ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

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第32話:潮風を駆ける輪舞曲と、家族になった黄色い閃光

 

砂浜での強烈な洗礼を乗り越え、ミソラ一行はようやく起伏に富んだ岩肌と美しい海岸線が織りなす街、ショウヨウシティへと到着した。

この街でミソラは、旅の利便性を大きく高める素晴らしいアイテムを手に入れる。輝くスタイリッシュなフォルムの『自転車』だ。

「これで大家族のみんなともっと遠くまで、風を切って走れるわね」

次のジム戦を前に、ミソラは慣らし運転と気分転換を兼ねて、街の郊外にある緩やかな丘道へと自転車を走らせることにした。

お供として連れ出したのは、マリルリの重戦車ハグからようやく腰の痛みが引いたばかりのアブソルだ。主の乗る自転車の横を、白い毛並みをなびかせながら並走する姿は、どこからどう見ても高貴な守護獣そのものである。

海からの向かい風を受け、自転車のペダルを軽快に漕ぐミソラ。アブソルもまた、(フッ、これだ。こういう静かで洗礼のない時間こそ、俺にふさわしい……)と、心の中で穏やかな満足感を噛み締めていた。

しかし、カロス大家族記の「日常」が、彼をただのクールな守護獣で終わらせるはずがなかった。

 

「エモ〜〜ッ?」

突如、頭上の木々の隙間から、黄色いお調子者の鳴き声が響いた。

ミソラが自転車を止め、アブソルが警戒して見上げた先――そこには、パッチリとした大きな瞳に、小悪魔的な愛らしさを纏った野生の『エモンガ』が、リズミカルに尾を振って木に止まっていた。

「あら……! エモンガね! なんて愛くるしい女の子なのかしら……!」

ミソラの母性センサーが秒で最大出力を感知する。自転車を降り、いつもの凛とした表情を瞬時に蕩けさせ、両手を広げてエモンガを見つめた。

「おいで、可愛い子! 私たちの新しい家族になりましょう。怖がらなくていいのよぉ!」

その熱烈な歓迎(デレ)に、人懐っこくおませなエモンガはすっかり気を良くしたらしい。「エモエモ〜!」と嬉しそうに鳴くと、木から飛び立ち、滑空しながらミソラの元へと一直線に……向かうかと思いきや。

着空地点の予測を少し誤ったのか、あるいはミソラの背後に佇む「フサフサで最高に座り心地の良さそうな白い体毛」に目を奪われたのか。エモンガは、ミソラのすぐ横で完全に「ただの壁」として油断していたアブソルの顔面めがけて、もの凄いスピードでダイレクト着空(衝突)した。

 

ベチャッ!!!

「シッ……!?」

アブソルの鼻先に、エモンガの小さな身体が完璧なホールドで張り付く。そして、女の子らしい甘え上手なエモンガは「よろしくね、お兄ちゃん!」と親愛の情を込めて、自分の放電器官である黄色い頬を、アブソルの鼻頭へと全力で擦りつけた。

そう、エモンガの恐怖の挨拶――『ほっぺすりすり』である。

バリバリバリバリッッッ!!!

「シ、シィィィィーッ!!!」

アブソルの全身の白い毛が、まるで静電気の実験のごとく全方位に逆立ち、群青の瞳が完全に白目を剥いて硬直する。これまでのトラウマがフラッシュバックするが、今回は「ゼロ距離かつ鼻先へのダイレクト電気すりすり」だ。

 

エモンガが「エモッ?」と満足してアブソルの顔から飛び退いた瞬間、アブソルは全身から紫色の火花をパチパチと散らしながら、ロボットのような不自然な動きで砂利道へと盛大にぶっ倒れた。もちろん、身体は1ミリも動かせない『まひ』状態である。

そんな哀れな新入りの姿を、影から見守っていた旅の先輩たち――リザード、テールナー、ヒノヤコマは、誰も驚きすらしなかった。

リザードは「おいおい、また電気かよ。あいつ学習しねえな……」と呆れたように鼻を鳴らし、テールナーは手慣れた手つきで『まひなおし』のスプレーを取り出し、ヒノヤコマはパタパタ羽ばたきながら、完全に「いつものこと」として自発的かつ迅速な救護体制に入っていた。彼らにとって、アブソルが何かしらの属性被害に遭うのは、もはやデイリーミッションのようなものである。

「まぁ! エモンガったら、アブソルに熱烈なご挨拶をしてくれたのね! 二人ともすっかり仲良しさんで行き気が合っちゃって、本当に微笑ましいわぁ! ようこそ、私たちの可愛い新しい子ども!」

ミソラが嬉しそうにエモンガを抱きしめて頬ずりする傍らで、テールナーのスプレーを浴びてようやく指先がピキピキと動き出したアブソルは、地面に伏したまま天を仰いで血の涙を流した。

 

(またか……。またなのか……!!)

アブソルは、麻痺で震える己の爪を見つめながら、己の理不尽な運命にガチで絶望していた。

(おかしい……絶対にバグっている……。俺の特性は『きょううん』……。バトルになれば、どんな強敵の急所も100%ぶち抜く『強運』の申し子のはず……。なのに、なぜ日常に戻った瞬間、ミアレの電気包囲網、マリルリの重量ハグ、アマルスの絶対零度、そしてこの新しい妹の『100%まひ付与・ほっぺすりすり』を、寸分の狂いもなくピンポイントで引き当てちまうんだ……!?)

しかも、エモンガが正式に大家族に加わったということは、この電気の洗礼が「日常(レギュラー)」になることを意味していた。

「俺のきょううんは、不運の『凶運』なんじゃないか……?」という根深いゲシュタルト崩壊を起こしつつ、テールナーに抱き起こされるアブソル。新入りのエモンガが嬉しそうにミソラの肩で弾ける中、アブソルのショウヨウシティでの受難(耐久値特訓)は、さらに深度を増していくのだった。

 

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