幻想的な鉱石の光が遮られ、不気味なほどの闇が広がる『輝きの洞窟』の最奥部。
ガルーラとクチートという心強い家族を迎えたのも束の間、洞窟のさらに奥から、何やら不穏な話し声と、野生ポケモンたちの怯える鳴き声が響いてきた。
「ふふん、この化石をすべて回収すれば、我らがフレア団の崇高な目的のための資金源になるのだ……」
暗がりに現れたのは、全身を悪目立ちする真っ赤なスーツと、奇妙な形のサングラスで包んだ怪しげな男女だった。彼らは化石を乱暴に掘り返し、周囲の野生ポケモンたちを脅しつけている。
「な、何かしらあの趣味の悪い格好の人たちは……! ポケモンたちをいじめるなんて許せないわ!」
ミソラが気高く凛とした声を響かせると、フレア団の男が邪悪にニヤついた。
「なんだァ? 迷い込んできたガキか。我々の邪魔をするなら、容赦はしないぞ! 行け、ヘルガー!」
「ヤミカラス、やっちまいな!」
繰り出されたのは、鋭い牙を持つヘルガーと、不気味に羽ばたくヤミカラス。不意の戦闘、しかも狭い洞窟内での2対1の状況に、リザードたちが身構える。
だが、その前に一閃、白い疾風が躍り出た。アブソルだ。
(……ここはお留守番の黄色い奴らも、新入りのガルーラもいない。ならば、俺が主(あるじ)を守る!)
アブソルは群青の瞳を鋭く光らせ、漆黒の角を突き出す。かつてないほどに、その全身から「オスの気高さ」とクールなプライドが満ち溢れていた。
「アブソル……! ええ、貴方に任せるわ、戦闘開始よ!」
「ヘルガー、『かえんほうしゃ』だ!」
「ヤミカラス、『つばめがえし』!」
激しい炎と、鋭い風を伴った突撃がアブソルを襲う。しかし、アブソルは抜群の反射神経で岩肌を蹴り、空中へと身を翻してそれらを紙一重でかわした。漆黒の角に、禍々しくも美しい悪のエネルギーが収束していく。
「一気に決めるわよ、アブソル! 『つじぎり』!」
「シィッ……!!」
闇を切り裂く白い閃光。アブソルが目にも留らぬ速さで駆け抜けた瞬間、ヘルガーとヤミカラスの身体を鋭い一撃が捉えた。凄まじい威力に、フレア団のポケモンたちは一瞬で戦闘不能に陥り、地面へと崩れ落ちる。
「な、なんだあの強さは……!? まるで刃物だぞ!」
「ひ、ひえぇーっ! 覚えてろ!」
アブソルたった一匹の圧倒的な実力を前に、フレア団の密猟者たちは命からがら暗闇の奥へと逃げ去っていった。
「やったわ、アブソル! 本当に格好よかったわよ!」
ミソラが嬉しそうに駆け寄る。アブソルはふっと息を吐き、フサフサの体毛を張って(フッ、これぞ俺の真の実力よ……)と、クールに勝利の余韻に浸ろうとした。
その時だった。ミソラの足元にいた、一番小さな女の子――ルリリの身体が、突然まばゆい純白の光に包まれたのだ。
「えっ……? ルリリ!?」
大家族の最年少として、いつもミソラやみんなの愛情を一身に受けていたルリリ。大好きなミソラを守るために戦うアブソルの背中を見て、そして大家族の中で育まれた深い「なつき」の情が、ついに極限に達したのだ。
光のなかで、ルリリの小さな身体が少しだけ大きくなり、耳が丸く、長く変化していく。やがて光が収まると、そこには水色のみずたま模様の身体をした、愛らしいマリルが佇んでいた。
「マリル……! 進化したのね!」
「マリルン!」
嬉しそうに声を上げたマリルは、進化して格段に増したパワーのまま、喜びを行動で表現した。トコトコと勢いよく駆け出すと、一番近くにいたアブソルへと、満面の笑みでダイレクトに飛びついたのだ。
「マリル〜〜〜〜ッ!!」
バキバキバキッ!!!
「シ、シィィィィーッ!?」
進化して格段に跳ね上がったマリルの「物理的な怪力」。それは、ピカチュウたちの電気ショックとはまた違う、文字通り骨が軋むほどの重量級の愛情表現だった。最高にクールに決めたはずのアブソルだったが、マリルの全力ハグによって再び身体をくの字に曲げ、目から光を消してピキピキと固まるしかなかった。
そんな新入りの哀れな(しかし微笑ましい)姿を、少し後ろからじっと見つめている視線があった。
旅の先輩である男子チーム――リザード、テールナー、ヒノヤコマの3体である。
リザードは腕を組みながら、フッと鼻から小さな炎を漏らして「フッ、いい根性してるじゃねえか、新人」とニヤリと笑い、テールナーは手にした木の枝で自分の肩をトントンと叩きながら「お疲れ、ドンマイ」と言わんばかりに生暖かい目を向けている。ヒノヤコマにいたっては、翼をパタパタとさせて「がんばれー、がんばれー」と完全に他人事のようにエールを送る始末。
彼らもまた、ミソラの狂おしいほどの愛情と、女子メンバーたちの無邪気なスキンシップの嵐を潜り抜けてきた猛者たちなのだ。アブソルの洗礼を、親愛を込めた「ガンバー」の視線で見守っていた。
背後では、ガルーラが「あらあら、本当に仲が良いのね」と言わんばかりに優しく微笑み、ミソラも「まぁ! マリルったら、守ってくれたアブソルにお礼のハグをしてるのね! 尊いわぁ!」と、さらに二人をまとめてぎゅーっと抱きしめてデレデレに笑うのだった。
(……電気耐性、物理防御、締め技への耐性。そして……あの先輩男子どものあの余裕そうなツラ……!)
アブソルは、幸せな重圧のなかで白目を剥きながら、先輩たちの生暖かい視線に無言の抗議を送りつつも、この底なしの愛の深さにまたしても涙ぐましい誓いを立てるのだった。