コウジンタウンの代名詞とも言える『化石研究所』。そこで気の遠くなるような太古のロマンに触れたミソラたちは、研究所の助手の言葉に従い、さらなる発見を求めて街の外れにある『輝きの洞窟』へと足を運んでいた。
そこは、通常の洞窟とは一線を画す、幻想的な場所だった。薄暗い岩肌のあちこちに埋め込まれた色とりどりの鉱石が、まるで星空のように淡い光を放ち、ミソラたちの行く道を美しく照らし出している。
現在のミソラの手持ちは、リザード、テールナー、ヒノヤコマ、エネコ、ルリリ、そしてアブソルの6体。
前夜、ポケモンセンターで自分を物理的に機能停止に追い込んだあの恐怖のピカチュウやプラスル&マイナン兄妹たちは、今回はボックスでお留守番だ。アブソルは歩きながら、内心で(……よし、あの黄色い悪魔どもはいないな)と、かつてないほどの安堵感を噛み締め、いつになく足取りも軽くクールな佇まいを保っていた。
幻想的な光に満ちた一本道をさらに奥へと進み、鉱石の輝きが一段と強くなる広間へと差し換かった、その時だった。
カラン、と乾いた岩の音が、静かな洞窟内に響き渡る。
「――シィッ!」
アブソルが鋭い声を上げてミソラの前に躍り出た。今度こそお留守番の奴らに負けない新入りの威厳を見せんとばかりに、その漆黒の角を前方の暗がりに向ける。
鉱石の光が届かない岩陰から、トコトコと小さな足音を立てて姿を現したのは、一匹の小柄なポケモン――クチートだった。
頭部の後ろから伸びる巨大で頑丈な『あご』をガチガチと威嚇するように鳴らし、鋭い牙をギラリと光らせている。
だが、それだけではなかった。クチートが威嚇する背後の暗闇から、地響きのような重い足音が響き、さらに巨大な影がヌッと姿を現したのだ。
お腹のポケットに可愛い赤ちゃんを入れ、鋭い眼光でこちらを睨みつける、大迫力の母の姿――ガルーラだった。
洞窟に迷い込んだ人間を警戒し、クチートとガルーラが完全に臨戦態勢をとる。リザードたちが身構える中、ミソラはそっと手を挙げてそれを制した。ミソラの真っ直ぐな瞳が見つめていたのは、その恐ろしい牙や巨体の威嚇ではなく、暗い洞窟の中で寄り添って生きてきた二体の、どこか寂しげな絆だった。
「驚かせてごめんなさいね。私たちは貴方たちと戦いに来たわけじゃないのよ」
ミソラは一歩、また一歩と、噛み砕くあごの恐怖も、ガルーラの圧倒的な体躯も恐れることなく、その色白の美貌にいつもの温かい微笑みをたたえて近づいていく。
「こんな暗くて静かな場所で、ずっと寄り添って戦っていたのね? ……本当に立派で、格好いいわ。でも、もうそんなに無理をして虚勢を張る必要はないのよ」
「クチ……ッ!?」
「ガル……?」
二体の動きがピタリと止まる。
今まで出会った人間たちは、恐怖して逃げ出すか、力ずくで捕らえようとする者ばかりだった。しかし、目の前の金髪のトレーナーは、ただ純粋な愛おしさを向けてきている。ミソラは二体の目の前でそっと両手を広げた。
「私たちの大家族に来て、もっとたくさんの温もりを知ってみない? 貴方たちのその強さで、私たちの旅を支えてほしいの」
ミソラの金髪から漂う甘い香りと、その圧倒的な母性に包まれ、クチートの巨大なあごがゆっくりと地面へと降り、ガルーラもその鋭い表情を驚くほど優しく緩めた。そして、吸い寄せられるようにミソラの元へと歩み寄る。
「ふふ、ようこそ。新しい私たちの可愛い子どもたち!」
ミソラは嬉しそうにクチートを抱き上げると、その鋼のあごを怖がるどころか「まぁ、触るととっても冷たくて気持ちいいわねぇ!」と頬ずりし、さらに隣のガルーラの大きな身体にも「貴方も本当によく頑張ったわね!」と、ぎゅーっと大満足の笑顔で抱きついた。
その様子を少し後ろで見つめていたアブソルは、新しい家族の誕生にホッとしつつも、ガルーラのあの圧倒的な巨体とパワーを見て、ふとある恐ろしい可能性に行き当たった。
(待てよ……。あの黄色い奴らの電気ショックが激痛なのは言うまでもないが……もし、あのガルーラに全力で『スキンシップ(物理)』をされたら、俺の身体は文字通り消し飛ぶのではないか……?)
ピカチュウがいない解放感から一転、新しく加わった重量級の母の威圧感に、アブソルは再び(この家族で生き残るには、電気耐性だけでなく物理防御も高めねばならんのか……)と、固まった身体の奥で静かに、そして涙ぐましく新たな戦慄を覚えるのだった。