ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

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第30話:赫き残党と、太古の海からの贈り物

 

フレア団の密猟者をアブソルが鮮やかに退けたのも束の間、洞窟のさらに最奥、鉱石が怪しくきらめく巨大なドーム状の広場へと足を踏み入れたミソラ。そこには、先ほどよりも明らかに格上の雰囲気を纏った、フレア団の幹部らしき男女が待ち構えていた。

「チッ、手下が不覚を取ったようだな。だが、我らフレア団の資金源となる化石は、一枚たりとも渡さん!」

「その通りよ! 邪魔をするなら、ここでまとめて消し去ってあげるわ!」

相手が繰り出してきたのは、鋭い牙を剥くグラエナと、毒々しいトゲを持つハリーセン。強敵を前にミソラが身構えたその時、背後から力強い足音が響いた。

「待ちなよ、ミソラ! ――遅れて悪かった、ここからは俺も戦う!」

駆けつけたのは、ホロキャスターのバズり動画を見て以来、ミソラに対して少し複雑な視線の防波堤を築いていたカルムだった。しかし、バトルとなればその瞳には鋭い闘志が宿っている。

「カルム! ええ、心強いわ。行きましょう!」

「頼むぜ、ニャオニクス! ミソラ、息を合わせるぞ!」

こうして、不気味な洞窟の奥でフレア団との激しいダブルバトルが幕を開けた。

 

ミソラが前に立たせたのは、先ほどの戦闘で(主にマリルからのハグで)満身創痍になりつつも、オスのプライドをかけて再び立ち上がったアブソルだ。

「グラエナ、『かみくだく』!」

「ハリーセン、『どくばり』をばら撒きなさい!」

「ニャオニクス、『サイコキネシス』でハリーセンの動きを止めろ!」

カルムの的確な指示が飛び、ニャオニクスが放つ青い精神エネルギーがハリーセンを縛り付ける。

「今よ、アブソル! 先ほどの鋭さでもう一度――『つじぎり』!」

ミソラの凛とした声が洞窟内に響き渡る。

「シィッ……!!」

アブソルはハリーセンの放ったどくばりを紙一重のステップですべて回避すると、ニャオニクスが作った隙を逃さず、目にも留らぬスピードでグラエナとハリーセンの死角へと回り込んだ。

その刹那、アブソルが生まれ持つ天性の資質――特性『きょううん』が完全に覚醒する。

狙わずとも敵の最も脆い部分がハッキリと見えた。漆黒の角が闇の中で放った鋭い軌跡は、二体同時の『急所』へと狂いなく吸い込まれていく!

ドガァァァン!!!

凄まじいクリティカルヒットの衝撃波とともにフレア団のポケモンたちが消し飛び、岩肌に叩きつけられて一撃で戦闘不能となった。

「な、なんだあの強さは……!? 全部の攻撃が急所に当たってやがる、撤退だ!」

幹部たちは捨て台詞を残し、慌てて洞窟の闇の向こうへと逃げ去っていった。

「ふぅ……やったな、ミソラ。アブソルの動き、キレキレじゃないか」

カルムが息を整えながら、感心したようにアブソルを見る。アブソルはフサフサの体毛を張り、(フッ、当然だ。俺の特性は『きょううん』。勝利の女神は常に俺の後ろにある……)と、今度こそ完璧にクールなドヤ顔を決めてみせた。

 

そんなバトルの狂騒が静まり返った広場の奥から、「素晴らしいバトルでした!」と拍手をしながら、一人の男性が姿を現した。彼こそが、フレア団に襲われていた化石研究所の助手だった。

「お怪我はありませんか?」

ミソラが心配そうに駆け寄ると、助手は何度も首を振って感謝を述べた。

「ええ、皆さんのおかげで助かりました! 本当にありがとうございます。これは、私がここで見つけた大切な化石です。ポケモンをあれほど大切に育てられている貴方に持っていてほしい」

そう言って助手がミソラの手のひらにそっと乗せたのは、うっすらと青い輝きを残した、不思議な扇形の岩――『ヒレのカセキ』だった。

「これは……太古の海のポケモンのカセキね。ありがとうございます、大切にするわ」

ミソラが愛おしそうに化石を抱きしめると、一行は助手と共にコウジンタウンの化石研究所へと戻ることにした。

 

 

研究所に到着すると、さっそく大がかりな復元装置へと『ヒレのカセキ』がセットされた。

ブゥーンという重低音とともに装置が光を放ち、カセキに眠っていた数億年前の遺伝子が、現代の技術によって再び命を吹き込まれていく。

プシューッ、とカプセルから白い蒸気が立ち上り、光が収まったその中心に、小さな影が現れた。

「アマァ……?」

水色と紺色の鮮やかな身体に、まるで夜空の星のような美しい鰭(ひれ)を持った、小さなアマルスがそこにいた。生まれたてのアマルスは、大きな瞳をパチパチとさせながら、目の前にいるミソラをじっと見つめている。

「まぁ……! なんて神秘的で可愛い子かしら……!」

ミソラの母性メーターが瞬時に限界値を突破した。

いつもの凛とした旅人の仮面は一秒で剥ぎ取られ、色白の顔をこれ以上ないほどの至福の笑みで満たすと、アマルスを優しく、しかし全力でぎゅーっと抱きしめた。

「ようこそ、私たちの新しい可愛い子ども! ずっと待っていたわよぉ!」

「アマル〜〜ン!」

ミソラの金髪の甘い香りと無条件の愛情に包まれ、生まれたてのアマルスは嬉しそうに鳴き声を上げ……その瞬間、嬉しさのあまりアマルスの身体から冷涼な冷気がブワッと一気に吹き出した。特性『フリーズスキン』による、無自覚な氷の世界の顕現である。

 

キンキンと音を立てて、研究所の床や壁がみるみるうちに白く凍りついていく。

「ぶ、ぶるっ……! 急に冷えてきたぞ……!?」

カルムが腕を震わせる中、その冷気の直撃を、アマルスのすぐ後ろで「これで俺の威厳も保たれた」と油断していたアブソルが、ダイレクトに浴びてしまった。

ピキィィィィン……!!!

「シ、シィィィィーッ!?」

アブソルの美しい白い毛並みが、一瞬にしてカチカチの霜に覆われ、群青の瞳が再び点になって凍りつく。電気ショック、物理ハグに続き、今度は「絶対零度寸前の凍結」という新しいタイプの洗礼がアブソルを襲った。

そんなカチコチになったアブソルを、後ろから見ていたリザードが、呆れたように鼻からふんと煙を吐いた。

テールナーとヒノヤコマも「今度は氷かぁ」「ガンバー」と相変わらず生暖かい目を向けていたが、そこからの行動は早かった。ミソラが「まぁ! アマルスったら、嬉しくてお部屋を涼しくしてくれたのね! 良い子ねぇ!」とアマルスに夢中で周りが見えていないのを察し、二体は「しょうがねえな」と肩をすくめて自発的に動き出した。

 

リザードが素早くアブソルの足元へ歩み寄り、尻尾の炎を近づけてじんわりと床の氷を溶かす。同時に、テールナーが手にした木の枝の炎をふっと扇いで、アブソルの身体に心地よい温風を送ってやった。ヒノヤコマもその風を羽ばたきで優しく循環させる。

「シ、シィ……」

炎タイプの先輩たちの迅速かつ手慣れたレスキューにより、アブソルの氷はみるみるうちに溶け、カチコチだった身体に血の気が戻っていく。アブソルは先輩たちに小さく会釈し、旅の仲間たちの確かな絆(と、これまでの苦労の歴史)を肌で感じるのだった。

ミソラの胸の中で、新入りのアマルスが嬉しそうに目を細めている。

 

アブソルはガタガタと震える身体の奥で、静かに涙を流しながら絶望していた。

(おかしい……。俺の特性は『きょううん』のはずだ。バトルであれだけの急所を引き当てておきながら……なぜ日常に戻った瞬間、電気ネズミの包囲網、マリルの全力ハグ、そして生まれたてのアマルスのフリーズスキンをすべて初手かつゼロ距離で引き当てる、この『狂った引きの強さ(不運)』になるんだ……!?)

生き残るために必要な属性耐性の多さに戦慄しつつ、自分の『強運』の使いどころが完全にバグっている事実に頭を抱えるアブソル。そんな新入りを、先輩男子チームは「それがこの家族の洗礼だ、慣れろ」と言わんばかりの温かい(生暖かい)目で見守るのだった。

 

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