どこか複雑そうな顔をして帽子を引っ込めていた。
ミソラはしばらく無言で画面を見つめていたが、やがてふぅ、と小さくため息をつき、いつもの優雅な微笑みに戻った。
「まぁ……世間の人たちが、うちの可愛い子どもたちの魅力に気づいてくれたのなら、悪い気はしないわね。アブソルのあの可愛い表情がカロス中に広まったのは、少し可哀想だけれど」
(シ, シィッ……!?)
アブソルは、自分のあの情けない硬直顔がカロス地方全土に配信されたと知り、今度こそ絶望に打ちひしがれて床に伏した。心なしか、白い耳が恥ずかしさで赤くなっている。
「でも、これで街を歩くのが少し賑やかになりそうね。さあ、みんな。有名人になっても、私たちのやるべきことは変わらないわ。次の場所へ出発しましょう」
ミソラは紅茶を飲み干すと、スッと凛々しく立ち上がり、何事もなかったかのように歩き出した。ネットでの狂騒など、彼女の揺るぎない美学の前には些細なノイズに過ぎないのだ。
ただ、背後で「ピカァッ!」「プラァ!」と、動画の反響を知って調子に乗る電気ネズミたちの気配を感じ、アブソルだけは(もう二度と、あの動画のような目に遭ってたまるか……!)と、よりいっそう電気耐性特訓への決意を固くするのだった。